コープスパーティー ブラッドカバー リピーティッドフィアーPSP


ということで、ツイッターでも散々呟いておりますが、コープスパーティーにMK5なので、相変わらず更新は亀の頭です。
あーもう世以子可愛いよ世以子………世以子(´・ω・`)


PSP版と同時にPC版も完結したりしないかなぁ。





本格的にリハビリ&意味もなくCLANNAD

仮タイトル『脈・一』


「僕、杏に告白しようと思うんだ」

 居酒屋に来て一時間程が経ち、ふと話が途切れた時に放たれた陽平の一言に、朋也はジョッキに半分ほど残っていたビールを一気に煽ると、深々と息を吐いて言った。

「春原」
「ん?」
「別にお前が死にたいと言うなら俺は止めないし、止める権利もないだろう」
「……えーっと、何の話?」
「むしろ死んだ方がいいかもと思わないでもない。いや、確実に思う。そうだ、やっぱり死ね」
「いきなりひどっ! つーかあんた今権利ないとか言ってましたよねぇ!?」
「だが死ぬにしても、人の力を借りるのはどうかと俺は思うんだ。杏だって、いくら死んでほしくて仕方がないであろうお前を、自らの手で殺したいとは思ってないだろう」
「あの、そんなに二人は僕に死んでほしいんすかね?」
「それに、わざわざお前みたいなの殺して経歴に傷付くの嫌だろうしな」
「ってそっちが本音かよ!? つーか別に僕は杏に殺してほしくて告白するわけじゃねぇよ!」

 陽平の叫びを無視して、朋也は通りがかった女性店員にビールと摘みを適当に注文する。恐らく少し耳に入っていたのだろう、何やら物騒な話題を大っぴらに口走る二人に、同じくらいの齢であろう女性店員は顔をひきつらせながらも何とか笑顔を作って注文を取り、厨房へと戻っていった。そんな店員の態度に、朋也は何か妙な噂でも流れなければいいのだがと、田舎特有の情報伝達速度に懸念を抱きつつ、憮然としている陽平の方へと振り返った。

「で?」
「何だよ」
「何で杏に告白するんだ? 自殺願望以外に、俺には理由が思いつかん。教えてくれ」
「……もう少し物事を普通に考えられないか、岡崎?」
「すまん、お前の口から普通なんて言葉が出てくると寒気がするんだ。言いなおせ」
「まるで僕が普通じゃないみたいな言い方っすね!」
「……」
「否定してくれよ!」
「あー、わかったわかった。で、急にどうしたんだよ?」
「最初からそう言えよ……」

 げんなりした様子で陽平は言ったが、すぐに気持ちを切り替えるようにビールを飲むと、「僕らってさぁ」と口を開いた。物憂げに目を伏せたのが朋也の鼻についたが、これ以上無駄な時間を取るのも面倒だったので何も言わないでおいた。

「高校時代から、けっこう一緒にいるじゃん?」
「まぁ、杏と同じクラスになった二年の時からだから、ざっと四年は経ってるな」
「あの頃は、正直杏が絡んでくるの、嫌だったんだよね。僕らみたいな不良に、いいこちゃんがつっかかってくるなよってずっと思ってたんだ」
「いいこちゃんってタマじゃねぇだろ、あいつ」
「そうなんだけどね。でも、ずっと僕は思ってたんだ。『どうせお前も他のヤツみたいに僕らを馬鹿にしてるだけなんだろ』ってね」
「お前、卑屈すぎな」
「わかってるよ。それに、昔の話さ。今はそんな毎日が楽しかったって思ってる」

 いつになく素直に口を開く陽平に、朋也は高校三年の冬を思い出した。てっきり地元に戻るものだと思っていた陽平が、この街に就職を決めたのはそんな頃だった。「地元に戻らなくていいのか?」と聞いた朋也と杏に、「僕がいないと、二人は無茶しそうだからね。心配なのさっ」と言ってのけた陽平をボコボコにしたのもいい想い出だった。
 ボコられながらもあーだこーだと叫ぶ陽平は笑っていた。その時はついぞ本格的に頭に支障をきたしたか、と杏と二人で気味悪がったものだが、今になってようやく、陽平の笑顔の意味を朋也は理解できたような気がした。

「岡崎や杏と知り合ってからは、楽しかったんだ。今もこうして、馬鹿やれる時間があるのは、すごい楽しい」
「語るねぇ」
「偶にはいいだろ」
「お前はいいかもしれんが俺は飽きた。一言で説明しろ」
「そんなん無理に決まってるだろ! つーかここからがいいところなんだから聞けよ!」
「あ、ホッケ食いてぇな」
「あんた、ホント人の話聞かないっすね……」

 ぐちぐちと文句を呟く陽平をよそに、頼んだ料理を丁度持ってきてくれた女性店員にホッケを含めて何品か注文する。先ほどの店員とは違ったが、また若い女性だった。都市部への人口流出が何とかと騒ぐわりに若い人間も残ってるもんだな、などととりとめのないことを考えつつ、女性店員の後ろ姿を見送ってから、朋也は陽平に言った。 

「つまるところ、あれか。友達やってくうちにお前は杏に惹かれていたと。そういうわけだな?」
「……その通りです」
「一言で説明できるじゃねぇか」
「ムードってもんがあるだろっ」

 俺との間でムードを出してどうする。
 反射的に朋也は思ったが、そのことに言及すれば生粋の馬鹿である陽平は大声でまたあらぬことを言いたてるであろうことは想像に難くない。そんな展開はとても面倒だったので、何も言わないでおいた。

「それにしても、お前が杏をねぇ……ほーぉ」
「あぁ、そうだよ。悪いかっ?」
「いや。別にいんじゃね?」

 ごくごく普通な感想だった。だからどうしたと朋也は思う。第一、陽平が告白したからといってあの杏が受け入れるとは思えなかった。それに、万が一二人が付き合うようになったとしても、それこそ朋也自身には関係がない。好きにしてくれという気持ちが大部分を占めている。
 ――けど、まぁ……。
 もしそんなことになれば、今までみたいに三人で馬鹿騒ぎすることもできなくなるのか。そう考えると、少しばかり寂しい気もする。何だかんだで四年近くも続いた、学生の延長戦のような関係に終止符が打たれることには、朋也も少なからず抵抗はある。いつまでも三人でいれるなんてことを思うほど甘い理想は持ち合わせていなかったが、実際にそれが現実となって忍び寄る気配がしてくるとなると、やはり良い気はしなかった。

「岡崎、どうした?」

 陽平が訝しげな表情を浮かべている。何でもないと頭と一緒にほの暗い思考を振り払って、朋也は努めて気だるげに口を開く。

「まぁ、お前が杏に告白して辞書を投げられようが首絞められようが東京湾に沈められようが俺は一向に構わんから、頑張ればいんじゃね?」
「……正直どれもありえそうで、怖いっす」

 日ごろの折檻を思い出したのか、陽平が震えだす。恐怖を忘れるかのように海鮮チャーハンを一気に平らげると、朋也に縋った。

「岡崎、頼みがあるんだっ」
「嫌だ」
「まだ何も言ってない!」
「大体わかる。どうせ杏の腹探れとか、そういうことだろ?」
「何でわかったんだ!?」

 バレバレだろ、と朋也は思う。告白すると決めたとは言え、「よし、じゃぁまずはデートに誘ってみるよっ」などと殊勝な意見が出てくるようならば、そんなヤツは春原陽平ではない。「弱いものにはとことん強く、強いものにはとことん弱く」を地で行く陽平が、藤林杏を相手に積極的に出るなど、まずありえない。もしそんなことがあれば、それは春原陽平ではない。とりわけ強者――と認めた――に対して取る陽平の行動に関して、朋也はそれなりに理解しているつもりだった。

「なぁ頼むよ。聞いてくるだけでいいからさ」
「めんどくさい。何で俺がそんなことしなけりゃならん」
「何もタダでなんて言わないさ」
「ほぅ」

 わざわざ交渉してくる辺り、陽平の本気が窺えた。マジで好きなんだなこいつ、と朋也は妙なところで感心したが、だからといって陽平の頼みを聞き入れるかはまた別問題だった。
 杏は容赦がない。それは何も陽平に限らず、朋也にもあてはまる。それでも実害として陽平と朋也に圧倒的差があるのは、引き際を見極めているからだと朋也は思っている。調子に乗りすぎれば、当然自分だって辞書の餌食になる。最近急成長を遂げた猪に追い回された日には、もしかすれば怪我では済まないかもしれない。最悪の事態を思い浮かべ、朋也の頬に冷たい汗が流れる。
 ――断固として引き受けん。
 固い決意を心の中で誓い、とりあえず陽平に聞いた。

「で? 何をくれるんだ?」
「ここの勘定、僕が出すよ」
「よし乗った!」
「早っ!」
「聞いてくるだけでいいんだな?」
「あんた相変わらず現金なヤツですねぇ!?」
「何言ってんだ。男らしくズバッと告白できないヘタレなお前の為にわざわざ動いてやろうとしてるんだ。むしろありがたく思え」

 五秒前の決意など知ったこっちゃなかった。給料日一週間前の今、財布は中々にクールだった。

「何か、岡崎だと不安になってきたなぁ」
「任せろ。土産は杏の辞書投げ百連発でいいよな?」
「あんた真面目にやる気ないでしょ!?」

 陽平のツッコミを適当に流しつつ、まぁ聞くだけならいいか、と朋也は思う。それで今日いくばくかの出費をしないで済むのならば安いものだろう。この時は本気でそう考えていた。


続く
 

リハビリがてらにCLANNAD。
続くのか、続かないのか。


あと、ツイッターをやってみた。
使い方よくわかんないけど、もしよかったらフォロー?してやってください。




8連&4連(104回転目引きもどし)&10連(63回転目引きもどし)
やっぱ海スペはたまらん。
ということで、予想以上のお小遣いをマリンちゃんがくれたので、おもむろにエロゲを購入してみた。


「幼なじみはベッドヤクザ!」2007年11月22日発売!

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『ひのまるっ』 応援中!


