「あけましておめでとうですっ!」
「皆、あけましておめでとう〜」

1月1日、元旦。
新年を迎えてまだ2時間と経たぬというのに、その敷地は人で埋め尽くされていた。
年末最後の天気予報は、どの番組のキャスターの言葉も『残念ながら……』で始まるものばかりだったが、幸運にも、この街の夜空には星が幾万と輝いていた。
この分なら、初日の出も見れるだろうか。
クドリャフカと小毬の威勢の良い声を耳に入れ、神社の異常な混雑具合にやや辟易としながら、葉留佳は数刻後の絶景に期待を馳せた。

「よぉ、あけましておめでとう」
「恭介さん、おめでとう〜」

白い息を人混みにかき消されながら、恭介が3人の下へとやってきた。
リトルバスターズの新年最初のミッションは、『初詣』に行く事。
ミッションと呼べるものなのかは疑問ではあるが、『どれも等しくミッション』だとするのならば、初詣も当然それに該当するのだろう。
その言葉を生み出したこの集団ならば、なおさら。
ちなみに、年越し直後ではなく、若干遅めの集合なのは、単なる恭介の気紛れだった。

「おめでとうなのですっ、恭介さんっ」
「おめでとうですヨ、恭介くん」
「あぁ、おめでとう」

夜更かししているからだったり元旦だからだったりと、色々な理由が入り混じって否応にもテンションが鰻上りに上昇している2人に対し、恭介は至ってクールに応対した。
片手を上げて軽く笑うその立ち振る舞いは、高校生としては大人びていた。
常人とは発想がおかしい事には異論を挟む余地はなかったが、そんな大人っぽい仕草を自然にこなす恭介はやはり格好良く見えるのだろうと、2人とは違い若干の冷め具合を見せる葉留佳は、胸中でひっそりとそんな事を思っていた。

「それにしても……やっぱり、凄い人だな」
「そうですねぇ……」
「気を抜いたら迷子になっちゃいそうだよ〜」

自然と、4人の視線が神社へと移る。
石垣の長い階段を登り終えた、神社の入り口でたむろしている4人の位置からは、初詣という行事がどれ程の人気、重要性、慣習なのかを理解するには十分な光景が広がっていた。
老若男女、ありとあらゆる人が、新たな365日という長い時間の気運を祈願すべく、神を祀る社へと赴く。
普段は全くもって用事はないであろうこの場所に、今日この一時だけは、初売りのデパートすらも凌駕する人が集まっていた。
雑踏に注目すれば、彼らと同じ学校に通う生徒達の顔もちらほらと見て取れる。
寮で暮らしている生徒達の顔ぶれも、だ。
現在の時刻は明らかに高校生が外出するには不適切な時間帯ではるが、やはり今日……つまり、元旦だけは、教師陣も目を瞑っているらしかった。
最も、あちこちにその教師達の姿も発見できる辺り、監視の目だけは休めていない様だったが。

「やぁ諸君。あけましておめでとう」
「ゆいちゃんおめでとう〜」
「姉御、おめでとうデスヨ!」

続いて現れた唯湖に、4人が十数回目の新年の挨拶を交わす。
ひっそりと現れた彼女だったが、黒のコートの下からすらりと見える生足は、恭介とはまた違ったベクトルの大人っぽさを醸し出していた。
黒いブーツに黒いコートと、葉留佳は一瞬『黒っ、黒いっす姉御!』とツッコミかけたが、その妖艶さを前に出かけた言葉は喉下で消えうせ、その代わり出てきたのは、感嘆の、白い溜め息だった。
自分のファッションセンスに自信がないわけではなかったが、唯湖の様なエキゾチックな雰囲気を出せそうにない自分はまだまだコドモだなと、葉留佳は新年の最初の目標を見出していた。
そして、コートの上からでも容易に見て取れる首下の豊かな2つの膨らみを見て、クドリャフカは自分の目標がこの1年では達成できないかもしれないと、年が明けてわずか2時間足らずで挫折しかけていた。

「うむ、今日はめでたい日だ。いつも以上に楽しく過ごそうではないか」
「そうですっ。まずはおみくじですっ、これで1年の私の運気が決まりますっ」

唯湖の言葉に、クドリャフカがむんっ、と握りこぶしを作った。
それを見やりながら、唯湖は何事かを思いついたのだろう……口のニヤケを隠そうともせず、唇を歪めながら、口を開いた。

「そうだな……やはり、めでたいからな。私は、わかめ酒なんて芸でも見てみたいところだ」
「わかめざけ?」
「何それゆいちゃん」

かかった。
唯湖は2人の反応に、笑みを一層深くした。
リトルバスターズきってのお子様2人の反応を予想する事は、唯湖にとって容易以外の何物でもなかった。
そして、唯湖の思惑も2人同様あからさま過ぎるが故に、葉留佳はこの先の展開を十手程読み進めていた。

「ちょ、姉御、元旦なんだから、それはさすがに……」
「わかめ酒?なんだ、くるがやは酒を飲むのか?」
「おぉ鈴君、良い所に来た」
「り、鈴ちゃんっ!」

なんてタイミングの悪いっ。
純粋素朴な人間がもう1人現れてしまった事に、葉留佳は歯噛みした。
そもそも唯湖を止められる人間などそうそういるわけもなく、葉留佳の必至の抵抗も、ありきたりな例で言えば、象に蟻が立ち向かう様なものだった。
そして、天然娘3人の集結。
珍しく悪ノリしない葉留佳だったが、それが悪かったのか。
つけ入る隙は、もう、どこにもなかった。
少なくとも、葉留佳の脳内はその結論で満場一致で可決となっていたのだった。

