「おぉっ!」
寮から出ると、辺り一面真っ白に覆われていた。
簡潔に言うと、雪景色だった。
「おい、雪だぜ、雪っ!ひゃっほぉー!」
それを見るや、真人は雄叫びの様に声を上げながら走り回った。
僕らより早く学校へ向かった生徒も多かった様で、積もった雪には足跡がそこかしこに残っていた。
夜の内に降り始めた雪は今もなお勢いは弱まることはなく、比較的大きめの雪の結晶が無数に降っていた。
「こりゃすごいな。このまま降り続ければ放課後にはけっこう積もるんじゃないか?」
恭介の言葉に、僕は再度雪面へと目を向けた。
5センチ程度の積雪。
この勢いなら、踝が埋もれるくらいの積雪は期待できるかもしれない。
ちらと恭介を盗み見ると、どこか嬉しそうに笑っていた。
恐らくまた何か遊ぶことを考えていたのだろう。
そして、そんな事を思いながらも僕も自然とそれを期待してしまっている様で、少し気分が高まった。
「謙吾!どっちがでかい雪だるまを作れるか勝負だっ!」
「これくらいの雪じゃ無理だよ」
「望む所だ!いやっほーー!」
「やるのっ!?」
はしゃぎたくて仕方なかったのだろうか、真人の言葉に喜びいさんで雪を転がし始めた。
「馬鹿だな、こいつら」
鈴の一言を苦笑混じりに聞きながら、僕は雪降る空を仰ぎ見た。
あの事故からもう大分時が流れ。冬がやってきた。
* * *
「くそっ、レノン並の大きさしか作れなかったぜ…」
「だから言ったのに…」
手を息で温めながらぼやく真人。
真人の作った雪だるまはぬいぐるみの様に可愛らしい、こじんまりとしたものだった。
何よりも、その小さな雪玉を丹念に転がす真人の姿は、大柄なその体格にはあまりにも似つかわしくなかった。
「俺の筋肉をくっつければもっと…」
「どうやってくっつけるのさ」
筋肉質のむきむきな雪だるまを想像してしまい、げんなりした。
「全く、お前がその程度では相手にならんな」
「何言ってやがる、てめぇなんか完成するどころか雪玉ぶっ壊してたじゃねぇか」
「うっ…」
対する謙吾は、身体部分の大きめの雪玉を作る途中に破壊してしまった。
はしゃぎすぎたのか雪玉を固めることをせずひたすら転がし続け、柔らかい雪玉は転がしている最中にぱかりと真っ二つに割れてしまったのだった。
「…………」
そして、いつの間に作っていたのか、鈴の手の平の上には小さい雪だるまが乗っていた。
ちらとそれを見ては、満足げに微笑んでいる。
「って!鈴持ってきちゃったの!?」
「ん?ダメなのか?」
「いや、ダメというか…どこに置いておく気なの?」
「あたしの机の上だ。大丈夫だ、濡れない様にハンカチを下に敷いておく。どうだ、完璧じゃないか?」
「いや、それ以前に雪だるまが溶けちゃうよ…」
「なにぃ」
恐らく教室は暖房が効いているはず。
今いる廊下は外と面しているからそれなりに気温は低いから良いものの、教室に入れたりなんかしたら溶けるに決まってる。
「うぅ…どうすれば良い、理樹」
困った顔をしながら聞いてくる鈴。
どうすればと聞かれても、外に置いてくるとしか…
「教室の窓枠の下の部分にでも置いておけばいいだろ」
「え?」
恭介が事も無しに言った。
「外の、な。そうすりゃ溶けることもないし鈴だっていつでも見れる。どうだ?」
確かにこの程度の大きさなら窓下の出っ張り部分にも乗るだろうし、外にあるから溶けることもない。
「……うん、いいと思う。どう、鈴」
「うん、あたしもそれで良いと思う」
…本当に聞いていたのだろうか。
まぁとりあえず教室に行って実際に見せれば大丈夫か。
こうして、いつもと同じ様な、けれど、やっぱり少し違う一日は始まった。
* * *
「どう、鈴?こんな感じで」
「うん、それで良い」
恭介と別れ教室に着いた僕達は、まず鈴の作った雪だるまを恭介に言われた通り、窓の出っ張り部分に置いた。
窓枠で下半身が少し隠れてしまったものの、鈴はいつでもその姿を目に留めれることに満足したようだ。
「もうちょいでかくした方がよくね?」
「うっさい」
「手足とか付けてやろうか?」
「やめろボケ!」
余計なことを口走って蹴りを入れられてる真人を素通りし、僕は席に着いた。
「今日はさすがに練習はなさそうだな…」
僕の席近くまで来ていた謙吾がぽつりと呟いた。
「まぁこの雪じゃね…でも恭介のことだから、何か考えているんじゃない?」
冬。
そして雪。
風物詩としてはありきたりすぎるが、恭介がこんな機会を見逃すはずはない。
「そうだな、それを楽しみにしておくか」
そんな話をしていると…
「やはー理樹君!見て見て、すごい雪だよ!」
大声で教室に入ってくる一人の女生徒。
しかも僕の名前呼んでるし。姿など見なくともわかる。
「もうわかってるよ葉留佳さん…」
「あー何か理樹君の反応つめたーい。はるちんショック!」
やはり、現れたのは葉留佳さんだった。
それにしても、毎度毎度朝っぱらから何というテンションだ…。.
