「恭介っ、これはどういう事なのっ!?」
「何だ、騒々しいぞ理樹」

恭介の麗らかな昼下がりをけたたましくぶち壊したのは、理樹の絹を裂いた様な鋭い詰問だった。
机の上に山積みとなった漫画本から察するに、今日も今日とて二次元の世界へと潜り込んでいたらしい。
だが、至福であろうその時間を豪快に壊された恭介はそれでも嫌な顔1つせず、穏やかに理樹を部屋へと招き入れた。

「まぁまず落ち着け……で、どうした?」
「……これだよ」

平静を装った理樹が、声を低くしながら一冊の本を取り出す。
可愛らしいアニメチックなキャラクターが表紙を飾る……某美少女ゲーム雑誌だ。
そして、それに視点を定めた恭介が、ぴくりと眉を動かす。

「そうか……とうとうお前も知ってしまったか」
「どういう事?……エクスタシーって、どういうことさっ!」

バシィッ!と机に叩きつける。
しっかりと付箋をつけておいたページを開きながら。

『「リトルバスターズ!エクスタシー」発売決定!!』

でかでかとした見出しが、悠然たる事実を物語っていた。

「どうもこうもない……それが、現実というものさ」
「恭介はそれでいいのっ!?あれだけエロは不要だと言われてきたのに!」
「だが需要があるのも確かだ」
「安易なエロは身を滅ぼす……妄想は妄想だからこそ美しくもあり、淫猥さも増すんだよ」
「……それも一理あるな」

ふむと鼻で息をしながら、恭介は回転式の椅子を使って、自身をぶらぶらと横に揺らす。
理樹は理樹で冷静さを取り戻そうと、ベッドへと腰を下ろした。

「けれども、それはやはり空想の域を出ない。誰しも好きな女の子が出来たら、いつかは裸を見たいと思う、触ってみたいと思う……そしてゆくゆくは、一線を越えたいと思う。それが現実と化すのなら、望むのも真理じゃないか?」
「結局二次元じゃないか。どう足掻こうと僕らは脳内補完に頼らざるを得ない……だったら、変にシチュエーションを固定されるよりは、無限の希望に満ち溢れてる方がいいに決まってる」
「あくまで可能性の1つだ。それによって妄想への潤滑油となる事だって十分に期待できるじゃないか。『リトバスはエロにだって発展できる』……そう思わせる事が出来れば、俺達の活躍の場は更に広がるぞ」
「オマケ程度のエロシーンなんて、玄人のエロゲーマー達は見向きもしないよ」

やはり難色を示す理樹に、恭介はどうしたものかと少しばかり顔を顰めた。
主人公たる理樹がこれでは、せっかくの18禁版リトルバスターズがおじゃんになってしまう。
――何か、説得できる術はないのか…?
既に発売に向けて着々と作成されている以上、ここで中止にするわけにはいかない。
どうにかして理樹のモチベーションを上げなければと、恭介は悩みに悩んだ末。
ある手段を、投じることにした。
それはいわゆる"苦肉の策"と呼ばれる、最終手段であった。

「理樹」
「何さ」
「周りを気にするからダメなんだ……外野の事は考えるな。お前の好きな様に振舞え」
「……それをやってしまったら、それこそ物語がおかしくなっちゃうよ」
「そんなものは外の連中が勝手に考えてる事じゃないか。あくまで動くのは俺達だ。そして、エロシーンの主役は……お前なんだ」

ゆっくりと、理樹の顔が上がる。
見上げたそこには、不敵な笑みを浮かべた恭介がいた。
いつか手を引いてくれた時の様な、何もかも任せてしまいそうな、恭介が。

「お前は自由だ。両者の合意の下なら、お前はどんなプレイをしたって構わないんだぞ?」
「……でも、あまり激しいものはユーザーが」
「だから、そこらへんは考えるな。お前は好きな様に、あいつらをあの手この手でいじり倒すことが出来るんだぞ?……どうだ、考えるだけでわくわくしてこないか?」
「……本当に、何をしてもいいの?」

理樹の目に、光が宿る。
それは性欲という、人間及び生物が、原始から脈々と受け継いできた生命の源……本能と呼べるものであった。

「あぁ、気にするな。そんなお前だからこそユーザーは着いてくるんだからな」
「じゃ、じゃぁっ!メ、メイド服とかありかなっ?巫女服とかっ」
「メイドと巫女か……今日ではコスプレはもはや定番プレイだからな。むしろそれがないと物足りないと思う奴もいるだろう……ということで、アリだ」
「そ、外でしちゃったりとかっ」
「もはやエロゲでは定番だな……まぁ現実でもか。バレるかバレないかの瀬戸際の緊張感を如何に演出するかだな。当然アリだ」
「おもちゃとかはどうかなっ?」
「それをどこで手にしたんだといったツッコミが入りそうだな。というかお前はそれを使える程に経験アリなのかと言いたくなりそうだ。まぁ、アリだが」

高速で草木が芽生える映像を見ているかの様に、理樹が元気を取り戻していく。
もう、エクスタシー発売を憂う様子など、微塵もなかった。

「最高だよっ!恭介、エクスタシーはもはや至高だねっ!」
「あぁっ!お前がそうである限り、リトルバスターズは最高さっ!」
「いやっほーーーぅ!リトルバスターズ最高ーーーっ!!!」
「いやっほーぅっ!」


物議を醸し出している外野とは裏腹に。
彼らの日常は、かねがね平和なものだった―――











内輪ネタですいません。
ちなみに私は某ゲーム雑誌は見た事がありません。
そういう情報が載ってたよというのを、某チャットで聞いただけです。
そして、エロゲも数える程しかやってないですが……定番ですよね?
エロ漫画とかで度々見かけるのでそうだと思ってるんですが……違うのかな?
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