「ふむ……口では説明しづらいな。というわけで、君達にじっせ―――」

ぽんぽんっ。

葉留佳の描いた、絶望的なシナリオ通りに行くかと思われたその時、唯湖の肩を叩く人物が1人。
言葉を途中で引き下げ、唯湖が首だけを後ろへと向けた。

「……おや、理樹君じゃないか」
「おぉ、理樹くんっ」

その人物は、理樹だった。
どうしてこうも神出鬼没なメンバーばかりなのかと問いたいが、そこは人が多すぎて周りがよく見えないという事にしておこう。
とにもかくにも、唐突に現れた理樹に、葉留佳は目を輝かせた。

理樹くんなら……理樹くんなら、何とかしてくれる!

メンバー髄一のツッコミ役の理樹に、葉留佳の寄せる期待は大きかった。
そして、その理樹が唯湖に対し、重々しく口を開いた。

「来ヶ谷さん……」
「何だね理樹君。今私はとある目的のために忙しいのだが」
「その事についてだけど……本当に、鈴達に、やらせようとしてるの?」
「もちろんさ。可愛い女の子達がわかめ酒……脳裏に思い描くだけで、素晴らしいじゃないか」

綺麗な星空を見上げ、唯湖は顔を赤らめながら艶かしい声を上げる。
相変わらず天然娘達は小首を傾げるばかりだったが、その仕草も、唯湖の激情を高めるばかりだという事に彼女達が気づく可能性なんて、誕生日まで生きられないと言われたアイスクリーム好きの少女が助かる可能性くらい、なかった。
濃紺の空を、桃色に染め上げんばかりに顔を蒸気させる唯湖に対し、理樹は力なく首を振り、唯湖の体を無理矢理鈴達の方へと向かせた。

「よく、しっかりと考えてよ、来ヶ谷さん。ほら、鈴達を見てさ」
「むっ、私の作戦のどこに不備があると…………はっ!?」
「わかって、くれた?」
「ま、まさか……」

先程のだらけた表情が、瞬く間に凍りついた。
それは、彼女の思惑が崩れ去った事を意味しているという事に、葉留佳は瞬時に悟った。

理樹くん……やっぱり理樹くんはすごいよっ!

期待通りに事を成し遂げてくれた理樹に、葉留佳は潤んだ瞳を向けた。
まだこの時、葉留佳は理樹の言葉が何を言わんとしているのか、わかっていなかった。
ただ、唯湖の悪ノリを止めた……その事だけに目が行っていた。
そんな葉留佳視点では、恐らく相当格好良く見えているだろう理樹が、若干目を伏せながら、言った。

「……可能性、捨てきれないでしょ?」
「だ、だがっ!高校生だぞっ?生えてると思っていいはずだっ」

生える?
葉留佳の脳内が、その三文字で埋め尽くされる。
そしてその次には、理樹がどうやって唯湖を説得したのかという情報を求めようとする衝動に、彼女は突き動かされた。
その一言で大方は理解しかけていたが。
自分が理解しかけている内容が、間違いではない事にも。

「鈴だよ?クドだよ?まぁ、小毬さんはないだろうけどね……でも、この2人なら、ありえると思わない?」
「そ、それはっ……」

理樹君は、私達の裸を脳内で妄想しているのだろうか。
珍しく口ごもる唯湖を見ながら、自分の出した答えに確信を持った葉留佳は、目の前にいる男子高校生に先程向けた感情が急速に萎んでいくのを感じた。
グッバイ、私の淡いキモチ。
ウェルカム、荒んだキモチ。

「生えてもいないのに、わかめ酒とはこれいかに……その可能性を切れない時点で、来ヶ谷さん、あなたの思惑は完遂しないという事さ」
「常識でモノを計った、私の負けということか……完敗だよ、理樹君」

葉留佳の心情がめくるめく変化するよそで、唯湖と理樹は、どこぞの格闘漫画の様な、熱い握手を交わしていた。
話が最後までわからなかった天然娘達は、やっぱりむつかしい顔を作り、互いに顔を見合わせるだけ。

なんだ、コレ。

目的は達成したが、どうにも納得できない葉留佳なのだった。

「ふむ……わかめがないわかめ酒ってのも、あ――」
『ねーよ』

昨年の流行語を恭介に吐き捨てそうになる、葉留佳なのであった。









終わりだっちゃ!



この後の予想しうる展開。

・姉御、事実を確認するためにお風呂に入ろうと言い出す→ここで事実がどうかによって変化。分岐。
・理樹、わけがわからず困る鈴に、『強く生きるんだ、鈴』→鈴、強くなる事を誓う。鈴の運動性大幅上昇フラグ。
・恭介にペド疑惑が浮上するも、皆の反応は薄→ここで事実が(ry
・姉御、なら小毬にしてもらおうと企むも、素直に快諾する小毬を見て泣く泣く諦める→わかめ酒ってなに〜?→え、えぇ〜っ!?→で、でも……→小毬遊女フラグ。
・葉留佳、色々あって荒む→佳奈多が健気に復活させようと頑張る。百合フラグ、もしくは理樹介入で色々な可能性あり。
・クド、おっぱいを大きくなりたいので姉御に相談。姉御揉みしだこうとするところで理樹が阻止→3Pフラグ、もしくはクド×理樹フラグ。
・美魚、真人、謙吾→空気

半分くらいはふざけてます、すいません。
書かないですけどね(ぉ

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