「好きでひっついてるんじゃねえよ。狭いんだから仕方ねえだろ!」 既設の光源らしきものは何も無い,ココは校舎一回の実験室横にぽっかりと開口した連絡通路の中。 「大体なんで貴様なんぞと組んで歩かにゃならんのだ鬱陶しい」 「うるせえよ,俺だってどーせなら女と一緒が良かったに決まってるじゃんか。恨むんならテメエの呪われたくじ運を恨むんだな」 一見犬猿の仲にしか見えないが,実はけんかするほど何とやらが実情だったりするところのバカ二人−宮沢謙吾と井ノ原真人の二人が「棗恭介退院記念チキチキ肝試しチャンピオンシップインラストサマー(原文ママ)」でペアを組まされるハメになったのがつい10分ほど前のこと。 『ふふん,人体標本程度なら小指一本で何とかなるぜ!』 『…この程度の軟球など一ダース飛んできても捌けるぞ』 『……』 『……』 『……』←気づいてもらえず寂しげな窓際の幽霊のほろぐらむ そんな二人は,各種トラップを持ち前のパワーとか部活で培った技術とかその無神経さとかを駆使しつつ,現在絶賛チェックポイント通過中だったりしていた。 「なあ,真人」 「なんだ?」 「ココの奥のチェックポイントで最後のはずなんだが,何となく腑に落ちないな。楽すぎるぞ?」 「まあ,入院長かったしな。おおかたまだ勘が戻ってないんだろ。ただまあ,知ってるか謙吾。ここの通路の噂?」 「……ここに,なんか変なバケモンが出るとかそんな話か?」 「ここんとこよく聞くけどな。能美とかから聞いた話では主に女子の間とかで」 …いつもであれば,適度なフリのあとに何かしらなどっきりを仕掛けて来るであろう恭介にしては物足りないなあ,などと感想を述べながら道半ばにさしかかった頃。 「どわっ!」 「な!ちょっ!なっ!なんだこりゃ!!」 突然,得体の知れない紐のようなものが多数,二人の手足にからみついてくる。 「ぬおっ!なっ!!」 「…こ,これは…蛇っ?!」 「げげっ!なんだこいつ!入ってくるっ!」 ぬらぬらとした冷たく粘液質の表面を持ったその紐状の生き物?は,それ自体を多数の触手のようにまとわりつかせると,ヒルの頭部のようなその先端部分を真人と謙吾の衣服の開口部の中に潜り込ませようとする。 「ぬおおおおおおおおおおなんだこのエロマンガとかに出てくるような変な生き物はっ!!」 「ええいくそっ!放せこのっ!」 並の人間であればとうに絡め取られてその生き物のやりたい放題にされていてもおかしくないところであろうが,そこはそれ,目的は違うにせよ各種鍛錬を怠らない,身体能力の抜きんでた二人である。絡みついてくる蛇のようなその触手を相手に,なかなかの抵抗を見せている。 「YES!YES!YEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEES!」 「?!」 突然の叫び声の方向に,体の自由の利く範囲で首をねじ曲げて目を凝らす真人と謙吾。 「いよっし!さあ!どのべいびーかな?我がサムソンの愛のトラップにかかったのは?!神北さんかな?棗さんかな?三枝さんかな?まさかまさかの来ヶ谷さんかな?それとも能美さんかな?!大丈夫!その触手はちょーっとえっちなことをするだけだから!抵抗さえしなければ,細胞液を噴出したら動きは止まるからね。元々植物だから中に出されても妊娠とかしないし!おーっと,でもちゃんとビデオには撮らせてもらうよ?その触手に慣れたらボクのホンモノで存分に…ってどわあっ?!」 視線の先で,触手に絡め取られた二人の姿を見て,ビデオカメラを構えたまま愕然としているのは,制服の上に白衣をまとったメガネ姿の寮生の姿だった。 「…お前,生物部の道下?」 その膂力で触手を制圧しつつある真人の誰何の声に応えもせずに,わなわなと震えたままのそのメガネ。 「なななななななななんだって宮沢と井ノ原が?!情報と違うじゃないか!女の子だけじゃなかったのか今日の肝試しは?!」 「………………」 「………………」 「げっ!う,うそっ!」 怒りが力に直結する,そんな二人が触手の束をふりほどく姿に腰を抜かしてへたりこむ道下。取り落としたビデオカメラの照明を光源にした憤怒の形相の真人と謙吾の影が彼の足下にかかるのに,それから30秒はかからなかった。
「うるせえ,そーやって自分が何をしたか体で覚えてちったあ反省しろや!」 「うげっ!のっ!んおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!がぼっ!ぐえっ!ふ,太いっ!あ,ああっ!い,痛いっ!裂けちゃう!ぬおおおおおおおおぼごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」 「……なあ,これも恭介の計画だったのかな?」 「さあ?まあ,一つだけ確かなことは,これで地下通路で酷い目に遭う女の子はいなくなるってコトくらいかな」 「ふふん。違いないな」 「……ああ……っ,い,イッているのがわかる……っ!!」
「謙吾と」 |