「くしゅんっ」
「どうしたのクドリャフカ。風邪?」
「わふー…。ちょっと肌寒い気がしますですー」
就寝直前。
いつものように、決まった時間に床に就こうかと思っていたら、クドリャフカがくしゃみをした。
「うーん。寒いんだったら、私と一緒に寝る? ここで」
「わふっ。一緒にって佳奈多さんのベッドで一緒に寝るんですかっ」
「そうよ。寒いのなら、私が抱きしめてたら少しはマシでしょう?」
「そ、そうかもしれませんが、そこまでには及びませんです」
「そう? ま、寒かったら夜中でも起こしたらいいわ」
「すみませんです…。それではおやすみなさいです」
「はい。おやすみ、クドリャフカ」
私の申し出を断って、彼女は自分のベッドにもぐりこんだ。
何で女子寮のベッドはダブルとかじゃないんだろう…。そう八つ当たりもしたくなったけど、彼女に無理強いもしたくなかったし、今日のところは引き下がっておいた。
ただ、彼女の体調は本当に心配だった。
朝。
一応セットしている目覚ましが鳴る前に起きるのはいつもどおり。
寝坊なんてするのは、毎日の生活が規則正しくないからだと思う。
そして、傍らに眠ってるお姫様を起こす日課をこなす。既に起きてるときもあったけれど、寝顔を見られていた恥ずかしさから、彼女が起きる10分前には起きるようにしている。
「クドリャフカ。朝よ。いつまで寝てるの?」
素直じゃない私。いつもこんな起こし方してる。
いつもなら、声をかけた時点で起きてくるのだけど。
「クドリャフカ?」
そういえば、布団の揺れ方がおかしい。
規則正しい呼吸をしてる動きじゃないことに気づく。
「クドリャフカ? どうしたの?」
「わ…わふ〜……。どうやら…風邪をひいたみたいです……」
慌てた声を出したからか、彼女が起きたみたい。
返事をしてくれたから、大事には至ってないんだろうけど…。
「風邪?」
「は…はい」
良く見ると、彼女の顔は真っ赤で、いかにも辛そうだった。
「やっぱりそうじゃないっ」
「な…なにが……ですか…」
「やっぱり、昨日私と一緒に寝てたら良かったんじゃないっ」
「わふ…す、すみませんです……」
そうだ。
一緒に寝てさえいれば、こんなことにならなかったんじゃないだろうか?
彼女が拒んでも、強引に引き込めばよかったんじゃないか? っていう自責の念が私の心を支配していく。
「で、でも…佳奈多さんと一緒に寝てても…たぶん熱は出てたと思います〜……」
「そう? まあそれもそうね」
冷静に考えたら、抱きしめて寝たところで風邪をひかないなんてことは無いんだろうけど。
彼女のためを思ってのことだったか、自分の欲望のためだったのか、今の私の記憶にそれを知る術はない。
とりあえず濡れふきんを用意して、彼女の額や首に浮かんでいる汗をぬぐい、冷却ジェルつきのシートを額に貼っておいた。
ぴぴっ、ぴぴっ。
体温計を見る。
「38.5度…。かなり重症じゃない。辛くない? 辛いでしょう?」
「わふ…。ちょっと辛いです……」
私は学校を休んだ。
自分の体調不良でも休んだことは無かったのだけど、目の前で苦しんでるルームメイトを放っては置けなかった。
幸いインフルエンザが流行ってることもあって、私も公欠扱いにはなるようだけど。
病院には行ったけど、とりあえずは陽性は出なかったみたい。だからと言って彼女が楽になるわけでもないし…なら自分がどうにかするしかない。
どうすれば良いんだろう?
そういえば、医者からいくつか薬を貰ったんだった。
その中で、確か高熱が出たとき用の薬があったはずだ。
私は薬袋の中からそれを取り出す。
それは…ロケットのような形をした薬だった。
(続くかもよ)