お題:ろっどさんより『理樹の反応を妄想しながらお弁当を作る佳奈多さん』
それは昨日の夕方、寮長室でのこと。 私と直枝は様々な雑務に追われていた。このところ寮内の衛生が悪かったり、据付の道具が壊されたりなどとちょっとしたトラブルが相次いでいたため、その日は夜遅くになるまで作業をしていなくてはいけなかった。 そして私がそのときにふと目にしたものは、仕事の小休止にあんぱんを頬張る彼氏の姿だ。 怪訝に思って訊いてみたら案の定、昼食を食べ損ねたと返ってきた。 私と直枝は、一応、その……恋人という関係なわけで、勿論堅物と自負していた私にも年相応の願望があるわけで――
そんなわけで、今私は直枝のためにお弁当を作っている。 彼に明日は寮長室で一緒にご飯を食べるわよ、と伝えて昨日は帰ってきた。勿論、仕事のノルマは達成して。 クドリャフカに迷惑を掛けないようにそっと歩いて、いつもより一時間ほど早起きして、お弁当を作っている。 これを食べた直枝はどんな反応を示してくれるだろう?
「これ、すごく美味しいよ」 「そ、そう。よかった」 「佳奈多さんって、料理上手だよね。将来いいお嫁さんになれるよ」 「……それは、っ、プロポーズの心算かしら?」 「えぇっ!? いやそんなつもりで言ったんじゃ……」 「……違うの?」 「いやえっと、違わないこともなくはないけど……」 それから多分彼はキスをしてくれる。私の好きな、うんと長いキスを。 「今は無理だけどさ、進学したら……ね?」 「直枝っ!」 胸に飛び込んだ私を彼はぎゅって抱きしめてくれる。 それから、今度は私からキスをして――
――じゅっ 「あっ!?」 しまった! 上の空になって忘れていたけど、卵焼きを焼いていたんだった。 少し過度な焦げ目がついてしまった。もう一巻きして隠しておこう……。 次はウィンナーを焼く。よく小学生のお弁当に入っているような赤い奴で、それをタコの形やカニの形に切る。……どう考えてもタコというよりはクラゲみたいになっちゃったけど、多分大丈夫。 それらを油を引いたフライパンの上に乗せ、焼く。 不味いと言われることは、多分ないと思う。幼い頃からそれなりにやらされてきたし、少なくとも葉留佳より上手な自信はある。流石にクドリャフカには負けると思うけれど。 直枝は喜んでくれるかな?
「直枝、その……」 「ん、どうしたの?」 「お弁当作ってきたんだけど、いる?」 「えっ、もちろん! 佳奈多さんが作ってきてくれたお弁当をいらないなんていうわけがないよ!」 「そう。ありがと‥‥」 「でも、さ」 「え?」 「その前に佳奈多さんを、その……食べたいな」 「な、何言ってるのよ!」 「駄目……かな?」 直枝はそう聞いてくる。そんな顔で頼まれたら、嫌って言えないことを知っているくせに。 ……どこかで喜んでいる自分がいることも、素直になれる今なら、否定しないけれど。 「だめ‥‥じゃない」 「佳奈多さんっ!」 「きゃっ!?」 そしてそのまま直枝とあんなことやこんなことをしちゃうんだ。私が泣いて止めてっていっても止めてくれないに違いない。彼は意外とSの部分があるから。
「わ、わふーっ!?」 クドリャフカの鳴き声(?)で現に戻った。 目の前のフライパンからは黒い煙。 かつてウィンナーだったものは、今は未確認物体にその姿を変えていた。 「きゃっ!」 吃驚してコンロを切り、しゃがみこんだ。 クドリャフカが容量のいいことに換気扇のスイッチを押している。 目の前にあるのは、焦げ付いたフライパンと楕円形の炭素だけだった。
‥‥洗うのが大変そうね……。
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