お題『「沙耶と佳奈多がツイスターゲームやって、それを見て悶える理樹と姉御』


 例年通りの賑わいを見せていた文化祭に、一陣の風が吹いた。

「おいっ、風紀委員長が突然現れた他校の女子とツイスターゲームやってるらしいぞ!」
「マジで!? やべぇティッシュ持ってこなきゃっ」
「大丈夫だ俺が持ってる、もちろん箱でな」
「マジかっ、さんきゅ!」
「よし、前屈みダッシュで行くぜ!」

 屋台が並ぶ中庭を、大勢の男子生徒達が全速力で横切っていく。血走る目と照りつく眼光は、彼らの心理状態が些か穏やかではないことの証左である。若かりし青春の熱き猛りを恥じらいもなく曝け出し、校内を騒然とさせる男子生徒達に対し、一緒に騒ぎ出す者、怒りをあらわにする者、冷やかな視線を送る者と、人々は多様な反応を示した。当然気分を悪くする者もいるわけで、そんな光景を目の当たりにした杉並睦美が「今日は重くて……」と言い訳して保健室に逃げ込んだのも、然るべきと言えた。
 その一方で、欠片も関心を示さぬ者がいた。来ヶ谷唯湖はその一人だった。中庭のベンチに一人座っていた唯湖は、白い溶岩を噴火させんと猛進する男子諸君をただ横目に捉えただけで、虚空を見上げるばかりだった。
 空は見事な秋晴れで、柔らかく吹く風は冷たく、冬の到来を思わせるようであったが、祭りの熱気のおかげか、唯湖はそれほど気にしている様子はない。先ほどまではしゃいでいたせいもあったのだろう、火照った体には涼しいのか、心地よさそうに微かに頬を緩ませていた。
 ふぅ、と唯湖が息を吐いた時、背後に人の気配がした。

「少年か」
「何でわかったの?」
「来ると思ってたからさ」

 座ったらどうだ、と唯湖が言うと、理樹は素直に腰を下ろした。風で運ばれてきた青臭い匂いに唯湖は一瞬顔を顰めた。

「聞いた?」
「あぁ」
「見た?」
「あぁ」
「どうだった?」
「イった」
「ごめん、僕も」
「処理はきちんとしておいた方がいいぞ、少年」

 ベンチのすぐ横に設置された文化祭限定のゴミ箱に、理樹はポケットから丸めたティッシュを取り出し、捨てた。ごめん急いでたんだ、と呟かれた声色は、どこか気だるげだった。

「何はともあれ、チラリズムだな。あの見えそうで見えない、と思ってたら少しだけ見えたあの瞬間がたまらん」
「もみくちゃになってる二人の女の子ってのもいいよね。これで水着だったり体操服だったら体のラインが見えて、また違う意味でいいんだろうけどなぁ」
「確かに」
「それにね」

 これは僕だけだと思うんだけど、と前置きをしてから、理樹は続けた。

「佳奈多さんと一緒にゲームやってた子、僕が昔仲良かった女の子に似てるんだよね。ほんと、当時の姿が大きくなったって感じでさ」
「それも一つの要因だった、ということか」
「うん」
「そうか」

 唸りながら、唯湖は不快そうに太ももを擦り合わせた。理樹がポケットに手を突っ込んだ。体育館から大きな歓声が響いた。

「ところで、あの他校の女子は何故二木君に勝負を?」
「『私にもいくばくかの青春をー! そしてプリーズマイハニー!』とか言いながら突貫したとか聞いたけど」
「なんだ、それは」
「さぁ? 僕もよくわかんない。まぁ――」

 どうでもいいよねそんなこと、という理樹の言葉に、唯湖は全くだと頷くと、二人揃えたように虚空を見上げて長い息を吐いた。

 

 




    
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