「幼なじみはベッドヤクザ」は少し気になっていたものの「買うほどでもないか」と放置していたもの。
「さくらさくら」は二年くらい前から「買おうかなー」と悩み続けてきたもの。
「ひのまるっ」はたまたま新作コーナーに置いてあった中から絵柄の好みだけで購入。

購入基準は「そこそこに“エロゲ感”を楽しめる恋愛学園シミュレーション」。
鍵ゲーのようなボリュームたっぷりなのもいいが、さくさくやれて笑えるものを求めていたのです。

そんなこんなで、楽しみは後に取っておくタイプなので、まずは勢いで買った「ひのまるっ」をプレイ中。
とりあえずタイトル画面のBGMがいい。素敵。
先述の理由から幼なじみ&妹コンビを後に回し、会長とお町、晴菜をさくっと攻略。
思っていたよりもずっと晴菜がいいキャラだったのが収穫か。

現在のプレイ段階での感想は、良く言えば「テンポがいい」、悪く言えば「消化不良」。
キャラの設定掘り下げが浅かったり、わいわいやっている内にエンディングを迎えたりと、「あれ?」と思う点は多々ある。
が、「山場来ましたよ」と言わんばかりに、大した問題でもないにも関わらずシリアスモードに変えられるよりかは、こんくらいぽんぽんと事が運ぶ方がいいかもしれない。

生徒会とはそもそも何なのか、学園内における位置づけ、権力はどの程度まであるのか、くらいは知りたかったところだが。

こういうエロゲ(とりわけ学園モノ)をプレイする時にいつも思うのだが、校内、ないしその地区内でそれなりの権力を有する、生徒が主体となって構築されている集団があたかも当然の如く存在しているのは何故なんだろうか。
教師や理事は何をしているんだろう。

色々と疑問はあるが、二次元の世界にそんなツッコミを入れてもしゃーないので、あまり深く考えずにプレイしていきまっする。
奏はともかく、晴菜と同系統の属性を持つ雪那のシナリオに些か不安材料が残るが、妹キャラというだけで期待はしておく。





何度か存在をほのめかしたことはあるけど、ここまであからさまに曝け出すのは初めてかもしれない。

ということで、情報サイトご覧の方はすでにご存じかとは思いますが、麻雀してます。
「某チャ」と呼ばれる、日向の虎さんのチャットが戦場です。
そして勢いで保管庫とか任されました。
いや、自分から言い出したんだけど。

ベテランや素人がごちゃまぜでやってる、お遊びの麻雀ですが、よければご参加ください。
ルールに関しては「某チャWiki」を参照していただけると。




鈴木あみか浜崎あゆみかと言われれば、鈴木あみという世代だった。
仮タイトル『知らない女・三』


 会計を済ませて店を出ると、先輩がぐるりと見まわして言った。
「よーし、次カラオケ行くぞー」
 ゆきに肩を回し、ずかずかと歩いていく。それを先輩の友人と未緒が苦笑し、ついていく。
「あー、すみません。私帰ります」
 そんな彼らの背中に、申し訳なさそうに葉留佳が告げた。先輩が驚いた表情で振り返る。
「マジで? 葉留佳ちゃん帰っちゃうの?」
「本当にすいません。明日用事があって朝早いんです」
「そっかー、それならしょうがないなー」
 先輩が肩を落としたその瞬間、彼が恭介に目配せをした。恭介が目を見開かせると、顎をしゃくってみせる。
 これがアシストってやつか。
 彼が薄らと下劣な笑みを見せていたのは気に食わなかったが、カラオケに行く気もさらさらなかった。ここは葉留佳をだしに使わせてもらおう。恭介は苦笑を貼り付け、手を挙げた。
「じゃ、俺が送っていきますんで」
「いいんですか?」
「あぁ、途中まででよければ」
「ありがとうございます」
 葉留佳が笑顔で礼をする。頬が少し赤く、色っぽい。ふと浮かんだ感情を、恭介は首を縦に振ってかき消した。
「棗、テメーホテルに連れ込むんじゃねーぞ」
「わかってますって」
「大丈夫です、私、身持ちは固い方ですから」
「そっか? こいつはケダモノの権化だからな、気をつけなよ?」
「はい」
 その後、散々恭介をボロクソにこきおろして、先輩達は夜の街へと消えて行った。手を振って見送りをしていた葉留佳は、彼らの姿が見えなくなると、ふぃーと息を吐いて言った。
「いやー、猫被るのも疲れるもんですネ」
「いきなり本音を出すな」
「えー、だって恭介さんの前でぶりっ子したってしょうがないしー」
 やははー、と笑ってみせる葉留佳に、恭介は呆れた溜息を吐いた。本来の葉留佳がどんな人間なのか。それは本人以外、誰にもわからないのだろうと思うと、今まで振り回されていた自分が馬鹿らしくなったのである。何だかどっと疲れていた。
 もう家に帰ろう。そして寝よう。
 恭介は踵を返し、手を挙げる。
「んじゃ、俺帰るわ」
「えー、恭介さんもう一軒回りましょうよー」
「お前、明日早いんじゃなかったのか?」
「はて、私そんなこと言いましたっけ?」
「……理樹と別れてから、大分遊んでいるみたいだな」
 恭介が真面目な顔で問うたが、葉留佳は何も言わず、ただ笑うだけだった。酔っているのだろう、締りのない、蕩けた笑顔だ。しかし、潤んだ瞳は真っ直ぐ恭介の目を見据えている。それが女の誘惑のように粘っこく絡みついてくるような気がして、恭介は俯いた。
「ねぇ、恭介さん。飲み直しましょうよ。二人で」
 そう言って、葉留佳は恭介の手を掴み、歩き出す。自然に指を絡めてきたことに顔を顰めつつ、しかし振りほどくこともできず、恭介は誘われるがままに足を動かす。
 恭介には葉留佳が見えない。昔馴染みとして気安く接すればいいのか、全く別の女として構えればいいのか、決めかねている。連れていかれる店はどんな所なのだろう。そこはただ酒を飲む場所なのか。もしかしてもっと違う用途の店なのではないか。恭介の頭に、彼の情報が過る。
 ――まぁ、行ってから決めればいいか。
「おい、手離せ」
「えー、いいじゃないですかー。せっかく二人きりなんですし、恋人チックにいきましょうよー」
「お前と恋人なんて絶対いやだ」
「ひどっ」
 本気で吐かれた言葉も気にせずはしゃぐ葉留佳に連れられ、恭介は煌びやかな飲み屋街を歩いていく。夜の街は、まだ終わりを告げない。
 




恭介の妄想から始まり恭介の妄想で終わるという話。
誰も理樹と別れたなんて言ってないし、葉留佳が本当に誰とでも寝るような女なのかもわかんないというね。
全ては恭介の頭の中で勝手に導き出さ

世の中に魔法というものが存在するのなら、その一つは間違いなく「女子高生」だと思う。
あと、鯖の味噌煮。



佳奈多エンディング後はせっかく落ち着く場所を決めれるのだから、『旅情編』とでも題して各地方のご当地グルメとか観光を楽しむような、実用性のあるSSが登場してもいいと思う。
鈍行で北に上るもよし、西に流れるもよし。
決してそれ自体が目的なわけでなく、自然と行き着いた地域の風土を楽しむというか。
そんなSSがあったら楽しいと思う。
そして帰ってきた時に、「へばなー」とか使う理樹達がいたら面白い。
ちなみに東北訛りをチョイスしたのはただの趣味です。
た予想なのです。



少し大人っぽいくらいがちょうどいい。
仮タイトル『ふわふわ』


 恭介の見舞いの為に病院に向かう途中、小毬は駄菓子屋に寄って綿菓子を買った。昼に屋上で大きな入道雲を見てから、今日は綿あめを食べようと決めていた。
 二つで六十三円。自分の分と、恭介の分。見舞いの品としては安すぎるかなと思いつつ、でもきっと恭介さんも喜んでくれるよねと自己完結する。入道雲は相変わらず空高く広がっている。二人でそんな風景を見ながら食べる綿あめはきっとおいしいだろう。口の中に溶けて広がる甘みを空想しつつ、小毬は病院へと再び足を向けた。


