カチ込み乙女心

 

 

 

 

 

 

〜5月24日:夜の校舎にて〜

 

 

 

『第1回リトルバスターズキモ試しでホラー・NO・RYO!大会』が開催される事となり、ついてはメンバー分けをすることとなった一同。

そこで、事は起こった。

 

「別にいいだろ、好きなやつ2人選べるんだから」

 

『男3人がじゃんけんをし、勝った順に2人選ぶ』という方式で編成をする事になったのだが、これでは男性陣の好きな異性が丸分かりだということで、中々決めれずにいたのだが、な

かそこで理樹に突き刺さる妙な視線。

 

「ちょっとちょっと、何でこっち見てるのさ…」

 

視線の正体は謙吾。

『好きな女の子を2人選ぶ』という状況の中で、理樹を見つめるとはこれ如何に。

 

「いや、俺なら誰を選ぶかと悩んでいたら、お前を見ていた」

「ええ…せめて女の子を選んであげてよ…」

 

趣旨を理解できていないのか、それともそちらの気があるのか…理樹も謙吾の言葉にはげんなり。

 

「……悪くない、と思います」

「いや悪いよっ」

 

西園がぼそりと呟く。

何やらインモラルな雰囲気が漂いだし、理樹が懸命に否定する。

 

「ざけんなっ!俺の方が好きだっ!!」

「モテモテだな」

「ああ…」

 

真人の告白?と来ヶ谷の加勢により、一層妖しげな空気が増していく中…。

それは、起こった。

 

がさがさっ!

 

「私の方が好きに決まってるわっ!」

『え?』

 

草むらから飛び出した人影。

その場にいた全員が目を向ける。

そこには…。

 

「す、杉並さん……?」

「……はっ!?」

 

そこにいたのは、杉並睦美。

理樹達のクラスメイトである。

彼女、バスターズがぞろぞろと夜中の校舎に入っていくのを偶々目撃し、興味本位でついてきたのである。

そこではなんと、キモ試しを行い、理樹がメンバーとして好みの女子を選ぶというではないか。

理樹に淡い想いを抱く彼女としては、彼の好み云々はぜひとも知っておきたい所。

夜の校舎内を理樹と一緒に回れる女子に、呪詛を吐きつけそうになるのを抑えつつ聞き耳を立てていれば、今度は男性陣が理樹に告白しているではないか!

 

(まさかの同性愛!?)

 

急激に焦る彼女。

自身の失恋の可能性と、想い人の転落人生が頭を過り、冷静さを失い。

とうとういてもたってもいられず、姿を現してしまったというわけである。

 

「あ、う、ぁ……」

 

そして今さら状況を理解し、一瞬冷静になりかけた脳内が再びパニックに陥っている。

 

「あの、杉並さん……?」

「っ!?あ、う、うん、ごめんなさい!ただ通りかかっただけなの!だから気にしないで、ね、ね?」

 

慌てふためく睦美。

いきなり現れていきなり気が動転している彼女に、一同も呆けるしかなく、ただ理樹と彼女の成り行きを見守るばかり。

そして。

 

「い、今からキモ試しなんだもんね!じゃ、邪魔してごめんなさい、それじゃ!」

「あっ、ちょっと!」

 

脱兎の如く逃げ出す彼女……だったが。

10メートル程遠のいた所で、振り返り。

 

「好きなのは、本当だから!」

 

そう言って、走り去った。

 

「………」

『………』

 

呆然とする一同。

数秒の沈黙の後、来ヶ谷がそれを破る。

 

「モテモテだな」

「……」

 

笑えないボケだった。

 

「本当に告白大会になっちゃったね…」

「リキに告白……わふー」

「………」

 

葉留佳が呆然と呟き、クドが何故か気落ち。

美魚は無表情で立ち尽くす。

 

「付き合うのか?付き合っちゃうのか、お前ら!?」

「いや、何がなんだか…」

「ま、理樹が好きな様に決めるといい」

「いや、だから…」

「恋愛は良いものだぞ、理樹。お前も高校生なんだ、少しは色気づいたらどうだ?」

「色気の『い』の字すらも感じない謙吾に言われてもね…」

 

男達はいきなりの告白に大はしゃぎ。

告白された当人は現状すら理解できていないというのに、他3人は『付き合っちゃいなYO!』と押せ押せムード。

そこへ、とことこと理樹に歩み寄る鈴。

 

「ん?どうしたの?鈴?」

「……」

 

理樹の問いには答えず、数秒睨むように見つめた後、

 

「あたしの方が好きなんだからなっ!」

 

啖呵をきる様に言い放って、離れていった。

目を点にして立ち尽くす理樹。

 

「…どうしたんだろ、鈴」

「まぁ、乙女心は複雑というものさ、少年」

「はぁ…」

 

来ヶ谷の発言に生返事で返す。

鈍感なのか、先程の出来事で思考が停滞気味なのか…。

 

 

その後、半刻程して騒ぎも落ち着き、そのままキモ試しは行った。

鈴が自ら理樹のメンバーに立候補した事は言うまでもない。

とりあえず、理樹がこれから苦労するだろうという事は、誰の目から見ても明らかだった。

 

 

 

 

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