お題:まるほろさんより「叫ぶ姉御」
唯湖さんとの待ち合わせの一分前にもかかわらず、彼女の現れる気配はない。 「おそいなあ、どうしたんだろ?」 僕は一人校門の前で待ち惚けを喰らっていた。今まで彼女がデートの待ち合わせに遅れたことは殆どないから、少し心配になる。 「誰を待っているのかな?」 「誰って、唯湖さんだよ」 「おや、驚かないな」 「さすがにもう慣れたよ?」 振り向くと、予想に違わず彼女の姿があった。少しむくれたような表情だ。 「なんだ、もう慣れたのか。つまらん」 「いやいやいや。……そういえば今日はちょっと遅かったよね、なにかあったの?」 「なに、気にするな。ちょっとそこの茂みに隠れておねーさんを待つ少年を視姦していただけだからな」 「なんでそんな訳の分からないことしてるのさ……」 「理樹君が好きだからに決まっているだろう?」 うっ…… 彼女に主導権を握られると、いつも僕は赤面させられる羽目になる。時には、その逆もまた叱りなんだけど。 「ほら、勿論エスコートしてくれるんだろう?」 「うん」 僕たちは遊ぶところの多い街へ、歩を進めた。
*
夕暮れの公園。紅い陽が眩しい。 今日のデートも凄く楽しかった。楽しかったし、同時に遊びすぎたからか疲れた。 最初から主導権を握り続けていた彼女は終始本当に楽しそうで、僕には眩しすぎるほど活き活きしていた。 「理樹君」 彼女は僕を呼ぶ。満足気な笑顔で。 「今日は楽しかったぞ」 一日中ずっとこの調子で、僕を赤面させ続けている。 「うん、僕も楽しかったよ」 そして顔が近づく。あと数センチ―― 「……ん?」 残り一センチの距離で、彼女は僕を引き剥がした。 何故? どうして? そして胸の辺りを服の上から探る。 「どうしたの?」 若干、声色に不満が混ざってしまうのは仕方がないだろう。 彼女は僕の問いには応えず、珍しく長い間呆然とした後、
「あああああぁぁーーーー!!」
今まで一度も聞いたことのないような、あの来ヶ谷唯湖の、絶叫を聞いた。 「どどどどどどうしたの?」 あまりに唐突で予測できなかった出来事に、僕もどもりにどもってしまう。 「い、いや、なんでもない。気にするな」 「なんでもないわけないでしょ、あんな大声出して」 できる限り優しく声を掛ける。 「唯湖さん、僕には隠し事しないでほしいな」 「…………怒らないでくれるか?」 「うん」 そして言いにくそうに、彼女らしくない歯切れの悪さで理由を述べた。 「ネックレス」 「え?」 「ネックレスを失くしてしまったんだ」 「それって、僕が前のデートで買ってあげたやつ?」 黙って頷く。 「唯湖さん、気にしないで」 「気にせずにはいられるものか。理樹君から貰った大切なプレゼントなんだぞ? 今日待ち合わせに遅れた理由だって、本当はあれを探していたから――」 これ以上落ち込む彼女の言葉を聞きたくなかったから、僕は彼女の唇を奪った。 彼女も何か言いたげだったけど、大人しく僕を受け入れてくれた。 「んんっ……」 唇を離すと、二人の間に橙の橋がかかった。 「また明日さ、ふたりで買いに行こう?」 「……明日は平日だぞ?」 「構わないよ。サボっちゃおうよ」 「ふふっ、とても少年の言葉とは思えないな」 「駄目、かな?」 「そんなわけないだろう? 望むところだ」
そして僕たちは再び抱きしめ合い、キスをした。 単位は大丈夫だったかな? なんて心の隅で考えながら。
(土下座もしまっせorz)
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