 自分が入院していたり見舞いに何度か訪れていたこともあって、病院の雰囲気にも慣れた。病院内を我が物顔で闊歩し、すぐに恭介の病室へと辿り着く。三度ノックをし、おずおずと室内へと入る。
 恭介はいた。いたが、何かを必死に読んでいた。小毬が近くまで歩み寄っても、こちらを窺う気配はない。本の表紙を覗きこんでみると、『全てが学べる自動車免許問題集』という題字が見えた。
「車の免許、ですか?」
「あぁ……って、神北。お前、何時の間に瞬間移動なんて覚えたんだ?」
 目の前にいきなり神北が現れてオラびっくりだぞ。
 余程驚いているのか口調がおかしい恭介に、小毬は内心で溜息を洩らす。本当に気付いてなかったんだ。
「歩いてここまで来ましたけど」
「マヂか。全然気づかなかったぜ」
「恭介さん、真剣に勉強してましたから」
「まぁ、時間がないからな。できれば退院前に取りたい」
「……もしかして、入院中に自動車学校に通う気ですか?」
「あぁ。というか、もう通っている」
 まだ一段階始めたばっかだけどなと言って、恭介は笑う。何度も見たことのある、何かを企んでいるかのような小憎らしい笑みに、小毬は頬をひくつかせる。
「だ、大丈夫なんですか?」
「まぁ別に激しく運動するわけじゃないし、問題ないだろ」
「病院抜け出してる時点で問題だと思いますけど」
「修学旅行にもう一度行く下準備には、車がどうしても必要なもんでな」
「修学旅行、ですか?」
 小毬が問うと、恭介は枕の下から取り出した一冊の大学ノートを渡してきた。秋の大収穫祭in修学旅行(素案)、と書かれている。ぱらぱらと捲ってみると、旅行先の候補、そこに行くまでの交通手段、料金、時間、距離が事細かに記されている。その他にも宿先候補、日程などの項目があるが、まだ空白だった。
「俺が退院して学校に戻ったら、皆にこの企画をぶちあげる。俺達の力で、俺達だけの修学旅行に行くんだ」
「……」
「どうだ、面白そうだろ?」
 小毬は目眩がした。死の淵から戻ってきたと思ったら、この男はもう前を向いている。活力に満ち溢れている。呑気に綿菓子なんぞつまんでいる余裕はなかった。
「凄いですね、恭介さんは」
「凄い? どこが?」
「恭介さんが生きているから」
「は?」
「私は、ふわふわしてるから」
「ふわふわ?」
 小毬は俯く。期待したのが間違いだった、と思った。
 親友たちと再び一緒の日々を送れるようになったことをしあわせだと思うが、空しい気持ちが胸を通り過ぎるのも確かだった。小毬は自身に、くたびれた心持があるのを感じていた。全てを擲つ覚悟でいたが為に、今さら先があると言われても、どうしていいのかわからなかったのである。
 以前と同じように、はしゃぎ、ふざけ、笑い合う毎日は楽しい。でも、どこか足が地につかないような感じ。何をしても物寂しい気持ちが付き纏う。
 もう昔と同じ笑顔はできない。あの場所を愛していると言える自信がない。これから新たに代替を見つけられる自信がない。気力がない。それならいっそ、投げ捨ててしまえばいいのではないか。
「入道雲みたいに、私はあてもなくふわふわとしているんです。綿あめみたいに、甘みの中で溶けてしまえばいいとも思っているんです」
「……そうか。神北も、色々悩んでいるんだな」
 真剣な思いを一言でまとめられ小毬がむっとした瞬間、恭介は真面目な顔つきで言った。
「なら、俺と付き合ってみるのはどうだろう?」
「……は?」
「俺と、付き合おうぜ」
「……とりあえず、なぜ?」
「面白いだろ?」
 いや、確かに皆のびっくりする顔は容易に想像できるけれども。
 親友たちの唖然とした顔を思い浮かべつつ恭介の問いに心の中で肯定した小毬だったが、話の流れが掴めず困惑した。自分の悩みをあっさりと流れたことに少なからず抱いていた怒りは、一瞬にして吹き飛んだ。
 あれ、何時の間に恋バナになったんだろう。私、告白とかしたっけか。
「すいません、意味がわかりません」
「最近つまんないんだろ? だったら、自分で笑えるようなことをすればいい」
「それで、どうして私と恭介さんが付き合わなきゃいけないんですか?」
「面白そうだから、じゃダメか?」
「それって、恭介さんが面白いだけじゃないですか」
 それに、恋人って、そういう風にしてなるものじゃないと思う。
 ふと湧き出た思考を、小毬は溜息と一緒に吐きだす。まだこんな乙女な気持ちがあったなんて。やだ、恥ずかしい。
「なあ、神北」
「はい」
「俺の自惚れかもしれないが、こうしてお前がお前の心の内を打ち明けてくれたってことは、少なくとも、俺は信頼されてるってことだと思っている」
「……」
「残念ながら、今の俺にお前の悩みを解決する術はない。けど、手伝いはできる」
「はぁ」
「だから、一緒に探そうぜ? お前が楽しくなれる日々ってやつ」
「……それは嬉しいですけれど、結局何で私と付き合うという発想に?」
「理樹と鈴がいちゃいちゃしっぱなしで切ないんだ。相手してくれ」
 それが本音か。
 やっぱり自分勝手な思惑だったことに、不思議と納得した。恭介ならありえる話だった。そして、相手として自分が選ばれたことに、小毬は悪い気はしなかった。つまるところ、自分は気に入られているということなのだ。
 そっか、恭介さん、そうなんですね。ふふん。
 いつも飄々として女っ気がないこの男の意識を集められているということは、何だか凄いことだと思った。リトルバスターズの皆とは言わず、学校中が驚きに満ちるかもしれない。それはとても楽しいかもしれない。小毬は久しぶりに湧きあがるむず痒い気持ちを抑えつつ、恭介を見据えて言う。
「私、これでも理樹君といちゃいちゃしてたことありました」
「知ってる」
「なんだかんだで、まだ好きかもしれません」
「まぁ、そういうこともあらぁな」
「それでもまだ、恭介さんは、そんなことを言いますか?」
「だったら、鈴から理樹を奪うか?」
 何だか学園ラブコメモノみたいで、それはそれで面白いなぁと笑う恭介は、本当にそれでもいいと思っているのかもしれない。小毬もそういう刺激的な日々も今よりはマシかもしれないと一瞬思ったが、すぐに首を横に振った。鈴の悲しむ顔は見たくなかった。
「で、どうする? 乗るか?」
 恭介が手を出してくる。何だか縛られるような気がして逡巡したが、この男と居て退屈することはないだろうと思い直す。
 そう、退屈しのぎ。イヤならすぐやめちゃえばいいんだ。
 小毬が差しのべられた手を握る。
「恭介さん」
「ん?」
「私、海にドライブに行きたいです」
「そうか」
「連れてって、くれますか?」
「最初の助手席に理樹が座るのを許してくれれば」
「この期に及んでまだ理樹君ですか!」
 珍しく大声を上げてツッコんだ小毬に、恭介は声を上げて笑う。それを見て頬を膨らませた小毬が手の力を強める。ささやかな反抗を肌で感じたのか、恭介はさらに大声で笑った。

終わり

小毬の口調よくわかんね。
「ほわぁ」とか「ほわー!」とか使えばよかったかもしれない。

お天気スタジオは良台だと思う。
ST面白すぎる。
淡々と腰振るキク、たまりません。



月二回更新でどうだろう。
仮タイトル『飛んで行ったのは誰か』

 汚れたトイレの掃除を終え、クドリャフカがリビングに戻ると、祖父はソファに座ってテレビを眺めていた。先ほどまで「誰だこんなに汚したのは」と喚き散らしていたのが嘘の様に、穏やかな表情を浮かべている。理知的だった祖父の変わり様に憂い、涙していた自分は当の昔にいなくなっていたが、この感情の起伏にはまだ慣れない。安定した介護に辿り着けるのはいつのことだろう。最近富に増えた溜息をかみ殺し、クドリャフカは祖父に話しかける。
「おじいさん、何を見てるんですか?」
「宇宙だよ」
 祖父の言うとおり、テレビでは、先日地球を飛び立ったスペースシャトルが宇宙ステーションにたどり着いたというニュースが流れていた。黒々とした宇宙空間に、白を基調としたスペースシャトルが大きく映し出されている。
「わしらの計画なら、もう少しうまく事を運べるんだがな」
 ふん、と鼻息荒く祖父は言う。しかし、母国の宇宙計画は十年前に頓挫して以降、再開の目途は未だ立っていなかった。祖父の記憶に、母国の現状はない。クドリャフカが何度かそれとなく真実を語ってみたことがあるが、今の祖父では物事を覚えることも適わず、むしろ「何を言っているのだ」と怒りを買うばかりだった。以来、クドリャフカは祖父の話を否定することをやめた。
「そうですね。次こそは、私たちの国のスペースシャトルが飛ぶ番ですね」
「あぁ。その時はクーニャ、お前が乗るんだぞ」
 優しく笑いかける祖父に、クドリャフカも微笑みを返す。愛想笑いも板についたものだ、と内心で冷めた感想を漏らす。宇宙飛行士などという夢は、母国の計画よりもずっと前に潰えている。必死に学んだものも役に立たず、残った呆けた老人に叶わぬ夢を見せ続ける介護の仕事に、クドリャフカは日々しがみついている。疲れる毎日だったが、どこか満たされるようなところもある。空虚な夢を追い続けるのは楽しかった。
 はい、頑張りますと言おうと口を開きかけた時、はてと、祖父が先に呟く。
「クーニャ」
「はい」
「お前が前に宇宙に行ったのは、何時のことだったかな?」
  クドリャフカは少し肩を震わせた。妄想の中で自分は宇宙飛行士として大成しているのか、それともぼやけた記憶の中の誰かと間違えているのか。祖父の記憶が見えなかった。
 ――もし、母と間違えられているとするのなら。
 それは嬉しいかもしれない、とクドリャフカは思う。脳に支障をきたしていたとしても、祖父にとって、自分は母と同等に見られている。成しえなかった憧れの姿が誰かの中で実現されていることに、クドリャフカは少なからずの快感を覚える。
「なに言ってるんですかおじいさん。もう十年も前のことですよ」
「おぉそうだったか。もうそんなになるんだなぁ」
 クドリャフカの言葉をあっさりと信じ、祖父は昔を懐かしむように虚空を見つめた。
 ――おじいさんはいつまで、自分を立派な娘として見てくれるだろうか。
 もはや効き目のなくなってきた痴呆予防薬を準備しつつ、クドリャフカは現実と虚構の間に想いを馳せる。ともすれば、今の私のみじめな姿自体が夢なのかもしれないと期待し、クドリャフカは今日も呆け老人の相手をする。




一回どん底まで落とさないと、明るい話が書けない気がした。
気がしただけかもしれない。

おじいちゃんの生活を考えるに、アルツハイマーになる可能性は限りなく低いような気もする。



ブルマよりも、ハーフパンツの方が萌えると言わざるを得ない。
仮タイトル『知らない女・二』

「普段休みの日とか、なにしてるんですか?」
「バンドの練習かなー。ギター担当なんだ、俺」
「すごーい! ライブとかやったりするんですか?」
「おう、来月やるぜ。よかったら見に来てよ」
「絶対行きます!」
 静かな雰囲気が好きとか、ウソじゃねーか。
 上目遣いで先輩に喋りかける葉留佳に、恭介は心の中で何度目かのツッコミを入れつつ、チヂミを頬張った。
 独占欲の強い先輩が恭介と葉留佳を放っておくわけがなく、十分と経たずに先輩は葉留佳を自分の会話に引き込み、恭介は隅に追いやられた。一時はどうなることかと思ったが、結局予定通りの配置になったことに安堵し、暫く飯を食うことに専念していた恭介であったが、ある程度腹が膨れ周りを観察する余裕ができると、葉留佳を目で追うようになっていた。取られたことを羨んでいるわけではない。葉留佳の男への擦り寄りぶりが、気になったのである。
 三枝葉留佳は、鉄壁の女だった。誰にもおちゃらけた態度で話しかけ、仲良くしているようでいてその実、自分を見せることは決してしなかった。ふざけることで、彼女は彼女自身を煙に巻いていた。パーソナルスペースは、誰よりも広かった。
 それが今はどうだ、と恭介は再び葉留佳を見る。かつての彼女ではありえない程、人との距離が近い。肩を組まれても嫌な顔一つせず、むしろ自分から科を作ることすらしてみる。
「はるちゃん、大丈夫? ちょっとペース早くない?」
「余裕余裕! ていうか、ゆきちゃんこそ顔真っ赤だよ? あんま強くないんだから無理しなさんな!」
「ふふ、わかってるよ」
 まぁ、一概にそうは言えないか。
 人間、嫌な部分ばかりが見えてしまうものだからなと、恭介は葉留佳とその友達の会話を耳にして、少し考えを改めた。単純に、人と仲良くする方法を彼女なりに見つけたということなのだろう。三枝は三枝なりに頑張っているということか。それに比べて今の俺はなんてみじめなポジションなんだろう。どう考えてもハブでぼっちな引きこもりじゃないか。
 今さらになって己の状況を恭介が悲観し始めた時、先輩の友人が「ちょっとトイレ行ってくる」と立ちあがった。そして、恭介の背後を通り過ぎる瞬間、背中を軽く突いてきた。何だと思って彼を見ると、ちらとこちらを一瞥し、歩いていく。着いてこいという意思表示だと判断した恭介は、続いてトイレに行く。
 トイレに入ると、彼は鏡を見ながら髪をセットし直していた。突っ立っているのも何だか気まずいので、恭介は用を足すことにした。酒を飲んでいるからだろう、意識すれば、尿意はなかなかのものだった。
「お前、葉留佳ちゃん狙ってんの?」
 ぶしつけに彼は聞いてきた。あまりに唐突すぎてひっかけるところだった。いかん、危ない危ない。
「いや、その。何で、そんなことを?」
「別に。お前が狙ってるんなら、アシストしてやろうかと思って」
 蛇口から水を出し、手を洗いつつ彼は言う。
「あいつはゆきちゃん一択だろうし、俺と未緒は幹事同士、このままだべってりゃいいし。ってことでまぁ、余りモンっつったらあれだけど、お前と葉留佳ちゃんがよろしくやるならそれでもいいかな、と」
 てっきり先輩が幹事かと思ったが違ったのか。場違いな思考を恭介が抱いた時、彼は蛇口を閉めてから言った。
「葉留佳ちゃんは合コン女王らしいから、まぁ、一発イケるんじゃね?」
「マジで!?」
 さらりと提供された情報に対し驚きの声を露わにする恭介に、彼は軽く声を上げて笑う。
「次、一応皆でカラオケ行くってことにしてるから、そっからまぁ抜けるなりなんなり、ご自由に」
んじゃ、と手を上げ、そそくさと出て行った。制止の声を掛ける余裕もなかった。今から追いかけて詳しく聞くか。でも尿がまだ出る。くそぅ。
「静かな雰囲気が好きとか、ウソじゃーん」
 変わったようで変わってねぇ、あいつはやっぱり三枝葉留佳だ。
 色々言いたいことを全部ひっくるめて、恭介は今日何度目かのツッコミを初めて口にしつつ、そんな思いを、恭介は胸に刻み込んだ。

