「おいっ、風紀委員長が突然現れた他校の女子とツイスターゲームやってるらしいぞ!」 屋台が並ぶ中庭を、大勢の男子生徒達が全速力で横切っていく。血走る目と照りつく眼光は、彼らの心理状態が些か穏やかではないことの証左である。若かりし青春の熱き猛りを恥じらいもなく曝け出し、校内を騒然とさせる男子生徒達に対し、一緒に騒ぎ出す者、怒りをあらわにする者、冷やかな視線を送る者と、人々は多様な反応を示した。当然気分を悪くする者もいるわけで、そんな光景を目の当たりにした杉並睦美が「今日は重くて……」と言い訳して保健室に逃げ込んだのも、然るべきと言えた。 「少年か」 座ったらどうだ、と唯湖が言うと、理樹は素直に腰を下ろした。風で運ばれてきた青臭い匂いに唯湖は一瞬顔を顰めた。 「聞いた?」 ベンチのすぐ横に設置された文化祭限定のゴミ箱に、理樹はポケットから丸めたティッシュを取り出し、捨てた。ごめん急いでたんだ、と呟かれた声色は、どこか気だるげだった。 「何はともあれ、チラリズムだな。あの見えそうで見えない、と思ってたら少しだけ見えたあの瞬間がたまらん」 これは僕だけだと思うんだけど、と前置きをしてから、理樹は続けた。 「佳奈多さんと一緒にゲームやってた子、僕が昔仲良かった女の子に似てるんだよね。ほんと、当時の姿が大きくなったって感じでさ」 唸りながら、唯湖は不快そうに太ももを擦り合わせた。理樹がポケットに手を突っ込んだ。体育館から大きな歓声が響いた。 「ところで、あの他校の女子は何故二木君に勝負を?」 どうでもいいよねそんなこと、という理樹の言葉に、唯湖は全くだと頷くと、二人揃えたように虚空を見上げて長い息を吐いた。
|