お題『お弁当作ってきたけどなかなか理樹に渡せない佳奈多で』


 とにもかくにも、ギャップらしいのよ。ギャップ。
 まぁそう言われたって、和訳すれば差異? だから何よ、違いがあるから何なのよ、という話にしかならないじゃない? 少なくとも私はそうだった。ギャップって言われたって、何の事だか全くわからなかったのよね。
 だからとりあえず身近な人に聞いてみたんだけど、葉留佳には「お姉ちゃんそんなこともわかんないの? ぷぷっ、ダサっ!」って、平成初期を感じさせるようなリアクションで馬鹿にしてきたから、ついイラッとしてもちもちの木を朗読して思いっきり泣かせちゃったし、クドリャフカには「佳奈多さんは、そのままが一番良いと思います……」とか、なんだか随分真面目に返されちゃったもんだから、聞くに聞けなかったのよね。あと候補として考えてたのは来ヶ谷さんだったんだけど、やめたわ。教えてくれるとは思ったけど、代わりにどんな無理難題を要求されるかわからないじゃない? だからよ。
 そんなわけで知人はアテにならなかったから、結局雑誌で調べたわ。ファッション誌と言えばいいのかしら、あぁいう本も読んでみれば面白いわね。下品なところも多かったけど、参考にはなったわ。
 つまり、「普段とは違う側面を見せられてドキッとさせる」のがポイントらしいのよね。いつもキツイことばっか言ってくる人がふとした瞬間に優しくしてくるとか、普段大人びた態度取ってる人が子供っぽいことするとか。要するに意外性なのよ。意外性。
 何となくわかる気はするのよね。普段のその人のイメージってあるから、そのイメージと違う行動や仕草を取られれば驚くし、「こういうところもあるんだ」って評価にもなるしね。「その人にしか見せない一面」っていうところが余計に胸キュンとかって本には書いてあったけど、それもまた一理あるわね。胸キュンとかいうフレーズは気に食わないけど。
 それに、正直なところ、納得はできるけど、なんだか俗世間に乗せられているようで癪ではあるのよね。それにそういうことって、意識的にするものじゃないでしょ? テクニックとか書いてあったけど、それを意図的にやってるならただのぶりっ子でしかないと思うわ。バレていないんであれば、その演技力には尊敬するけれどね。でも、私には無理。
そもそもやる必要性も感じないし。だから、ギャップがわかったところで私に何か得があったかというと、微妙なところなのよ。あるとすれば、情報を頭に入れられたことくらい?
 あとはまぁ、きっかけとして使ってみるのはありかなと思った程度ね。話のネタにはなるでしょ? 周りの子は、そういう話好きそうだし。円滑な人間関係を構築するためには、エンターテイメント性を多分に含む話題も仕入れておいて損はないじゃない。
 そんなわけだから、親切で心優しい私が、あなたにも教えてあげたの。

「――わかった?」
「うん、わかった。多分校内で二番目くらいにギャップについて理解したよ。したけどさ」
「なによ」
「今の話と、このお弁当は何の関係が?」

 中庭に仲良く二人で座った理樹と佳奈多の間には、一つの弁当箱がある。青色のシンプルな弁当箱は、女の子が使うサイズとしては大きい。そして、普段佳奈多が使っている物ではない。
 点になった目で佳奈多を見てみれば、明後日の方角を向いていた。

「えー、と?」
「……まぁ、そういうことよ」

 それで話は終わったらしく、さぁお昼にしましょうと言って佳奈多が取り出したのは、ピンク色をした可愛らしい二段タイプの弁当箱だった。

「……えーっと?」
「いただきます」

 そそくさと食べ始めた佳奈多が数分後に「食べなさいよ」と言うまで、手をつけていいのかダメなのかわからず、置かれた弁当箱と佳奈多の間を目線でひたすら往復させる理樹の姿があった。

 




    
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