次で多分ラスト


そもそもこのSSは、某チャで「はるちん遊び人っぽいよね」的な会話をしたところから思いついたものだったりする。
でもあんまりビッチビッチしすぎると、ケータイ小説みたいに妊娠とか堕胎とか碧いうさぎとかそんなん出てきちゃうので、わりかしソフト目に抑えているつもりというか、曖昧三センチにしながらやっているつもりである。

ぶっちゃけ、時間空いて文体とか感覚忘れて何だかわかんなくなった。
でも続ける!

ファイアーエムブレム烈火の剣を買う。
つーか高い、中古で四千円とか。
あとエロゲ買った、暁の護衛。
特に理由はない、強いて言うならこんぼくがそこそこ面白かったので。



まさかの連日更新だけど、内容は薄い。
仮タイトル『知らない女・一』


「そのイケイケフェイスと素敵ヴォイスでもってほぼ確実に誰かしら持ち帰りするのだろうと思うと果てしなく気に入らないから一度足りとも声をかけないでいたんだが、急きょ人が足りなくなった。棗、物凄く嫌だが、仕方ないからお前来い」
 何だか随分な言い草だと兎にも角にも思ったが、「金は俺が持つから」という先輩の一言でほいほいと合コン会場の居酒屋に着いてきてしまったことを、恭介は先に来ていた女性陣の顔ぶれ――具体的に言うと、その中の一人――を見て後悔した。
 テーブルを挟んで、男三人、女三人が座る。週末ということで人がだいぶ入っているらしく、通路を店員やら客やらがひっきりなしに通っていく。
「三枝葉留佳、二十歳です。よろしくお願いしまーす」
 やかましい中にもよく通る声で、対面に座る女性は自己紹介した。ちゃっかり二歳鯖読んでいた。
「若い!」
「そんなことないですよ」
 わけのわからない先輩の合いの手を受け、葉留佳がはにかむ。容姿はもちろんだが、呼吸をするようにウソを吐くこの女は、どうやら自分の知っている三枝葉留佳で間違いないようだ。まだ始まったばかりにも関わらず青天井で高まり続ける周りのテンションについていけず、ひっそりとビールを飲みながら恭介は思った。それと同時、理樹と付き合っていたはずの葉留佳が何故ここにいるのかという疑問が生じたが、それに対する答えはすぐに浮かんだ。
 ――別れたのか。
 高校二年の時に付き合い始めてから、約二年。若いカップルとしてはそれなりに続いた方か。よもやこんな風にして知らされるとは露にも思わなかったが、と少しばかりの哀愁を感じながらビールを飲み干そうとジョッキを傾けた時、葉留佳が話しかけてきた。
「こういう飲みに参加するの初めてって聞きましたけど、もしかして緊張してるんですか? 棗さん」
 棗さん!
 ありえない呼称を耳にし、思いっきりむせる。三枝テメーどういうつもりだコラァと息絶え絶えになったまま睨みつけてやると、葉留佳は眉根を寄せておしぼりを渡してきた。
「だ、大丈夫ですか!? ごめんなさい、話しかけるタイミングが悪かったですね」
 お前誰だ!
 出かけた言葉を無理やり抑えこむ。よくよくじっくり見てみると、葉留佳の目は笑っている。ひぃこりゃいいもん見させてもらいましたわぁ、と笑い転げている。余程慌てふためく恭介の様がツボに入ったのか、ぴくぴくと頬がひくついている。しかし、それでも心配そうな表情は崩さない。あくまでシラを切れ、という意思表示か。恭介は葉留佳の意図を掴めきれなかったが、恭介としてもここで葉留佳と知り合いだとバレて何かと面倒事が増えるのは避けたい。掌で踊らされているようで癪だったが、乗ることにした。
「いや、こっちこそ悪い。もう大丈夫だ」
「そうですか?」
「それより、俺が合コン初めてだって、誰から聞いた?」
「隣の方から」
 指された会社の先輩はというと、向かいに座る化粧の濃い女性と大声で笑い合っている。余程馬が合ったのか、女性の目尻には涙が浮かんでいる。その奥の席でも、残った二人が楽しげに話している。先輩の友人ということで人となりは知らないが、喋りはいけるようだった。
「いつの間に自己紹介終わった?」
「棗さんがぐびぐびビール飲んでる頃にはもう」
「そうか」
 妄想に入り浸っている間に、先輩達はうまく事を運んだらしい。これで自分が存在をスルーされて端っこに追いやられれば、そこに閉じこもったままひたすらタダ飯にありつけたはずだった。目の前の女が自分に着いてしまったせいで、少なくとも自分の計画はおじゃんとなってしまったが。
 そういえば、葉留佳は高校時代から何かと自分の邪魔をしてくる奴だった。多分悪気はなかったのだろうが、とりあえず事あるごとに被害を被った。当時の流行語で言えば、KYだった。
 だが、話せばわかってくれる奴でもあった。しっかりと言い含めれば、素直に従ってくれる奴だった。気がしなくもない。
 今ならまだ間に合うかもしれない。ふっと湧いた考えに縋り、恭介は悪あがきを始めた。
「実は俺、急きょ呼ばれたんだ」
「そうなんですか?」
「しかも合コン初体験と来てる。もう何が何だかわからん」
「それは大変ですね」
「なもんで、非常に申し訳ないのだが、まともに話せる自信がない」
「そうですよね」
「そんな奴と話したってつまんないだろ?」
「まぁ確かに、会話はなかなかスムーズにいかないかもしれませんね」
「だろ? だから、俺のことは気にしないであっちに混ざるのがいいと思う」
「でも、つまんないなんてことはないですよ。むしろ、仲良くなれたらどんな話してくれるのかって思うと、とても楽しみです」
 駄目だった。ついでに寒気がした。効き過ぎた冷房のせいではなく、葉留佳の優しすぎるほどの声色に。コミュニケーション不足感満載の最低な言葉をわざと紡いでやったというのに、目の前の破天荒――だったはずの――少女は、それをあからさますぎる優しさに包んで返してきた。久しぶりに会ったお前キモすぎるだろ、と心の中で毒づきつつひくついた笑いを返すと、葉留佳がふっと目を伏せて呟いた。
「それに私、本当は静かな雰囲気の方が好きなんです」
 言外に「あっちの人たちとは気が合いません」宣言。裏を返せば、「今日はあなたととことん話すことに決めました」宣言。
 オー、ジーザス。恭介は心の中で天を仰いだ。何だかわからないが、葉留佳はいつの間にか大人しめなキャラに変わっていたらしい。
「次、何飲みますか?」
 そんな恭介の心を知っているのかいないのか、笑顔でメニューを渡してくる。面影は高校時代のまま。今となれば少し子供っぽい気もする髪飾りだって、相変わらずあの頃と同じ位置に着いている。だのに、恭介にはあの頃の葉留佳と今の葉留佳が似ても似つかない。とりあえず口調をどうにかしろ。姉にでも矯正されたか。
 言いたいことはたくさんあるが、それを今言うわけにもいかず、渡されたメニューを突き返す。
「俺はもう決まってる。三枝さんは?」
「私も決まってます」
「そっか」
 呼び出しボタンを押す。迅速に駆けつけた店員に、生中とシーザーサラダを頼み、目線で葉留佳を促す。
「あ、あと、カシスオレンジお願いします」
 無難すぎるチョイスだった。自分のことを棚に上げて、お前が三枝葉留佳なら少しは冒険してみろよと思う恭介は、やっぱりまだ少し混乱しているらしかった。
 

