お題:あんぱんさんより「トバスなのにファンタジーもの(ただし中二病)」
暗い。 それは当たり前だ、目を瞑っているのだから。 なら、なぜ瞼を開けられないのだろう? それも、深く考えることじゃない。きっと、眠りが深いのだろう。 それなら、自然に起きるまで更に意識を手放すことにしよう。 ――――――――
目を開ける。コンクリートが雨に濡れた時のようなあの匂いが鼻腔に広がり、網膜には見慣れない白い天井が映る。 まぶしい。 そう思った僕は、徐に起き上がった。 「ここは……?」 自分はベッドの上に寝ていた。それもただのベッドではなく病院や学校の保健室にあるような質素な趣の簡素なベッドだ。 立ち上がり、軽く運動をする。うん、五体満足。 それから所持品を調べる。すると何らかの白い粉と、大き目のナイフがひとつ、それぞれポケットと腰のホルダーにあった。 なんでホルダーなんてものを装備しているのか、その粉はなんなのか、ここはどこなのか。 考え出すと限がないから、僕はとりあえず、だけど注意深く今自分のいる部屋を詮索することにした。 といっても、ベッド以外に殆ど物はなく、ぱっと見て目立つのは部屋の隅においてある机とその横の資料棚くらいのものだった。 まずは……と、机の引き出しを開けてみる。 金色の鍵と、いかにもペンキで塗ったような青色の鍵のふたつがその中にあった。 そして次に資料棚。引き出しになっているところを開けてみようとするけど、空かない。 壊れているのかと思ってよくよく見てみると、小さな鍵穴を発見した。 さっきの青い鍵を挿してみる。もしこれでだめだったら金色の鍵を試そうと思っていたけど、運よくこれで開いた。 「えっ……これって……」 出てきたのは真っ黒な拳銃。 恭介のモデルガンを触ったことはあるけれど、それとは比べ物にならない重さだ。 どうしようと不安に思ったけど、とりあえず弾倉を抜いてそれだけの重さからすると、少なからず弾は入っているようだった。 他にも少しだけ見て回って、さっきの銃と同じ弾倉(と弾)をもうひとつ見つけたけど、それ以外に怪しいものとかはなかった。 本当はじっとしていた方がいいのかも知れない。だけど、僕は強くなったはずなんだ。いや、強くなったんだ。もう誰かの助けばかりには頼れない。 そして僕は、扉を開けた―― と思ったら鍵がかかっていたので、さっきの金色の鍵を使うと錆びた音がして扉が開く……。
部屋を出ると、そこは大きなホールのようになっていた。 そして隅で動く影がひとつ。 「すみません」 僕は気軽に声を掛けた。きっと、僕と同じようにここに迷い込んだ人だと思ったからだ。 だけど、彼――彼女――は違った。 ゆっくりとこちらに顔を向けてきたかと思うと、あろうことかそのまま僕に跳びかかってきたのだ! 「うわぁ!?」 あわてて飛び退く。間一髪といったところで直撃は避けられた。だけどその代わりに頬を縦に切ってしまった。傷は浅いので、多分放っておいても大丈夫だ。 そして僕はさっきの銃を構えた。 『ぉあ〜ぉあ〜』 鼻を衝く嫌な臭いが、ワンテンポ遅れて僕の元に届く。これは……多分腐敗臭とかいうやつなのだろうとひとりで納得する。 そしてそれがまた僕の方へ歩き出した時に、僕はその銃のトリガーを、引いた。 バンッ! と大きな音がして、次いでドサッ! と少し小さめの音がする。 僕の手は射撃の反動に痺れ、銃口は上を向いていた。 「やっ……た?」 まさにそれが引き金だったかのように、どこからともなく次々とゾンビ(らしきもの)が出てくる。その中には、ジャック・オ・ランターンの頭を持つ幽霊のようなものや、骸を集めて繋いだかのような気味の悪いものまで混ざっている。 その数、優に二十匹はいるだろう。 どう考えても弾数が足りるはずはないのだが、半分パニックとなったこの状況でそこまで考える余裕は、そのときの僕にはなかった。 バンッ! 一匹 バンッ! 二匹 全て頭部を狙っての射撃で、天性の才があるのか否か、それらは全て外れることなく敵を倒していった。 ―― バンッ! 十一匹 バンッ! 十二匹 「あれっ!?」 いくら鈍い理樹でも、この時点で気付いた。そう、もう残り弾数がゼロだったのだ。 本格的に危険な状況になった。手元にもう弾は残ってないし、あるのは大きいといっても充分とは言えないナイフだ。 ジャックランタンが跳びかかる。いや、そもそもその体は半分宙に浮いてるようなものだけど。 僕は必死でナイフを抜いて横に薙ぎ払った。かぼちゃが少し削れたくらいで、相手にたいしたダメージはなさそうだ。 (確かに、かぼちゃって相当硬いよね……) そんなどうでもいいことを思いつつ、理樹は目を閉じた。死を覚悟した。 今まさに理樹を喰わんとジャックランタンが襲いかかろうとした次の瞬間、 バーン! 大きな音がして、ジャックランタンは消し炭になっていた。 「え?」 振り返る。気付かなかったけど、ここは一種の吹き抜けになっているらしく上にもうひとつフロアがあり、そしてその階の部屋を結ぶ廊下が頭上にあった。 廊下の手摺り、その上にいたのは―― 「よう、理樹」 「恭介!」 紛う方もない、リトルバスターズのリーダーで、さり気なく色んなコネを持っていて、東京まで歩いて行く男。棗恭介、その人だった。 「助力するぜ!」 とうっ! と飛び降りたはいいが、少しだけ足を挫いた恭介がさわやかな笑みを浮かべる。 ……微妙に説得力がないのはなぜだろう? 「ありがとっ」 「任せとけ」 敵の数は依然として十以上。 恭介と理樹、ふたりの冒険はまだ始まったばかり。その道は、まだまだ続く――
(ヒョム先生の次回策にご期待ください)←打ち切り |