お題:青さんより「理樹だと思ってまったく関係ない女の子に声を掛けてしまった小毬」

 

 小毬は一人、彼女の通う高校に程近い街の中を歩いていた。
 その理由は至極単純なもので、買い溜めしておいたお菓子が底をつき始めたからだ。
 毎日袋一杯のお菓子を学校で食べるのだから、当たり前だ。その上彼氏であるところの直枝理樹にも“お裾分け”しているのだから、尚のこと。
 その道を歩く小毬は、両手に大きな袋をひとつずつ提げて、上機嫌に鼻歌など歌いながら軽い足取りで帰路に向かっていた。
 お菓子を買いに行った後の彼女は、大体こうである。

「あっ!」

 そんな彼女が、誰かの影を見つけて声をあげた。
 茶色っぽいセミショートの髪。線が細くて中性的な――ともすれば女子のようでもある――体躯。そして彼の好みそうな服装。

(理樹君だ)

 自らの彼氏を、この街中で見つけて上機嫌になる小毬。確かに、寮から出ることが他の学生たちと比べ僅かに少ないリトルバスターズのメンバーに、殊彼氏である理樹に学校外で会うことは、デート時を除きほとんどない。
 そして彼女が、彼に話しかけることはいつものことで至極当然なことだ。

「理樹君っ!」

 振り向く。
 小毬の想像に違わず、そこには最愛の彼氏の顔があった。

「今お菓子を買ってきたんだよ〜。どうかな?」

 そう言って袋の中を見せる。勿論、至上の笑顔で。

「どれも美味しそうで迷っちゃってー……結局全部買ってきちゃったんだ〜」
「……」

 “彼”は何も言わない。何故だろう? と彼女が怪訝に思うのもごく自然なことだろう。

「どうしたの?」
「……あの、」
「うん」
「私は、その、理樹君という人ではありませんけど……」
「え? えええぇぇぇ〜〜〜〜っ!?」

 人が少なくない人数通行しているというのに、小毬は絶叫してしまった。
 そう、恋仲であるところの彼女でさえも間違えるほどに、“彼”と“彼女”は似ていたのだ。

(そういえばよく見たら髪が少しだけ長かったり胸が少しだけあったり眼が背が小さかったり……)

 彼氏を見間違えた小毬は落胆した。いくら似ているとはいえ、最愛の人と、前を歩いていた人を見間違えるなんて――

(でもでもでも、理樹君は普通にしてても可愛いし、控えめで女の子っぽいところがあるから)

 自分を正当化する。確かに、理樹は女装していればクラスメイトでも気付かないほどの女の子っぽさで、よくそれで弄られたりもしている。

 かのじょは かんちがいを せいとうかすることに せいこうした!

「うん、よし。聞かなかったことにしよう。おーけー?」
「えっ? は、はい」

 そして小毬は何事もなかったかのように、帰路に着く。
 次の日、本当の彼氏にあった彼女は心の中でひそかに謝るだった。

 

 

 

(オチなしスマソ)


 




    
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