続きます


どんなに美麗な液晶演出だろうと、ハイビスカスの一瞬の煌めきには敵わない。
つまりは、そういうことです。
とりあえず、サンサンハナハナといけいけめんそーれに期待。




後悔なんて、塩をまぶして握ってアンパンマンの頭にすればいい。
仮タイトル『幸せスパイラルはどこまでも』


 遠くで銃声が聞こえた。キャンプから少し離れたところで誰かが襲われているか、威嚇射撃のようなものだろう。ここに来てから一ヶ月。何度か耳にしたことのある、嫌な音だった。
「また始まったわね」
 あやさんがベッドから上半身だけ起こして呟いたのと同時に、見張りの人が外に設置してあるランタンを消した。おぼろげに見えていたあやさんの苦い顔が闇に包まれる。
「神北さん、だいじょうぶ? 怖くない?」
 かけられた優しい声に、私はだいじょうぶ、と努めて気丈に振る舞いつつ、読みかけの文庫本を震える手で閉じた。実際に危ない目に遭ったことは今のところないけれど、そんな時が来てしまったら、それは本当に死を覚悟する時だ。怖くないわけがない。けれど、ここに居る以上、弱音を吐くことは決してしてはいけないと思った。
「こういう時、異人種の私たちは無力よね」
 あやさんが悔しさをにじませた。
 非営利の医療団体としてこの国の難民キャンプに派遣されている私たちは、夜間の外出を禁じられている。外国人は何かと目立つ為に危険に晒されやすいし、何かあった場合に国際問題に発展しかねないから、というのが理由らしい。実質、私たちの活動は日中に限られ、陽が落ち始める頃には、あてがわれた家に籠もらざるを得ない。そこからは、現地の医療チームに託すほかなかった。
「しょうがないですよ。私たちが出て行ったら、余計に迷惑かけるかもしれないし」
「ええ、そうね。そうだけど」
 納得できないあやさんの気持ちは、わかるような気がする。何かしたくても、できない。無力感がいつだって胸を覆い潰してくる。何の為にはるばる日本から来たのか、わからなくなる。私でさえそう感じるのだから、小さい頃からこの辺りをを転々していたというあやさんにとって、人種の違いというだけで邪魔者扱いされるのは、私以上に辛いのだろう。
「何かあったら、きっと連絡が来ます。今は待ちましょう?」
 頷く気配がした後、あやさんは再び横になった。闇と沈黙が私の周りに寄ってくる。布団を握りしめてむせ返る恐怖に耐える。
 黙ったまましばらく耳を澄ましていると、微かに聞こえていた銃声がさらに遠のいていった。どうやら巻き込まれる心配はなさそうだ。無線にも今のところは連絡がない。キャンプで暮らす人たちが襲われたわけでもないのだろう。
「だいじょうぶそうね」
「そうみたいですね……あぁ、よかった。怖かったぁ」
 はっとして口を両手で覆ったが、無意識に溢れた言葉はそのままあやさんの耳に流れてしまったらしい。クスクスとあやさんの笑い声が聞こえた。
「やっぱり怖かったんじゃない」
「ご、ごめんなさい」
「いいのよ、気にしないで。それが普通なのよ」
 私だって怖かったし、と笑い混じりに言うあやさんに、私もあははと苦笑いを返した。何もかもが違い過ぎるこの環境の中で、同じ日本人で日本語を喋り合うことができるというのは、私にとって何よりの安らぎだった。
 静かに少しだけ笑い合った後、寝る前に一つだけいいかしら、と聞かれた。はい何でしょうと返すと、あやさんは少し声を低くして言った。
「どうして、これに参加したの?」
「……どうして、とは?」
「だって、日本は平和な国じゃない。過不足ない、むしろ有り余るくらいに、ひだまりのような毎日を享受できる。さっきみたいな怖い思いだってしないで済む。なのにそんな場所を離れて、辛く苦しい、生きるか死ぬかの瀬戸際を余儀なくされるような生活を選ぶなんて、どう考えても少数派でしょ? だから、神北さんがわざわざこんな活動に参加する理由はどこにあるのかな、って」
「理由……」
 真っ暗な天井を見上げながら、ぼんやりと過去を思う。この団体に参加したきっかけと言われれば、務めていた病院の医師から誘われたのがそうなんだけれど、でもどうして参加する気になったのか、という答えは、それよりもずっとずっと昔にある。看護師になった理由、看護師の専門学校への入学を決めた理由。それらを思う時、いつも高校時代に興味本位でやっていた、ボランティア活動が最後に思い起こされた。私は、どうしてあんなことをしていたのか。
「誰かを幸せにするということは、自分も幸せにするということ」
「え?」
 いつの頃からか芽生えた持論。そんな持論を作ってしまうような人間だったからこそ、こんな人生を歩んでしまったのだろう。自分を振り返った時、答えはいつだってそこに行き着いた。
「そう思って毎日を生きていたら、ここにいました。これでは答えにならない、ですか?」
「……ふーん」
 なるほど、とあやさんが含みを感じさせる反応をする。現場を生き抜いてきたあやさんにとって、こんな考えはやっぱり甘いのだろうか。
「だ、だめですか?」
「正解なんてないわよ、こんなものに。私だって似たようなものだしね」
「そうなんですか?」
「ええ」
 そう言って小さくあくびをした後、寝返りを打ちながらあやさんが言った。
「父の姿を追いかけていたらここにいた。私もそれだけの話よ」
 さぁもう寝ましょ、と言ってそれきり、あやさんは黙った。それから数分も経たない内に小さな寝息が聞こえてきた。さすがこの手の暮らしに慣れているだけあって、寝つきは早かった。
 簾をつけただけの入口から風が入り込んでくる。夜間とはいえ気温は三十度を有に超える。生ぬるい風だった。
 汗で額に貼りついた前髪をかきわける。胸には未だ恐怖が蟠っている。満足に眠れた日などなかった。今日も寝るのは遅くなるだろう。恐怖を紛らわすように、あやさんの言葉を思い返した。
 中東での生活が長いとはいえ、日本人であるあやさんは、当然日本でも暮らしたことがあったらしい。「いい国よね、日本は」という話が、私とあやさんの最初の会話だった。
 そんな「いい国」に身を置いていた期間があったにも関わらず、それでもあやさんがこうした国々に戻ってきたのには、さっきの言葉が全てを物語っているように思えた。
 あやさんのお父さんも医師だったと聞いている。あやさんが医師担当として戦地の医療現場にいるということは、あやさんのお父さんもそういう仕事をしていた人なのだろう。そんなお父さんの後姿を追いかけ続けて、あやさんは今の場所にいる。私なんかとは比べモノにならない程の葛藤と、努力をして。
 私と似ているわけがなかった。どこが似ていると思ったのだろう。もう少し仲良くなれたら、聞いてみようかな。
 あやさんと腹を割った話ができる頃には、この恐怖にも少しは慣れていたらいいなと思いつつ、私は眠れることを祈りながら羊を数え始める。胸の奥の恐怖は、まだ疼いていた。


終わり


リトバス分なさすぎて泣いた。
ガチあやSS考えた末の産物だった、小毬とあやの未来予想図的な何か。
この後、派遣期間が終了して、より臨床経験を積むためにあやが日本の病院に務めて、そこから小毬のツテでリトバスメンバーと知り合ったりすればいいと思うよ。


とりあえず、拍手SSだけは何とか完成させたいと思う今日この頃。
途中で挫折し続けてる続きモノを、一個でも完成させたいでござる。




「海皇紀」のマイア・スアルは、ツンデレキャラとして上位に食い込んでもおかしくないと信じている今日この頃。
「修羅の門」も「修羅の刻」もそうだけど、川原正敏の描く「待つ女」は素敵だ。
最初のツンツンしたとこもいいけど、中盤以降の、自分の気持ちに素直になった後とかもうたまらんわけです、はい。

そんなこんなで、以下「名無しSS祭り」後記。
反転。ネタバレ注意。

・秋→寒い→カーディガン→「俺達の透けブラがっ!」→「透き通っていた世界」
・四苦八苦した末にショートショートで勝負。
・短い&原作とは全く関係ない話なのは、ボロが出ないようにするためと、時間的な問題。
・祭りということで恒例の抑え目の下ネタSSとなったわけだけども、ネタ系が思いのほか少なかったので、もう少しはっちゃけてもよかったかもしれないと今になって思う。
・「桜」のおかげで予想が分かれてくれた。
・むしろ「桜」のような綺麗な作品を自分が書ける、と思われていたのが意外だった。

そんなこんなで。
新生活にも何となく慣れてきたような気がするので、徐々に戻ってこれたらいいなと思っている次第。

どうでもいい話だけど、地中海が全く連チャンしてくれない。
デジハネ沖海打ってた方がマシかもしれない。
地中海モード、嫌いじゃないんだけどなー。



五月五日


気づけば五月である。
多分来月も同じことを言うだろう。
そのうち「ゆってぃ見なくなったよね」とか言い出して、しまいには「whiteberry解散してたってマジ!?」と暮れ頃に驚くのだろう。
そんな一年になったら、いいなぁ。


ということで、リンクのご報告。
まずは、名前とは裏腹に超サドスティックなmさんのサイト「TRAFFIC JAM」。
もはやリトバス二次創作界では説明不要なお方ですね。
mさんの弾ける妄想世界は、惹きこまれること間違いなし。
杉並さんもいます!
います!

そしてもう一方、七夜彼方さんのサイト「
The other side at seven nights」。
現在リトバスメイン、佳奈多とのあまい連作SSを書いていらっしゃいます。
佳奈多好きには辛抱たまらん作品かと!

興味のある方はぜひぜひ飛んでいってくださいませ!


そして、また祭りが開催されるみたいです。
鈴と小毬と佐々美の絡み合いが見たい人はチェックしとくといいと思うぜ!



三月三十一日

埼玉下着情報。
仮タイトル『コスモ』


「宇宙には、行けないと思ってました」

扉を開けると、クドが部屋の中でロボットダンスをしていて、開口一番にそんなことを言い出した。
あまりに精密すぎる手の動きが気持ち悪い。

「でも、私は宇宙に行ったんだと思います」
「どっちなのさ」
「モー!」

唐突にクドが叫んだ。
いつの間にか手に持っていたアイスの名前を見たらしい。
真冬にアイスを食らうなど、正気の沙汰とは思えない。

「十七歳にならないと食べられないアイスがあるって聞いたんですけど、本当ですか?」
「いや、知らないな」
「鈴さんの顔のシミの数を隔週でチェックしているリキでも、知らないことがあるのですね」
「どこから情報を手に入れたのか知らないけど、そんな事実は存在しないよ」

僕の言葉を聞いていたのかいないのか、クドは一度ボックスステップをした後、持っていたアイスを容器ごとぺろりとたいらげた。
ガリガリという、どこから発生しているのかよくわからない音は聞かなかったことにした。

「ロケットで勢いよく飛び立ったんです」

クドがローラースケートで天井を走り始めた。
話は戻ったらしかったが、クドは新世界へと旅立ったようだ。

「いや、やっぱり違うかもしれません」
「どっちさ」
「ロケットでびゅーんと飛んでいったような、それでいて、蒲公英の綿毛のように、柔らかく空に浮かんでいったような……」
「だからどっちなのさ」
「まぁ、とにかく、私は宇宙に行ったんです」

言いきると、クドは降りてきた。
爽やかな顔をしていた。

「リキの指と、そして……私は確かに宇宙にいった、いえ、昇りつめたんだと思います」
「って下ネタか!」

キラリと歯を覗かせながら紡がれた言葉はオヤジくさかった。

「リキは、宇宙に行ったことはありますか?」
「あるわけないし!」
「そうですよね。男性と女性では性質が違うと聞きますし」
「だから下ネタか!」
「宇宙規模で考えると、私たちって、ちっぽけな存在だと思いません?」
「お願いだから、話聞いてくれない?」

