ここは,秋の夕暮れのグラウンド。
 部活動もあらかた終了したのか,ほとんど残っている生徒のいなくなったトラックの内側で,二人の少女が金属製の小さな缶を中央に挟んでほど近い距離で対峙している。

「……ちゃんと逃げずにココにやってきたことは褒めて差し上げますわ」

 剣呑な目付きでそう呟き眼前の相手を睨み付けるその少女の胸前には,「笹瀬川」とゴシック体でプリントされたゼッケンが縫いつけられている。 
 細身ながら均整の取れたその肢体を体操服に包み,長く豊かな黒髪を大きなリボンに結わえたその姿は愛らしくも凛々しい。

「………………」

 睨み付けられている小柄な少女は,制服に身を包んだまま,髪飾りに付いた鈴を風で微かになびかせ,気も無さげにその少女に対している。
 放っておけばそのまま欠伸して身を丸め,眠りに就いてしまう猫のような,そんな雰囲気で。

「……積年の恨み,今こそ晴らさせていただきますわ」

「………………」

 ごう,と鳴る強めな秋の風を合図にして。
 その瞬間,二つの影は中心の缶めがけて疾風のように躍りかかっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ふんふんふーん」

 さかのぼることおおよそ一日。
 秋の女子ソフトボール大会も一段落してキツさの緩んだ練習で軽く汗を流した後,笹瀬川佐々美は寮のシャワーブース横の脱衣所にいた。

「♪」

 自らを慕う可愛い後輩との順調な練習。
 佐々美は心地良い満足感を味わった後,ご機嫌なシャワータイムを満喫すべく,脱ぎ捨てた体操着や下着を脱衣かごに入れてシャワーブースへと向かう。

「……!」

 軽い足取りで向かう途中でふと目にとまる,大きな姿見。
 勢いが付きすぎていったん通り過ぎたその前をバックステップでとんとんとん,と戻り,その前でくるりと身を翻す。

「あんまり筋肉が付きすぎるのも考え物ですわね……」

 全裸のままいろいろと取ってみるポーズで自らのプロポーションを確認して,

「……このラインは悪くないとは思うんですけどね」

 腰から脚のラインに満足げにうなずき,

「今少しココにボリュームが欲しいところでしょうか」

 両の手のひらで包む,豊かとは言えない胸前に嘆息する。
 そんな一喜一憂な彼女は,やはりオトシゴロな女の子なのであった。

「……掴んで持ち上げたところで大きくなるワケじゃないだろう」

「……なっ!ちょっ!!大きなお世話ですわっ!!」

 瞬間沸騰した感情をそのまま声に乗せて,横からかかる無礼な声の主に向き直る佐々美。

「どうでも良いけど邪魔だからどけ,させ子」

「ああああああああああなたに言われたくはないですわよ棗鈴っ!!」

 洗いざらした髪に,バスタオルを体に巻き付けたまま邪魔くさそうに文句を言ってくるその少女ー棗鈴にさらに声を荒げる佐々美だった。
 単に『通路でポージングって邪魔じゃん』と言う程度で,実は大変ごもっともな鈴ではあったが,元から何とはなしに虫の好かない相手であるところの同級生である。ちょっとしたことが火種にもなろう。

 


(このあとリトバスメンツ相手の缶蹴りにお互い勝負が付かずに,当人同士のタイマン缶蹴りとかそんな。ごめんねこの辺までしか時間内に出来なかった)


 




    
inserted by FC2 system