「二木さん?」
「何?」
「僕、二木さんの事、好きだよ」
「……はぁ?」

二木さんが、素っ頓狂な声を上げる。
僕は、気づいたのだ。
仲良くなる為には、お互いの気持ちを伝え合っていかないとダメなんだという事に。
そういう意味で、僕と二木さんはそれが圧倒的に足りていなかった。
まぁ葉留佳さんと親しくなって、その関係で流れ的に交流を持ち始めた様なものだし、それは致し方ないかもしれない。
けれど、僕はこのままでいいとは思っていない。
何てったって、僕の彼女…葉留佳さんのお姉さんだ。
仲良くしたい。
別にそういう理由がなくとも、せっかく知り合ったのだ。
出来るなら、バスターズの皆の様に、楽しくやっていきたいと思う。
けれど、二木さんは僕に対して冷たい態度を取る事が多い。
対する僕も、仲良くしたいとは思うものの、どこか二木さんと一歩引いた付き合いをしてきた感は否めない。
ここらで、もう一歩踏み込んで交流を図るべきではないかと考えたのだ。
その為に、まず僕の二木さんへの気持ちをはっきりと言うべきではないかと思い、こうして二木さんの前に現れたというわけである。

「…新手の冗談か何か?悪いけどちっとも面白くないわよ?」
「冗談なんかじゃないさ。僕は至って本気だよ」
「……」

二木さんが驚いている様に目を丸くしている。
それはそうだろう。
今まで邪険に扱ってきた相手が好意を示し、友好を計ろうとしているのだから。

「…そ、そんな事言われても…どう返したらいいかわからないわ」
「どうして?」
「だ、だってあなたには葉留佳がいるじゃない」
「葉留佳さんは関係ないよ。ただ僕の純粋な気持ちを伝えているだけさ」
「……」

動揺を隠し切れず、目を泳がせる。

『佳奈多さんは恥ずかしがり屋さんですから』

クドが前に言っていた事を思い出す。
きっと二木さんはストレートな言葉に弱いのだろう。
現に、あれだけ鉄面皮な二木さんがおろおろとしているではないか。
だがしかし、僕のこの言葉によって、二木さんの中に僕の存在が確実に根付いた事は間違いない。
それは僕への信頼感を与え、僕らは互いに信頼し合う…そう、ゆくゆくは親友になれる可能性を秘めているのだ。
これはまだ初期段階に過ぎない。
こうやって毎回僕が二木さんに対して歩み寄る態度を取り続ければ…決してそれは夢では終わらない。
完璧だ……完璧すぎるよ、この作戦っ!

「…さ、さっぱりあなたの言っている意味がわからないわ」
「そう?しごく当たり前の事を言っているつもりだけど?」
「だからよ…」
「深く考えすぎだよ。単純に言葉の通りに受け止めればいいよ」
「……」

目を伏せる。
効いてるな、確実に。
葉留佳さんもそうだが、この人も心の触れ合いというものに酷く臆病な面がある。
僕も親を早く亡くしたので愛情に関しては自信はないが、友情には自信がある。
かけがえのない、友がいるから。
下を向いて歩いていた僕の手を、引っ張ってくれた人がいたから。
そして今、僕が二木さんの手を取る番だ。
さぁ二木さん、僕の手を取るがいい!

「……あ」
「え?」

呆けた様な声を出し、僕の背後に視線を向ける二木さん。
何かあったのかと、後ろを見る。

「…り、理樹君」
「葉留佳さん…?」

そこには葉留佳さんの姿が。
愕然とし、目尻に涙が浮かんでいる。
どうしたんだろう…?

「どうしたの、葉留佳さん…?」
「……やっぱり」
「え?」
「やっぱりそうだったんだね理樹君っ!うわあああぁぁぁんっ!」
「葉留佳さんっ!」

大声で泣きじゃくりながら走り去ってしまった。
一体全体どうしたんだろ、葉留佳さん。
というか、『そうだったんだね』って…何が?

「とりあえず……待ってよ葉留佳さぁーーーんっ!」

何やら尋常じゃない雰囲気だったので、ひとまず後姿を追いかけた。

「ふぅ…」

走り出した時、二木さんの安堵の息が聞こえた気がした。
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