相変わらず僕の言葉を無視するクドは、何故かボロボロになっていた。
薄汚れた服はところどころ引き裂かれ、白い肌が見えている。
しかし下半身は何故か花畑に覆われ、『もう少々お待ちください』というテロップが、横に設置された電光掲示板に流れていた。

「宇宙という、果てなく広い世界。その内の一つの星に芽生える生命。さらにその中に、私たちがいる。ほんとうに、ちっぽけですよね」

流し目を向けてくるクド。
あからさまに得意げなのがむかついたが、下半身の花畑がだんだんと縮小していっているので、何も言わないでおいた。

「写真で見た、あの、暗闇の中に映える青を思い出すと、あの中に私たちがいるんだなーって思うと、いかに私たちがはかない存在であるかと共に、それでも日々生きている力強さのようなものを感じるんです」
「そうだね」
「本当、命って不思議です」

その瞬間、クドの体が光った。
輪郭すら見て取れないほどの強い光だったが、すぐに消えた。
光の中から現れたクドは、ワンピース姿だった。

「私のお腹の中にも、リキと育んだ温かい命が灯っているのですから」
「だから下ネタかって!……えっ?」

よく見るとお腹が膨らんでいる。
クドが慈しむように何度も撫でている。

「認知、してくださいね」
「んっ?」
「名前、宇宙にしましょうね」
「え? あれ?」
「三人で、宇宙にいきましょうね」
「下ネタか!」

ぺしっ、とようやく綺麗にクドの頭にツッコミを入れると、クドがくすくすと笑った。








「っていう、夢を見たんだ」

三時限終了後の休み時間。
三角貿易のあれこれを熱く語る教師になど目もくれず机に突っ伏して眠りこけていた時に見た夢を、僕は忘れないうちにとすぐさまクドの下へ走り寄って内容を伝えた。
いやー、夢とはいえ、面白いよね。

「ひ、ひどいです、リキっ!」

クドが涙ながらに叫んだ。
それはもう、悲壮感たっぷりに。
休み時間の無駄話としてこれほど面白可笑しいネタないと思い、ふざけ半分で口を開いた僕は、クドのあまりの真剣さに驚いた。
そしてすぐに反省した。
確かに、クドの夢をバカにしたようものだ。
冗談だとしても、言っていいことと悪いことがある。

「あっ、ご、ごめんねクド、ちょっと冗談が過ぎ――」
「わ、私が果てる時は、宇宙なんかじゃ表現しきれないのにーーーっっ!」
「下ネタか!!」

僕の反射的なツッコミは、走り去るクドの足音にかき消されたのだった。



タイムオーバー



思いついたままに。
夢オチって、便利。


リンクのご報告!
涼夜さんのHP『ルピナスの鍵』をリンクさせていただきました!
ギャグを主に書いてるようですけど、甘酸っぱい話なども!
興味のある方は、ぜひリンクから!



三月二十四日

くどふぇす2ボツネタ。
仮タイトル『ラブミー後ろ指』


「最近、井ノ原さんと仲がよろしいそうですわね」
 渡り廊下を歩きつつ、佐々美が口を開いた。
「そうでしょうか。いつも通りなつもりですけど」
「私もそう思うんですけれどね。ただ、噂がちらほらと聞こえてきたものですから」
 探るような目を向けられ、クドリャフカは軽く笑って言葉を濁した。自分の耳に入るくらいに囃し立てられているのだから、佐々美の耳に届かないわけがないだろうと思った。
「そういう気はないんですよ?」
 曖昧な笑みのまま含めるようにクドリャフカが言うと、佐々美はええ、もちろんわかっていますわと頷いた。佐々美の顔には、幼子を見ているかのような、温かな笑みが浮かんでいる。
 理樹と付き合いだしてから、佐々美は丸くなったようにクドリャフカは感じている。高飛車なところは残っているが、表情や声色が前よりも柔らかくなった気がするのである。
「ですが、井ノ原さんをあまり甘やかすのはよくないと思いますわ。あの人はすぐつけ上がりますから」
「そんなことはないですよ。ただ私が好きでやっていることですので」
 佐々美が笑みを浮かべたまま、それでいいと思いますわと言った。クドリャフカは俯いた。突き放した物言いになってしまった後悔を抱く胸の奥底で、後ろ暗い怒りがもたげている。
 ――同情、なのでしょうか。
 理樹と付き合っていることが佐々美に優しさをもたらしているのであれば、それは自分を哀れむがゆえのものなのではないか。クドリャフカはそう考えることがある。
 他人の恋愛事情に疎い佐々美が、自分のわかりやすすぎた気持ちに気づいていたかどうかは定かではない。しかし、こうして優しさを向けられると、クドリャフカは佐々美が勝ち取った女の余裕を振り撒いてきているような気がしてならなかった。怒りは少し経てば静まるのだが、佐々美と接するとすぐに溢れ出る。幾度と後悔し、醜い気持ちを抱く自分をその度に戒めるのだが、蝕むかのように、怒気はクドリャフカの心に広がるのだった。
 ほどなくして、分かれ道に着いた。佐々美が立ち止まったので、クドリャフカも顔を上げて足を止めた。
 相変わらず、佐々美は柔和な笑みをクドリャフカに向けている。クドリャフカも努めて笑いかけた。苛立っているとはいえ、佐々美
との仲をこじらせる気は毛頭なかった。
「今日は行けませんけれど、怠けないよう、頑張ってくださいませ」
「はい。佐々美さんも練習、頑張ってください」
 ええと頷いた後、佐々美が真剣な顔をして言った。
「自分の気持ちに正直になって行動するのが、一番だと思いますわよ」
 それではまた、とお辞儀をして、佐々美はソフトボール部の部室へと向かっていった。肩の上で手を振り、佐々美の揺れるツーテールを暫し眺めてから、クドリャフカは踵を返した。強張った笑顔をしているのが自分でもわかる。佐々美の最後の言葉が耳に残っていた。
 理樹と付き合った当初、「脈がないとわかった途端近くに居た男に擦り寄った女」という噂が佐々美についてまわったことを、クドリャフカは思い出した。佐々美の恋愛模様と成り行きが似ていることを前々から感づいていたが、佐々美もそのように見ていたのだろうか。あなたも憧れだったのですね、と暗に言っていたのかもしれないという思いが、頭の中に渦巻いていた。
 ――憧れなんかじゃない。
 クドリャフカは心の中で吐き捨てたが、それは反抗心から来る、否定したい気持ちだけが先走ったものであることをわかっていた。佐々美の全てを見透かしたような目と言葉を思い返す度、胸が黒い苛立ちに包まれる。それを押し隠すこともせず、クドリャフカは荒々しい足取りで部室への道のりを歩いた。


ボツ!

ハイスクール奇面組のオープニングソング『後ろ指さされ組』を使った真人クドをガッ!と気合いで書いたが、読み直したらあまりにもどよんどよんしてて祭りに出すようなものではないと思い、ボツ。
クドと理樹の知り合う過程が佐々美と似てるんじゃないかと思い、真人と絡めてみた。
当初は「そんなの気にしない! だって、私は彼といて楽しいもの!」的なノリでなんかひゃっほいひゃっほいさせようと考えていたんです。
ホントです。

温泉卓球SSとかいいんじゃないとか思う。
卒業旅行記念杯とか称して、ポロリもあるよとか謳ってね。

舞う浴衣、飛び散るるーしー。

いつか書こう!



三月二十二日

あかね色に染まる坂やったりジャグラー終日打ちっぱやってたら約二ヶ月経ってた。
どうも、まるほろです。

そんなこんなで、敬愛するNELUOさんからSSを頂きました。
鬱モノ。
ここのサイトではかなり影薄い小毬さんがメインキャスト。
ジャンル、キャラ共におれの分野じゃないということで、新鮮な感じ。
「うれしい!たのしい!大好き!」って雰囲気で読めはしないと思うけど、なかなか考えさせられるSSだと思うので、ぜひぜひ。


くどふぇす2には何か出す。
頑張る。



二月一日

またろりーたな野郎がろりーたを愛でるためにろりーたな祭りを開催しようと企んだらしい。

この、ろりこんがっ!!!

でもまぁ、微力ながら応援させていただきます。
おれろりこんじゃないけど。
熟女好きだけど。



ウルーさんとか山鳥さんとかしんかいさんが面白そうな話をしていたので、おれも乗っかってみようとしたんだけど。
もともと草SSの方々で盛り上がっている議論だからおれ全然関係ないんだけど、でも、「SS書く姿勢」みたいなのは自分でも考えて損はないだろうと思って、考えてみようとしたんだけど。

何かめんどくなったのでやめた。

まぁつまり、そういうこと。
無駄を無駄と思わないで、楽しみ、そして愛することができる人間こそが、SSを書き続け、高みに上っていけるということさ。
「趣味の姿勢について語るとか何じゃらほい」とか思ってしまったおれは、所詮その程度ということである。


