2時限後の休み時間。
かまって欲しそうな目を向ける真人を華麗に、そして豪快にスルーして、僕は喉を潤す為に自販機へと向かう。
真人と遊んでもよかったのだが、何故か真人と遊ぶと妙に喉が渇くのだ。
今でさえ少し乾いているというのに、これで真人と遊んだら授業中水が欲しくてたまらなくなりそうだった。
真人の暑苦しさが原因だろうと踏んでいる。
むしろそれしかない。
暑苦しさが、僕はおろか教室中の湿気を奪っていってるに違いないのだ。
…凄すぎるよ、真人。
でもそんな所も真人の良い所だよね、と心の中だけでフォローしつつ、ガヤガヤと学生らしい騒がしさをBGMに、廊下を歩く。
その時。
「ちょっと、直枝理樹?」
「…え?」
背後から呼ばれて振り返れば。
「二木さん」
「……」
二木さんがいた。
何か用かと次の言葉を待つが、彼女は何も言わずこちらを見つめてくるだけ。
…どうしたのだろう?
「…あの、二木さん?」
「……はぁ」
仕方がないので僕から声をかけてみたのだが、何も言わず、溜め息をついて歩いていってしまった。
僕を通り過ぎ、奥の角を曲がって見えなくなった。
……何がしたかったのだろうか。
さっぱりわからない。
二木さんと知り合い、こうして会話をする仲になったが、相変わらず彼女の言動や行動には疑問符がつくことが多い。
彼女の中では考えがあるらしく、後々どういう事だったのかわかる事も多いのだが。
つまり、今回もそれに倣って考えれば、今考えても彼女の真意を予測することはできないだろうという結論に達するわけで。
考えるだけ無駄ということで、思考を切る。
そして自販機に向かう為、僕は再度歩き出したのだが。
「理樹くーんっ!」
「うわっ」
また後ろからの声と共に、抱きつかれた。
馴染みのありすぎる声。
今回は振り向かずともわかる。
「葉留佳さん」
「やはー、理樹君っ!今からどこに行く途中?」
「ちょっとジュースでも買いに行こうかな、てね」
「本当?私も行こうと思ってたんだ!一緒に買いに行こうよっ!」
「うん、いいよ」
しゅたっ!と抱きつくのをやめて僕の隣に並んだのは、やはり葉留佳さんだった。
相変わらず元気だなぁ。
その軽快さに苦笑を浮かべていると。
「ねぇ……こうしながら、歩いてもいい?」
「え?……うっ、ちょっと!?」
「えへへ…」
何をするのかと思えば、廊下のど真ん中で腕を組んできたのだ!
周りの事など気にせず、葉留佳さんは嬉しそうに僕の腕にくっついている。
これは恥ずかしい…。
「ちょっと葉留佳さん?さすがにそれは――」
やんわりと断ろうとしたその瞬間。
「お姉ちゃんダメーーーっ!!!」
先程いなくなった二木さんが走って戻ってきたのだ。
てかお姉ちゃんっ!?
「……もう、ダメじゃない葉留佳。そこで出てきたら意味ないでしょう?」
「だって……お姉ちゃんくっつきすぎ!」
「仕方ないでしょう?このダメ男が気づかないんだから…」
戻ってきた二木さんと葉留佳さんが会話しているのだが…?
二木さんが葉留佳さんにお姉ちゃんと言って、それで葉留佳さんが…?
混乱する脳内を少しづつ整理していき……漸く、事態を把握し始める。
「もしかして…」
「やっと気づいたの?…私が佳奈多で」
「私が葉留佳だったんですヨ!」
僕にくっついていた葉留佳さん?が離れ、特徴的なお下げを梳かす。
そこには…いつもの無愛想な二木さんがいた。
そして、元気良く自己紹介する二木さん…いや、葉留佳さん。
顔は実にそっくりだったが、こうしてみると雰囲気とか表情とか微妙な違いがある。
全然気づかなかったが…。
「もう、理樹君ってば全然気づいてくれないんだもん」
「本当に使えない男ね、直枝理樹…」
「いや、こんな短時間じゃ気づかないよ…」
ボロクソに言われ、些細な反抗を試みる。
だって2人とも本人に成りましているんだもの、気づけったって難しいよ…。
「そこは『愛の力』とかで速攻気づいてよ〜!」
「まぁある意味良い展開になったわね…面白かったわよ、直枝理樹」
「……」
ぶーぶーと文句を垂れる葉留佳さんと、ニヤリと唇の端を吊り上げる二木さん。
こうして休み時間は自販機に行く事適わず、姉妹に弄ばれ続けたのだった。
ていうか、二木さん。
あなた風紀委員長なのにそんな事してていいんですか…?