オイッス、オレぱんつ!
ピンクの布地にアクセントとして鼠径部に沿うように施されたフリルがキュートな、言うなればどこにでも売ってる様なシンプルなビキニスタイルのぱんつ、それがオレだ。
某デパートの女性下着売り場に陳列された大量の下着の中の一枚でしかなかったオレがあやによって買われたのは、今から半年ほど前のことだ。
数ある下着の中でも相当に地味だったろうオレに何故あやが目をつけたのか、この謎は履かれる日々を送るようになってからも依然として解消していない。
あやはここ、ニッポンに暮らす人々とは随分毛色の異なる人生を送ってきたらしく、感性とやらも一味二味違うみたいだから、あえてこんなぱんつを選んだのかもしれないが、やはりあや程の可愛いオンナであれば、もっと毒々しくて、セクシーで、こう、オレが思わず『くそっ、オレもあんな風に作られていればっ!』と嫉妬してしまうくらいの下着を履くべきだと思う。
まぁこんなベッピンさんにオレみたいなぱんつが履いてもらえるのだから、喜びこそすれど、残念に思うことなどありえないのだが。
正しく僥倖、といったところだろう。
僥倖といえば、また何故なのかさっぱりわからないのだが、あやはオレのことをいたく気に入ってくれたらしく、俗に言う『勝負ぱんつ』として使ってくれている。
なもんで、実を言うとオレが履かれる機会というのはそんなに多くはないのだが、やはりそこは勝負ぱんつ、使いどころもここぞという時ばかりで、オレが如何に重宝されているのかということは推して知るべし、と言っても過言ではないだろう。
タンスの中で、十数枚のぱんつ達による妬みの視線が必ずと言っていい程注がれるのが少しばかり気まずいが……まぁそんなものは然したる問題ではない。

「ねぇ理樹くん、これなに?」
「野球盤っていう遊び道具だよ。真人達と遊ぶ時にたまに使うんだ」
「へぇ。面白い?」
「うーん、どうだろ。女の子はあまり遊ばない物だとは思うけど」
「ふーん」

今目の前であやと楽しげに話をしている男を如何に排除するかという問題に比べれば、だ。
この直枝理樹という男、あやと随分親しいことはわかっていたが、自分の部屋に呼びつけるまでに至るとは、何と腹立たしい!
こいつとは出会いから最悪だった。
転校初日ということで久々にチョイスされ、股座であやと共に喜び半分緊張半分で学校に出向いて、一緒に喋っている気持ちで教卓の前で挨拶したというのに。
隣の席になったこいつは開口一番、『がっかりだ……』と口走ったばかりか、『何かあやちっちゃくなった? 色々な意味で』とか言い出しやがった!
お前があやの何を知っとるんじゃこのボケ、カス!
と罵ってたんだが、何故かあやは怒らなくて、それどころか『覚えててくれたんだっ』とか涙声で言いだし始めて。
その後無礼な発言など全くなかったかの様に仲睦まじげに談笑する二人が出来上がってしまい、オレは事態が飲み込めず、燃え上がった怒りを持て余すしかなかった。
結局あやは許したらしいということだけはわかったが、それでオレの憤りが収まるかというと全然そんなことはなく、むしろ出会い頭に主人に生意気なクチを聞いたこの女だか男だかよくわからんこいつだけは、絶対許さないと決めた。
後に同僚から『どうやら直枝理樹とあやは旧知の仲らしい』という事実を聞いたが、そんな事はどうでもよかった。
一回目のデートの時もこいつはアホみたいな事しかしなかったからな。
あやの過激なツッコミを聞けたという点では礼を言うのもやぶさかではないが、あやの男になるというのなら話は別だ。
今の所、こいつを評価できる部分は何一つない。
あやが何をもってこいつを気に入っているのか全くもってわからないが……というかあやの感性を理解できたことはないのだが、今回だけはさすがに納得いかん。
あやの『勝負ぱんつ』たるオレが許さん限り、お前らの交際は絶対に認めんからな!

「ダメ、かな?」
「うん、いいよ、理樹くんなら、あたし……」

って、こらぁ! 人が決意表明してる間にちゃっかりいい雰囲気作ってるんじゃないっ!
お前らまだ昼だぞ、ごきげんよう終わったばっかだぞ、早すぎるだろうが!
つーかあや微妙に反応してんじゃねーよ! どんだけ敏感なんだよお前! オレには丸わかりなんだからな!
クソッ、三回目のデートということをもう少し念頭に置くべきだったか!

「んぅ……真人くん、帰ってこないかな」
「だいじょぶだよ、少なくとも後一時間は帰ってこない」
「なら、いいけど……っ」

おいおい、ルームメイトの気遣いまで始めやがった……どこまでやる気だっておい、「あん」とか「んふ」とか喘いでんじゃねーぞ、あや! つーか直枝理樹テメー何してやがんだゴルァ!
うおぉっ、何か手ぇ伸びてきやがった! な、なんだっ?

「あや、いい?」
「……うん」

オメーの手かなおえりきいいいいぃぃぃぃ!!!
あやも「うん」じゃねーよなに甘えた声だしてやがる、ちょ、おま、掴むんじゃねぇ、おい聞いてんのか!
てめぇに脱がされるなんて屈辱以外の何物でもねぇって言ってるそばからあっさり脱がしやがったあああぁぁぁぁ!!!

「すごい……」
「ヤダ、そんなに見ないで……」

さりげにベッドの下に落とすんじゃねぇ見るな触んな舐めんなオレにも見せろ!!!
くっそおおお、全然見えねー!!
この最低ヤローにあやが良い様に弄ばれている上にその光景を全く見れないとか、どんな罰ゲームだよ!
今まであやのタイセツナバショを守ってきたオレには拝める権利くらいあるだろーが!
おい、ブラ! お前なに生温かい目でベッドの上見てるんだよ! ちっとはお前も抵抗をだな……なに? 『あやが決めた男なら私はそれに従うだけ』?
なに真面目な事喋ってやがんだよテメーはぁ!! それでもセットで買われた相方かよ!

「そろそろ……」
「うん、理樹くん、きて」

え、ほ、ほんとに最後までやっちゃうの、ねぇっ?
もう少し練習というか前段階踏んでからやった方が色々とスムーズに行くとかそういうもんじゃないの?
いや、それでも許せねぇけどよ!
あぁごめんウソだからちょいと待ってくれ直枝理樹。
わかった、おっぱいだけは触ることを許可する、うん。あやのスレンダーなオムネだけはお前の好きな様にしていい。だからとりあえずボロンと外に飛び出したであろう剛直をひとまず収めてだな――

「い、いたっ!」
「きつっ……!」

ああああああああああああああああああああ!!!!!



『勝負ぱんつ』としての役目をこの日、オレはやっと全うしたらしかった。
こいつのバッキバッキにしたところで嬉しくねーんだよ、バーカバーカ!!!

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