とりあえず、ファイアーエムブレム二週目やる。
おれのソフィーヤタソを亡き者にしてくれたあのドラゴンマスター、ただでは済まさん。



一月二十三日

ゴンザレスは今日も往く。
仮タイトル『靴とばし』



 夕暮れの公園には、人っ子一人いなかった。ジャングルジムの向こうに、ぼやけた夕日が山に沈みながら低く浮かんでいて、その光を受けて、公園に設置された遊具の影が真っ黒く地面に伸びている。砂場には子供たちが忘れていったらしいシャベルやらバケツやらがぞんざいに放り投げられていて、そこから少し外れたところにサッカーボールが転がっている。
 外から一回、公園を見回した後に中に入ってから、真ん中くらいのところで立ち止まって、もう一度ぐるりと見回した。
 こんなにこの世界は小さかったかな、と思った。
 広いと思っていた砂場も、長いと思っていた滑り台も、高いと思っていたジャングルジムも、どれもこじんまりとしたものに見えた。いくら強く蹴っても外へ越えていくことはなかったはずのサッカーボールも、今一度蹴ってみると、軽々と向こうの道の方へ飛んでいってしまって、あっという間に見えなくなった。子供というのは、こんなにも小さな存在だったらしい。
 そんなことを思いながら公園をゆっくりと歩きまわっていると、ブランコの前にたどり着いた。
 ブランコは好きだった。多分、サッカーの次ぐらいに好きだった。飛行機の離陸みたいに、最初はゆっくりで、でもだんだんと浮かび始めて、遂にはそのまま高く空へ向って飛べちゃうんじゃないか、みたいなことを思っていた。そんなことを実際にしたら大けがしちゃうってことはわかってたんだけど、でも、あの空に浮かんでいる時の、心が恐怖と昂揚でふわふわする感覚は、子供ながらにスリルがあって、楽しかった。
 試しに一番左端のブランコに座ってみた。小さい。昔は爪先立ちが限界だったはずなのに、完全に足が着いている、というか膝が浮いている。
 大丈夫かな、これ、なんて一抹の不安を抱きつつ、少し後ろから勢いよく蹴りだしてブランコを漕ぎ始めたんだけど、蹴りだしが強すぎたみたいで、一発目で高く飛び過ぎちゃって、おっかなくなって一旦止めた。もう何年とブランコなんて乗ってないから、しょうがないと言えばしょうがないんだけど、昔は意気揚揚と何も恐れずに飛び乗れていたはずの自分がいたことを思うと、加減がわからなくて怖気づく今の自分が、ちょっとだけ切ない。立ち漕ぎとかもしてたはずなんだけどなぁ。
 今度はゆっくり、ゆりかごを動かすかのようにやさしく漕ぎ出す。体の力を上手くコントロールしつつ、かつての頃のイメージを取り戻しながら、時間をかけて漕ぐ。
 感覚さえ掴めば、やっぱりどうということはなかった。すぐに子供顔負けなくらいに高々とブランコを漕げるようになった。高く飛びすぎて一回転しそうになるほどだった。さすがに危ないと思って、それ以降はあまりはしゃがない程度に留めた。
 子供用のブランコだからそんなに高くならないけれど、飛んでいる時は楽しかった。最高点に到達した時に見える景色は、いつも見ているそれよりももう少し高くて、そしてもう少し遠くのものが見えた。かと思ったらすぐに落ち始めて、あーあ、と残念に感じてしまう自分が、ちょっとだけ可笑しかった。
 外の道は誰も通らなくて、人気はこれでもか、というほどにない。カラスの鳴き声すらも聞こえない、夕暮れの公園の中で、ひたすらブランコを漕ぎ続ける。あー楽しいなって思いながら、キーキーと音を鳴らし続ける。
 そういえば、靴とばしなんかもやったっけ、と思いだしたのは、充分にブランコを満喫してからだった。多分、二十分くらい経ってたと思う。
 ちょっと一回やってみよう、なんて考えてしまえるくらいに、公園を満喫していた。誰も通らないし、人目なんて気にする必要もなかったから、恥ずかしいということも感じなかった。せっかくだから。そんな、本当に大したこともない理由で、右足のローファーをつっかけるくらいにまで脱いで、目一杯助走をつけた。そしてちょうどいいぐらいまで漕いでから、最高点に到達するかしないかのところで思いっきり足を振り上げて、靴をとばした。サッカーボールのことがあったからびっくりするくらいに飛んで行くかと思ったんだけれど、直線的に飛んで行った靴は予想よりもずっと近いところで地面に落ちて、少し転がったところで動きを止めた。多分、五メートルもいかなかった。
 こんなもんかぁ、とちょっとがっかりしながらキコキコとブランコを漕いでいて、ふと気付いた。あの靴、自分で拾いに行かなきゃないじゃん、と。それと同時に、さっき蹴ったサッカーボールも拾いに行かなくちゃいかないんだよね、とも思った。あの頃はサッカーは主に二人でやってたし、靴とばしは、とばす側と拾う側、代わりばんこでやってたんだよな、ということを、その時になって思いだした。
 でも今は、拾いに行ってくれる人はいない。友達がいない。誰もいない。何かも、自分でしなくちゃいけない。靴を拾うことも、サッカーボールを拾いに行くことも、もしくはそれを願うのならば、靴を拾ってくれる人を見つけることもサッカーボールを拾ってくれる人を見つけることも、全部全部、自分が動かなくちゃいけない。
 ブランコを漕ぐのをやめた。私を乗せたブランコは慣性の法則でゆらゆらと何度か揺れた後、止まった。左足だけで体を支える。かかとまで完全に地面に着く。膝が少し浮く。夕日が目に染みる。うるんだ視界の先に、暗い影を落とした靴がちょこんと落ちている。なんだかその光景を見たくなくて、自然と視線が下に落ちていく。
 あぁ、何でこんなことになったんだろうなぁ、と思う。でもそれを望んだのはあたしで、あたし以外にありえない。こうして公園に足を運ばせたのも、あたしの意思でしかない。人気の全くない、というシチュエーションまでご所望しちゃって。それで靴を拾ってくれる人がいなくて、なんだかなぁ、なんてセンチメンタルになっちゃってるんだから、ほんとわがままだなぁ、と思う。
 おひさまが刻々と山に姿を消していっている、かもしれない。もうそろそろ夜が来る、かもしれない。電灯は点くかなぁ。ご近所さんの晩ごはんのおいしそうな匂いとか、漂ってくるかなぁ。
 そんなことよりも先に靴拾いに行かなきゃなぁと考えを改めて、ブランコから立ち上がった。そして片足で小刻みにジャンプしながら進んでいって、寂しげに落ちていた靴を拾って履いた。
 トントンとつま先を地面に叩きつけて履き位置を整えているところで、どこからかカレーの匂いが流れてきているのに気づいて、小さくため息をつきながら、空を見上げた。赤みがかった空が少しずつ色を失ってきているように感じるのは、きっと、気のせいなんかじゃないのだと思った。 

終わり


何を書いてるんだよ、バカ!
って罵りを受けそうなTOPSS。
でも書きたかったんだ、真面目なの書きたかったんだ……。

次からは本気出す。
具体的には、明るめの話かなんかで。
多分。

『ToLOVEる』はエロマンガにしか見えない。
単行本の表紙しか見てないけど。
でもあのおっぱいの描き方はいい。
多分個人的至高おっぱいだ(二次元において)。
でも読んだことはない。



一月十日


『文章』内に、クリトバスに投稿した『ストラックアウトで言うなら5番』を掲載。
内容は同じだけど、レイアウトにちょいと変更あり。
つまりウチのいつものバージョン。

あと今年からまた過去ログページ作ったよ。
これで気にせずいつでも見れて安心!
何で去年いきなり過去ログ消したんだろ?
当時の自分の心境が謎すぎる。


昨年暮れのオフ会で、DSとかPSP持ってる人たくさんいたので、
「最近携帯ゲーム機流行ってますよねー。おれもこないだ買ったんですよ。ゲームボーイアドバンス」
って言ったら、失笑された。
なんだよ、アドバンス面白いじゃないか。

最近やってるのは、ファイアーエムブレム封印の剣。
けっこうさくさく進んでたんだけど、闘技場で調子乗って主人公殺してゲームオーバーになった。
二回くらい。
あと何人かのキャラも闘技場で殺しちゃってリセットした。

シミュレーションロールプレイングゲームは、作業になった瞬間が一番危ないと思う今日この頃。



一月三日

新年最初ということで、久々に書くぜ。
仮タイトル『モーニング柿ピー食べようよ、二人で』


「理樹君、あけましておめでとう。新年の挨拶ということでもずくを持ってきてあげたぞ」

そんなことを言って来ヶ谷さんが僕の部屋にやってきたのは、年が明けてから五時間ほど経った、外の暗さ的にまだまだ夜と言って差し支えないくらいな朝方のことだった。
元旦ということでさすがに起きてはいたものの、まさか携帯に連絡もなく、女子がこんな時間にいきなり部屋を訪れてくるなんて露にも思っておらず、何食わぬ顔で部屋に入ってきて柿ピーが広げられているみかん箱にカップもずくを一個、とんと置いてベッドに腰掛ける来ヶ谷さんの姿を、僕はピーナッツを手に持ったまま、ただただ呆然と見る他なかった。
ちなみに真人は三十分前に出かけていて部屋にはいない。
曰く、「年越しを筋肉で盛り上げ、興奮の余韻に浸る筋肉の余韻に浸りつつ、筋肉の丘で初筋肉の出を筋肉する。それが、俺にとって最高の年明け筋肉なんだ」、とのこと。
元旦らしく、何だか清々しく、そしてちょっと厳かにそんな話を聞かせてくれると、真人は「お前も、筋肉るか?」という謎の誘いを僕にかけてきてくれたのだが、丁重にお断りしておいた。
とりあえず、どこだ、筋肉の丘。

「さて、理樹君」

唐突な来客に現実から五十ノーティカルマイルくらい離れてしまっていた僕の意識を、来ヶ谷さんの改まったような一言が呼び戻す。
とりあえず筋肉の丘の所在地についての思考を切り捨て、どうしたのかと来ヶ谷さんに目を向けてみると、何だか妙に真剣な目つきをしているので、思わず居住まいを正す。
そんな僕の態度に満足げに一度大きく頷いた来ヶ谷さんは、黒のコートを脱いで壁にかかっていたハンガーにかけ、ベッドではなく、みかん箱を挟むようにして僕の反対側に正坐する。
そしてすぐに立ち上がって、今ハンガーにかけたコートを勢いよく剥ぎ取り、身に纏って言った。

「鈴君のぱんつでも拝みに行こうじゃないか」
「いや今のおかしいでしょ!?」
「なんだ、鈴君のぱんつでは不満か?」
「そういう話じゃないよっ! あ、いや、確かにそこもおかしいけどっ」
「よし、ならクドリャフカ君のぱんつにしようか」
「今の一連の動きに疑問持ちなよ!? それとクドのぱんつとか果てしなくどうでもいいから!」
「どこかおかしかったか? というか、今少年さらりとひどいこと言わなかったか?」
「いや、気のせいだよ。目の錯覚だよ」
「うむ、動揺が面白いくらいに見て取れるのは、目の錯覚ではないらしいな」

わざわざ正しい用法でもって返してくる来ヶ谷さんに、僕はピーピーと口笛を吹いてごまかす。
誰だって、口が滑ってしまう時はあるものさ。

「では少年は、ぱんつを盗み見する気はない、と?」
「当たり前だよ。新年初っ端から変態の烙印押されかねない行動なんて取りたくないよ」

ただでさえ今こうして女子生徒を深夜に部屋に入れているのだ。
来ヶ谷さんと言えどこの事態がバレてしまったら、周囲の奇異の目線と親友達の詰問が殺到するであろうことは目に見えている。
これ以上リスキーな行動は避けたかった。

「だがな、理樹君。世の中には、姫はじめという言葉が存在してだな」

そう言って、来ヶ谷さんが今度こそコートを脱いで腰を落ち着けたので、僕も再び座って、話を聞くことにする。

「姫はじめ?」
「うむ。由来は諸説あり、そもそも何を意味した言葉なのかもわかっていないのだが、一般には、男女がその年に初めて性交をすることと考えられている」
「せ、せいこっ――」
「落ち着け、まぁ落ち着きたまえ少年」

