人気のない裏庭は僕にとって都合の良い場所だ。 辺りを見渡して人が居ないことを確認する。 当然のように、そこに人影は見当たらない。 当たり前だ、と自嘲気味に笑った。 僕らの通う学園は全寮制とはいえ、日曜日にわざわざこんな場所に訪れる人が居るわけない。 念のため、人が来ても見つかりにくいように、僕は一際大きな樹の裏を陣取った。 これから此処で行われる舞台は全て僕の為にある。 他の観客は要らない。舞台の主役も演出も刹那の観劇も、全てが僕一人で成し遂げられる。 そう考えると、心の奥底からどす黒い歓喜の渦が込み上げてくる。 僕はそれを包み隠さない笑みを浮かべ、僕の舞台に抜擢された女優たちの姿に目を向ける。 一人は従順に、もう一人は戸惑いながら、僕が思い描く脚本を求めて目を輝かせている。 「リキ!次はどうするですかっ」 「ま、待ちなさいクドリャフカ!そんな格好で――」 嬉々として僕の指示を待つクド、対照的に未だ完全に演じ切れていない二木さん。 彼女たちを此処までの役者に育てることにもある程度大きな時間は掛かった。 しかし、これで漸く舞台の幕を上げる準備が整った。 まだシナリオには若干の修正が必要だが、気にする程じゃない。 開演は目前、あとは僕自身が舞台へ上がって始まりを告げるのみ。
僕が求めた長い長い喜劇が幕を開けた――
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