お題:まるほろさんより「叫ぶ姉御」

 

 唯湖さんとの待ち合わせの一分前にもかかわらず、彼女の現れる気配はない。
「おそいなあ、どうしたんだろ?」
 僕は一人校門の前で待ち惚けを喰らっていた。今まで彼女がデートの待ち合わせに遅れたことは殆どないから、少し心配になる。
「誰を待っているのかな?」
「誰って、唯湖さんだよ」
「おや、驚かないな」
「さすがにもう慣れたよ?」
 振り向くと、予想に違わず彼女の姿があった。少しむくれたような表情だ。
「なんだ、もう慣れたのか。つまらん」
「いやいやいや。……そういえば今日はちょっと遅かったよね、なにかあったの?」
「なに、気にするな。ちょっとそこの茂みに隠れておねーさんを待つ少年を視姦していただけだからな」
「なんでそんな訳の分からないことしてるのさ……」
「理樹君が好きだからに決まっているだろう?」
 うっ……
 彼女に主導権を握られると、いつも僕は赤面させられる羽目になる。時には、その逆もまた叱りなんだけど。
「ほら、勿論エスコートしてくれるんだろう?」
「うん」
 僕たちは遊ぶところの多い街へ、歩を進めた。



 夕暮れの公園。紅い陽が眩しい。
 今日のデートも凄く楽しかった。楽しかったし、同時に遊びすぎたからか疲れた。
 最初から主導権を握り続けていた彼女は終始本当に楽しそうで、僕には眩しすぎるほど活き活きしていた。
「理樹君」
 彼女は僕を呼ぶ。満足気な笑顔で。
「今日は楽しかったぞ」
 一日中ずっとこの調子で、僕を赤面させ続けている。
「うん、僕も楽しかったよ」
 そして顔が近づく。あと数センチ――
「……ん?」
 残り一センチの距離で、彼女は僕を引き剥がした。
 何故? どうして?
 そして胸の辺りを服の上から探る。
「どうしたの?」
 若干、声色に不満が混ざってしまうのは仕方がないだろう。
 彼女は僕の問いには応えず、珍しく長い間呆然とした後、


「あああああぁぁーーーー!!」


 今まで一度も聞いたことのないような、あの来ヶ谷唯湖の、絶叫を聞いた。
「どどどどどどうしたの?」
 あまりに唐突で予測できなかった出来事に、僕もどもりにどもってしまう。
「い、いや、なんでもない。気にするな」
「なんでもないわけないでしょ、あんな大声出して」
 できる限り優しく声を掛ける。
「唯湖さん、僕には隠し事しないでほしいな」
「…………怒らないでくれるか?」
「うん」
 そして言いにくそうに、彼女らしくない歯切れの悪さで理由を述べた。
「ネックレス」
「え?」
「ネックレスを失くしてしまったんだ」
「それって、僕が前のデートで買ってあげたやつ?」
 黙って頷く。
「唯湖さん、気にしないで」
「気にせずにはいられるものか。理樹君から貰った大切なプレゼントなんだぞ?
 今日待ち合わせに遅れた理由だって、本当はあれを探していたから――」
 これ以上落ち込む彼女の言葉を聞きたくなかったから、僕は彼女の唇を奪った。
 彼女も何か言いたげだったけど、大人しく僕を受け入れてくれた。
「んんっ……」
 唇を離すと、二人の間に橙の橋がかかった。
「また明日さ、ふたりで買いに行こう?」
「……明日は平日だぞ?」
「構わないよ。サボっちゃおうよ」
「ふふっ、とても少年の言葉とは思えないな」
「駄目、かな?」
「そんなわけないだろう? 望むところだ」

 そして僕たちは再び抱きしめ合い、キスをした。
 単位は大丈夫だったかな? なんて心の隅で考えながら。

 

(土下座もしまっせorz)

 




    
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