リクエスト:鈴と小毬がケンカをする話

「こまりちゃんなんか嫌いだ! あっちいけ!」
「りんちゃんなんかもうしらない! ふーんだ!」

午後のお昼休みの穏やかな空気を切り裂くような二つの叫び声が響き渡った。
それぞれ思い思いにお弁当を食べたり歓談に花を咲かせていた生徒たちが、一斉に何事かと振り返る。

「ふんっ!」
「ぷいっ!」

聞き覚えのあったその二つの声に、僕も思わず目を向けると、ちょうど鈴と小毬さんが互いに首を勢いよく反対方向へと向け、一睨みしている最中だった。
一触即発の空気の中、固唾を呑んで見守っていると、小毬さんが背を向けて、普段の彼女からは想像出来ないほど荒々しい足音を立てて去っていく。
彼女のほうを追いかけるべきか一瞬悩んだが、リトルバスターズの中でもとりわけ仲のいい二人が喧嘩するという――しかも罵り合うほどの激しい――尋常ならざる事態に、慎重に接するべきだと判断し、教室に残った鈴のほうへと駆け寄った。
周囲の好奇な視線を感じたが、あえて無視を決め込む。

「どうしたのさ、鈴」
「あぁん?」

相当気が立っているらしい。
殺気すら感じられる鋭利な刃物のような睨みをきかされ、

「いえ、その、どうなさったのかと思いましてですね……」

思わずたじろぎ、敬語になってしまう。
なんかちょっと情けなくも思うけど、事実怖いのだから仕方ない。

「おまえが――」
「え?」
「おまえがそれを訊くのか、このっ――」
「わっ、ちょっと!?」

何かつぶやいたかと思うと、鈴は突然身を低くし――
――ひゅうっと唸り声があがるほどの回し蹴りを放ってきた。
咄嗟のことに体が動かず、目を瞑ることしか出来ない。

「……?」

クリーンヒットすら覚悟し、身を硬くしたが、いつまで経っても衝撃は伝わってこない。
恐る恐る目を開けると、まさに僕の眼前で停止した鈴の上履きと、蹴りによって浮き上がったスカートの中のパンツが僕の視界に飛び込んでくる。

(今日は白か……いや、今日も、か?)
ってこんなこと考えてる場合じゃなかった。
何が起きたのかと視線を彷徨わせる。
と、いつの間にやら傍に来ていた来ヶ谷さんが、がっちりと鈴の足首を掴んで回し蹴りを止めてくれていた。

「物に当たる分にはかまわんが、人に当たるのはやめておけ」

彼女はそう一言言い残すと、声をかける間もなく去っていく。
その背に向けて心の中でお礼の言葉を投げかけ、鈴に視線を戻す。彼女はバツが悪そうな顔で俯いていた。

「えっと……よくわからないんだけど、僕にも原因がありそうだね。ごめん」
「うるさい、あっちいけ」

興奮こそ醒めてはいたものの、冷静さを取り戻した分だけ拒絶感は増していた。
これ以上鈴からは何も訊けそうにない。
そう思い、今度こそと小毬さんが去っていったほうへと急ぎ足で向かっていった。
――僕のガールフレンドの元へと。

<引っ張りすぎた、時間切れ>


 




    
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