・五月○日
今日、笹瀬川さんのバトルに勝った鈴が、どさくさに紛れて『笹瀬川さんのつまみかけの柿の種』を奪ってきた。
そして、何故か僕にくれた。
捨てるのももったいないので食べた。
普通に美味しかった。
笹瀬川さんはどの柿の種に触れたのかなぁ。

・五月×日
今日は『笹瀬川さんのオーデコロン』を奪ってきたらしい。
案の定、僕にくれた。
捨てるのももったいないので、使った。
女の子らしい香りがした。
笹瀬川さんは、どこにつけてたのかなぁ。

・五月△日
今日の鈴は『笹瀬川さんの食べ捨てたガム』を持ってきた。
そして、やっぱり僕にくれた。
これを僕にあげて鈴はどうしようというのだろうか、と疑問は尽きないのだが、せっかくなのでもらう。
捨てるのももったいないので食べた。
気づけば寝る前までずっと噛んでいた。
もう『笹瀬川さん分』がなくなっただろうと思い、捨てる。
何だか、とても満ち足りた気分だった。

・五月□日
今日は『笹瀬川さんのリップクリーム』をもらった。
早速塗ってみた。
ちょっとドキドキした。
少し齧ってみた。
笹瀬川さんの味がした。
他の部位にも塗ってみた。
いい滑り具合だった。

・五月■日
正直、今日は何をもらえるのだろうかと楽しみにしている自分がいる。
それを知ってか知らずか、今日も鈴が強奪してきた。
『笹瀬川さんのブロマイド』だ。
早速舐めてみた。
ちょっとドキドキした。
思わず顔にかけてしまった。
大変残念だが、処分せざるを得ない。
今度また鈴が持ってくることを期待する。

・五月○○日
今日はなんと、『笹瀬川さんのグローブ』だ。
大物だ。
手入れが行き届いているのか、とても綺麗だ。
中までしっかり眺め回した後、使ってみる。
さすがにグローブは痛かった。
しかしそれも笹瀬川さんにされてると思うと、イイと感じてしまうから不思議である。
当分はこれにお世話になりそうだ。

・五月××日
そんなことを考えていたら、今日は『笹瀬川さんの体操着』をもらうことに成功した。
音速で使ってみた。
やばい。
これはマジでどうにかなってしまうかもしれない。
シャツも中々だが、スパッツを巻きつけるととんでもない事になることが判明した。
グローブの比ではない。
五度目で、スパッツのとある部分に擦り付けるとさらに凄いことになる事も発見した。
少しヒリヒリする。
しかし、今日は良い日だった。

・五月△△日
今日は敗北してしまったらしく、戦利品はなかった。
仕方ない、仕方ないよね……。
なので、前にもらっていた『笹瀬川さんの答案用紙』を使ってみることにした。
グローブや体操着程にインパクトはなかったが、やりようによっては中々に燃える。
『いいっ、いいよっ、佐々美ぃっ!』と叫びながらすると効果が万倍になるようだ。
自らを高めることがこんなに素晴らしいとは、驚きである。
とうとう二桁に突入してしまった。

・六月○日
バトルが終わってから、約一週間。
物資が届かなくなってからも一週間である。
新たなアイテムが入ってこない事は口惜しいが、本来入手できないはずの物をもらっているのだから、我侭は言えない。
それに、これだけ揃っていれば十分だろう。
常に新しい発見の毎日であるから、飽きる事はないはずである。
しかしながら、回数は綺麗に右肩上がりで上昇し、遂に二十の大台に乗ったにも関わらず、満ち足りない気持ちが芽生え始めているのも事実である。
虚無感と言ったらいいのか、寂寞感と言ったらいいのか。
笹瀬川さんの匂いと味に包まれながらも、僕はまだどこかで何かを欲しているらしい。
それは多分、彼女自身を味わっていないからだと思う。
しかし僕は、彼女の体のみが目当てなのだろうか。
僕をここまで突き動かしている衝動は、果たして何なのだろうか。
僕は。
笹瀬川さんの事を、どう思っているのだろうか……。




「……」
「鈴、僕の部屋に突っ立って何してるの?」
「ちょうどいい、理樹。お前そこに座れ。正座でな」
「え?」
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