「……ちゃんと逃げずにココにやってきたことは褒めて差し上げますわ」 剣呑な目付きでそう呟き眼前の相手を睨み付けるその少女の胸前には,「笹瀬川」とゴシック体でプリントされたゼッケンが縫いつけられている。 「………………」 睨み付けられている小柄な少女は,制服に身を包んだまま,髪飾りに付いた鈴を風で微かになびかせ,気も無さげにその少女に対している。 「……積年の恨み,今こそ晴らさせていただきますわ」 「………………」 ごう,と鳴る強めな秋の風を合図にして。
「…………ふんふんふーん」 さかのぼることおおよそ一日。 「♪」 自らを慕う可愛い後輩との順調な練習。 「……!」 軽い足取りで向かう途中でふと目にとまる,大きな姿見。 「あんまり筋肉が付きすぎるのも考え物ですわね……」 全裸のままいろいろと取ってみるポーズで自らのプロポーションを確認して, 「……このラインは悪くないとは思うんですけどね」 腰から脚のラインに満足げにうなずき, 「今少しココにボリュームが欲しいところでしょうか」 両の手のひらで包む,豊かとは言えない胸前に嘆息する。 「……掴んで持ち上げたところで大きくなるワケじゃないだろう」 「……なっ!ちょっ!!大きなお世話ですわっ!!」 瞬間沸騰した感情をそのまま声に乗せて,横からかかる無礼な声の主に向き直る佐々美。 「どうでも良いけど邪魔だからどけ,させ子」 「ああああああああああなたに言われたくはないですわよ棗鈴っ!!」 洗いざらした髪に,バスタオルを体に巻き付けたまま邪魔くさそうに文句を言ってくるその少女ー棗鈴にさらに声を荒げる佐々美だった。
|