また突然何言い出すのさっ。
と言いかけた僕を、来ヶ谷さんが意味深な笑みを浮かべたまま手で制す。
口をあんぐりと開けたものの言葉を吐き出すことも適わず、仕方なく深いため息だけを吐き出し、浮かしかけた腰をゆっくりと沈め、また話を聞く姿勢に戻る。

「そう、世の中にはそんな言葉がある。確実に存在し、一般に浸透しているのだよ。もしかしたら、鈴君やクドリャ……小毬君のぱんつを拝みに行くことを、「新年初っ端からそんなこと」と言って拒む少年は、信じてくれないかもしれない。「そんなバカな」と鼻で笑うかもしれない。だがな、現実に世の中は「姫はじめ」と騒いで、新年の粛々とした空気など棚の最上段に放り投げて、獣の如く互いの体を貪る連中で溢れているんだ」
「そ、そうなの?」
「年越しの瞬間を恋人と、なんて考える輩は多いだろう? そんな奴らが、年を越して新年の挨拶をして初詣に行って……それだけで終わると思うか?」
「………」
「きっと、終わらないさ。君と私がこうして話している間も、何百何千何万というカップルが乳繰り合っていることだろう」
「……まぁ、そうなのかもしれないけど、それと、ぱんつを見に行くことはどういう関係があるの?」
「いや、特にない」
「えぇー」

今の小話はいったいなんだったんだ。

「何かそれらしい言葉でこじつけたら納得してくれるかと考えたんだが、途中で無理だと諦めた。なかったことにしてくれ」
「ちょっと真剣に聞き始めてた僕がバカみたいじゃないか」

僕のそんな呟きに、来ヶ谷さんがはっはっはと笑う。
彼女は僕で暇つぶしをするためにここにやってきたんじゃないかと、この瞬間僕は本気で思った。
そしてその推測は恐らく正しいのだろうが、聞いたところではぐらかされるのが西園さんのおっぱいのなさくらい目に見えていたので、内心で留めるだけにしておいた。

「まぁ、少年がそこまで嫌がるのなら無理強いはしないがな」

来ヶ谷さんはそう言うと、みかん箱に置いてあった柿の種を一つ取って、口に放り込む。
帰る気はないらしい。
いや、ぱんつを見に行こうと誘うためだけに来たなんてのも嫌すぎるから居座ること自体は別にいいのだが。
とりあえず悪乗りに付き合わされなくて済んだらしいということに安堵し、僕も今まで持ち続けていたピーナッツを食べる。
別に温くなったりしていたなんてことはなかったのだが、手の中にひたすらあったということで、口の中に入ったピーナッツが仄かな温もりを持っている気がして、なんかちょっといやだった。
でも、おいしい。
そのまま黙々と三粒ほどピーナッツを連続で食べ進めると、同じように柿の種をつまんでいた来ヶ谷さんが、思案しているかのようにぼんやりとした顔をしながら、僕にも聞こえるくらいの声でつぶやいた。

「佳奈多君は、柑橘類が苦手らしいが」
「うん、そうみたいだけど」
「それは味とか香りがダメなのだろうか。それとも、姿かたち自体にすらもう抵抗感があるのだろうか」
「さぁ、そこまでは知らないけど。それがどうかしたの?」
「いや、果物の柄が入ったぱんつなんかは穿いたりするのだろうか、と思ってな」

今日の来ヶ谷さんはなぜこうもぱんつを推すのだろうか。
僕はむしろそちらの方が疑問で仕方がなかった。

「……まぁ、可愛いと思ったら、穿くんじゃないの?」
「だが柑橘類だぞ、少年。大嫌いなはずの柑橘類を自ら身につけるなんて行為を、佳奈多君がするとは思えん」
「じゃぁ、穿かないんじゃない?」
「しかしもし仮に少年の言うように「あ、これ可愛い」とか思った場合、実際に買って穿くかどうかは別として、佳奈多君は頭の中で相当の自問自答をし、葛藤をするということになるわけだ」
「……まぁ」
「それは、ものすごく可愛くないか?」
「うん、ものすごくどうでもいい話だね」

来ヶ谷さんが不満そうに眉を潜めた。
いや、そんな同意を求められても困りますよ。

「少年はイマジネーションが足りない。ほら、佳奈多君が下着売り場で一人むっつりとした顔をしながらじっと果物柄のぱんつを見つめているというシチュエーションを想像してみたまえ」
「いや、そもそもそんな子供くさいぱんつ、クドならまだしも佳奈多さんは穿かないでしょ」
「そんなものわからないじゃないか。というか今君はまたひどいことを言った気がするが」
「気のせいだよ。ほら、枯れ尾花がどうこうっていう、あれだよ」
「つまり錯覚だな」
「うん」
「今日の君は天丼が好きだな」
「今日の来ヶ谷さんがぱんつごり押しなのと同じようなもんだよ」
「そうか」

来ヶ谷さんがピーナッツを一粒食べる。
僕も食べる。
コリコリと噛み砕く音が部屋を包む。
もぐもぐ。

「暇だな」
「というか何で来たの」
「鈴君のぱんつを見に行こうと計画した瞬間、居ても立ってもいられなかった」
「それで僕のところに来る意味がわからないんだけど」
「少年なら二つ返事で乗ってくると思ったんだ。興奮しすぎて全裸になって女子寮に突っ込むところまで想定していたのだが」
「靴は履くよ」
「そうだな」

裸足はキケンだな、と言って、来ヶ谷さんは柿の種を口に運んだ。
寝ていないのだろうか、勢いがあったのは最初だけで、今は声色や表情からそこはかとない倦怠感がうかがえる。
それは僕も同じで、声を張る気力すらもうなくなり、でも寝たら彼女に何されるかわかったものではないので、何とか柿ピーをつまみつつ話題を探した。

「初日の出とか、見に行く?」
「外は寒いな。却下だ」
「だね」
「皆と初詣に行くのは、十時だったか」
「うん。校門集合」
「自分の部屋に戻ったら寝てしまいそうだな。このまま時間まで理樹君の部屋にいるとしよう」
「僕、寝たいんですけど」
「ふふ、今夜は寝かさないぞ、少年」
「もう朝ですけど」
「ふふ、今朝は寝かさないぞ、少年」
「語感悪いねそれ」


ふざけようとしてふざけられず。
突っ込もうとして突っ込めない。
平常時よりも七十パーセント減くらいのテンションで、元旦の朝を来ヶ谷さんとまったりトークをして過ごす。
これはこれで悪くないかもしれないねなんて、もずくを完膚なきまでに無視して柿ピーをつまみつつ、僕らは力なく笑い合う。
なんだかんだで年明けの深夜に二人で過ごす男女であるはずの僕と来ヶ谷さんは、寝不足から来る気だるさを隠すこともせず、柿ピーを食べ続けるのだった。


終わり



勢いに任せて書きなぐったよ。
描写少ないとか初詣シーン全カットなのは、勢いのせいだから気にしないでね!
姉御SSは一年に一回でいい気がしてきた。

ということで、あけましておめでとうございます。
今年もこんな感じで、TOPSS四割、超短編と倉庫直送四割、情報サイトお世話になります系二割でやっていこうと思います。
配分は今決めました。
でも大体合ってると思う。

前に言ってた通りコミケに行ってきましたが、他の方のサイト見ればおれがどういう行動を取っていたのか大体わかると思うので、行動レポートは書きません。
でも初コミケ参加&初同人誌購入な上に、購入物自体少ないので、ゲットしたものだけは紹介します。

art_shop_kinokoさんの、「突撃!!お前の筋肉さん!」
表紙の右隅に「※吹いたら負け」と書いてあって試しに読んでみたら吹いたので、敗北宣言という意味で購入。
初めて買った同人誌。
処女喪失。

りきおさんの「ハッピーエンド!」、「真のおにいちゃん決定戦!」、「男祭エクスタシー」、「突発的な朱鷲戸さんシナリオ妄想本」
ご挨拶&お世話になってます&諸々個人的事情により購入。

ドラゴン牛乳さんの「momentary」、真琴(Kanon)のラミカ
元テンチョーさんが店番してて、「買ってけや」みたいなことを言われたので購入。
真琴のラミカはタダだったのでもらってきた。
ラミカって何なんだろう。

鈴木このり&鈴木姉妹さんの「シューティングスター」
手に取って何ページか読んで面白そうだったので購入。
何で手に取ったのかは正直謎。
多分勢い。

Walkway of the Cloverさんの「キャンドルライトに口づけを」
購入したわけではなく、仲良くさせていただいているひかりさんからいただく。
しかもあんぱんさんから後日渡されるという体たらく。
コミケ心残り一。

・サークル稲屋さんの、クドイラスト入りチロルチョコ。
りきおさんの隣のブース?だった稲屋さんが持ってたチロルチョコ。
りきおさんブース近辺で比較的余裕を持ち始めた時に、「これ何ですか?」って聞いたらくれた。
でも本は気づいたら完売してて買えなかった。
泣いた。
コミケ心残り二。

・葉留佳イラスト入りキーホルダー
オフ会時にあんぱんさんが「はるちんだけ貰い手がいなくて」みたいなこと言ってタライ回しにされていたところを奪う。
ジャケットのポケットに入れてたはずだが、帰ってきてからないことに気づく。
でも多分どっかにある。
ごめんよはるちん。



以上です。
この圧倒的なまでに少ない購入数の原因は何なのかというと、りきおさんのブース付近からほとんど動かなかったからです。
多分歴戦のコミケ参加者&経験者の方なら(もしくはそういったイベントに行ったことがない方でも)、おれがコミケに行ってどういう状態にあったのかは想像できるんじゃないかなーとか思います。
あとあんぱんさんとしまさんの新刊が予想以上に早く完売してしまい購入できませんでした。
でもおれ買わなくても売り切れたし、これについては別にいいかなとか思ってる。
読みたかったけど。
心残りとして、ひかりさんに会いに行けなかったこと(直接買いに行けなかったこと)、稲屋さんの本を買えなかったこと。
でも稲屋さんはあんぱんさん&しまさん同様に売り切れたからいいかなとも思う。
でもやっぱりチロルチョコもらっといて本買わなかったのは申し訳なかったなぁ。

コミケについてはこんな感じで。
他にもコミケ当日はもっと色々とあったり大晦日にはメイドカフェ行って涙目になったりオフ会あったりしたんだけど、もうここまででものっそい長くなってるんで、今回は「オタク舐めてたわ」の一言だけ言って終わります。
暇とか気力とか需要があったら詳細に書きます。

そんなこんなで。
今年もCmajorをよろしくお願いします。

今回は何か実にゲーム二次創作サイトらしいTOPになった気がする。
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