さすが真人と同列に扱われた人なだけはある。
「……騒々しいですよ、三枝さん」
「あ、おはよう西園さん」
いつの間に近くにいたのだろうか、気づいたら西園さんがいた。
「言うに事欠いて騒々しいとは何事か!朝だからこそ、元気に!清々しく!行動するのが一番なんですヨ!」
「言っている事は最もですが、物には限度というものがあります」
そのまま二人は会話に夢中になり、僕は放置されてしまった。
全然違うタイプのはずの二人だが、妙に仲が良い。
気が合う者同士ってそういうものなのかもしれない。
「おはよ〜理樹君」
「おはようなのです、リキ!」
「あ、おはよう、小毬さん、クド」
そこで小毬さんとクドがやってくる。
二人とも心なしかテンションが高めだ。
「二人とも、何か良いことでもあったの?」
「ふぇ?どうして?」
「いや、何となくだけど」
「リキ、リキ!雪です、雪なのです!」
「そう、そうなんです理樹君、雪なんです」
クドが両手をぶんぶん振り回してアピールしている。
あぁなるほど。この二人もそういうことなのね。
「雪が積もってるから楽しそうなんだね」
「そうなのです!何かこう、雪を見るとわくわくします」
「雪は良いよね〜、きれいだし、冷たいし、美味しそうだし」
「……そうだね、何か子供心をくすぐられるね」
小毬さんの言葉に変な所があった様な気もするが、気づかなかった振りをする。
この人の場合ボケでも何でもなく、本気で言ってそうだから突っ込むとさらに不思議発言が飛び出しそうだ。
「でも、クドはけっこう色々な国を見て回ってるんでしょ?だったらもっと凄い豪雪地帯とかにも行ったことあるんじゃない?」
「そうですねぇ…確かに積雪1メートルが日常茶飯事な土地などもありました。あの時は幼かったので、体がすっぽり埋まってしまって大変でした」
「ふぇ〜…そんな場所もあるんだね〜」
ここは冬でも雪が降ることはあまりないからこうやって楽しげに会話できるが、クドの言っている土地なんかでは、雪なんてただただ鬱陶しいだけなんだろうな。
さすがに僕も、自分の体の半分以上が雪に埋もれる冬の日々を過ごすのは勘弁したいところだ。
……僕の周りにいる面々はむしろ、一層喜びそうだが。
「……少年は雪が嫌いかね?」
「へっ?…うわっ!」
「うむ、朝から中々の反応だな」
横からいきなり声が聞こえたのでそちらの方へ向くと、いつの間にか来ヶ谷さんがいた。
何でこう、神出鬼没な人が多いんだろう。
「く、来ヶ谷さん…びっくりさせないでよ」
「はっはっは、お姉さんの些細な悪戯じゃないか。で、理樹君は雪は嫌いかね?」
「え、そんなことはないけど……何で?」
「皆はしゃいでいるというのに、君はあまりいつもと変わらないのでな」
「そうかな…まぁ真人とかと比べられても困るんだけど」
そうか…と言いながら、来ヶ谷さんは顎を擦り、
「てっきり君も『背中に雪を入れて驚かすという口実の下服の中に手を突っ込んで女子生徒の生肌を堪能するぜはぁはぁ』となると思っていたのだが」
などとのとまった!
「ならないよ!というか完璧に変態じゃないか!」
「む…違うのか?」
「どう考えても違うよ!」
毎度の事ながら過敏に反応してしまう自分が恨めしい…。
たぶん、この人と恭介には一生敵わない様な気がする。
「来々谷さんだって、いつもと変わらないじゃないか…て、それはいつものことか」
「そんなことはないぞ……ほら、あれを見たまえ」
「え?」
来ヶ谷さんの指差す方向に顔を向けると、そこにはクドと小毬さんがいた。
窓に手を着けながら、未だ降り続く雪を眺めている。
「積もるかな〜」
「大丈夫です、きっと積もります!」
「積もったら、クーちゃんは何して遊ぶ?」
「雪だるまです!全長10メートルくらいの、おっきな雪だるまを作りたいです!」
椅子に立て膝を突きながら、全身を使って大きさを示すクド。
それを見ながら『それはいいね〜、うん、作ろう』などと笑顔で抜かす小毬さん。
いや、全長10メートルは無理だよ…。
「あぁ…可愛い…」
傍らに立っていた来ヶ谷さんが、その光景を見て萌えていた。
こうして、授業までの時間は過ぎていった…。
一言もらえると嬉しいです。
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とりあえず書いてみたが。無理だorz
長編になりそうな雰囲気を残しつつ、これからバイトなので一旦やめ。
まぁ雪なんで、そのままの流れで遊んでみようかな、と。
リトバスはどうしても10人で一つだから、やろうと思うとキャラが多くなって、動かしにくい。
構想は色々浮かぶものの、SSで10人を動かそうと思うと力がないと辛い…