お題:しまさんより『ふられると解ってたけど告白してやっぱり振られた葉留佳(理樹は誰と付き合ってても付き合って無くてもよし』

 

 私は理樹くんに、恋してる。
 ううん、私だけじゃなくて、多分リトルバスターズの女子のほとんどがそうなんだと思う。
 でもそれだけならまだいい。まだ、希望もある。だけど実際はお姉ちゃん――実の姉と、私の慕っている人が付き合っている。それってどうしようもないよね?
「それでも、」
 この気持ちを伝えられずに終わるよりは、想っていることを全部伝えちゃってから自分の恋にピリオドを打つ方が、やっぱり私らしい。嫌になるほど私らしい。
 こうやってうじうじと悩んでいるのは、あんまり私らしくない。
 気持ちを伝えた後しばらく発生するであろう、お姉ちゃんとのギクシャクした空気を想像すると少し鬱。
 もう理樹くんとの待ち合わせは決めてある。明日、つまり日曜日の午前十時。場所は近場の公園。
 あぁ、圧倒的不利な戦場に挑む足軽の気持ちみたい。知らないけど。
 窓の外を見る。暗いガラスに私が深刻な顔で映っている。あっ、彼女の眼が潤んできた。
 私は布団に潜る。潜って、自分の枕を抱きしめる。
 理樹君のにおいがしてくれればと思ってギュッとした枕からは、仄かに柑橘類のにおいがした。

 日曜日、夕暮れの公園。鴉が一羽、また一羽と寝床へ帰っていく。
 隣にいる理樹くんは私と、ついさっき買ったクレープをベンチに座りながら食べている。
 結局言い出す切欠がなくて、普通にウィンドウショッピングとかしてしまった。
 ……ううん、いい加減認めよう。負け戦だと解っていても、想いを告げるのが怖いんだ。切欠がないからなんかじゃない。
 私の、意気地なし。
「これおいしいね、葉留佳さん」
「そうですネー」
 うん、確かにクレープは美味しい。でもそれどころじゃない。
 この機会を逃したら、多分私は一生理樹くんに想いを伝えることはないだろうと思う。
 もしそれで、月日が経ったら、この気持ちは霧消してくれる……? そんなわけない。きっと後悔だけが残るに違いない。
 ざわりと、桜の木が揺れた。それだけのこと。それだけのことで、私はびっくりする。勿論表情には出せないけど。
 そして、風が止む。静寂が辺りを支配するかと思ったら、少し離れた所から小学生たちの遊ぶ声がする。きっとサッカーでもしているんだと思う。
 うん、今なら言える。きっと言える。
 だって私は、三枝葉留佳だから。
「理樹くん」
「ん、何?」
「なんと! はるちんは――私は、理樹くんのことが好きなのです」
 ……あ、理樹くんが絶句して固まった。
 やっと言えた。長く蓋をしておいた想いを、やっと伝えられた。
 これからの理樹くんと私とお姉ちゃんの関係を考えると少し怖いけど、やっぱり、言えたことの安堵感が断然大きい。
「葉留佳さん」
 答えは、聞かなくても分かっている。
「ごめんね。僕には佳奈多さんがいるから……葉留佳さんの想いに応えることはできないよ」
 ほら、予想通りの回答。その上、私の予想していた返事と一字一句違わない。
「分かってますヨ。ほら、そんな深刻な顔しないしない。そんなんだと、幸せなんてすぐ逃げてい――」
 あれ? 確かに予想通りだったはずなのに。
 確かに予想通りの返事だったはずなのに、何で私のほっぺたは濡れているんだろう? どうしてしゃっくりが出たように咽が震えるんだろう?
 あ、そっか。
 きっと、自分でも知らない間に、心のどこかで期待していたんだ。もしかしたら……って。
 馬鹿だな、私って。ほんと、なにやってるんだろう。
「うっく、っ――」
 今だけだから。
 今だけだからお願い、お姉ちゃん。理樹くんの胸、貸してね。
「うわあぁぁーーん!」
 愛する人の胸の中で、思いっきり泣いてしまおう。
 泣いて泣いて泣いて、泣き疲れたら、理樹くんに言おう。ありがとう、って。
 それからお姉ちゃんにも後で謝っておこう。

 明日の私は、きっといつも通り笑顔でいるからね。

 

 

 


 


 




    
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