次の時間は移動教室なので、真人と謙吾と一緒に廊下を歩く。

「最近は理樹が構ってくれねぇから寂しいぜ…」
「あっそ」

妙に擦り寄ってくる真人をあしらっていると、前方に見知った女生徒が2人。
どちらとも個々に見れば見知っていると自信を持って頷く事が出来るが、だがしかし、そこには僕の知らない彼女らが存在していた。

「…こ、古式っ!?」
「は、葉留佳さん!?」

僕と、そして謙吾が驚きの声を上げる。
前方に見えていた女生徒2人とは、葉留佳さんと古式さんだった。
確かに僕は、葉留佳さんも古式さんも知っている。
知ってはいる……だが、葉留佳さんと、古式さんが交流を持っているなどという事は、全く知らなかった。
彼女らが会話している姿など今まで目にした事などなく、たった今、目の前に広がっている光景は、正しく『僕の知らない彼女達』なのであった。

「……だそうですよ」
「へぇそうなんだ〜、知らなかったよ!」

しかも、仲睦まじく話している。
それ程親しい仲だったのか…?
何故か僕らは足を止め、10メートル程先にいる彼女らを眺めていた……のだが。

「こ、古式っ!」
「はい…?」

何を考えているのか、謙吾が間を割る様にして話しかけた。
謙吾の気持ちもわからないでもないが、正直謙吾が古式さんに話しかけた所で何か良い展開が発生するとはとても思えなかった。
現に、古式さんの謙吾へ向ける眼差しは、酷く鬱陶しげだった。

「…何ですか?」
「いや、その……三枝とは、仲良かったのか?」
「まぁ」
「こっちを向いて喋りなさいっ、人と話す時は顔を見て喋る!」
「…うるさいですね」

謙吾の言葉の一つ一つに顔を顰める古式さん。
…あなた、そんなに謙吾が嫌いですか?
そして謙吾、言ってる事完全に親父ですから……。

「…っ!?直枝さんっ」
「は、はい?」
「あ、理樹君だーっ」

野次馬の様に観察していたら、標的が今度は僕に移り、葉留佳さんと古式さんが駆け寄ってくる。
……が、謙吾とは対照的に、彼女らは嬉しそうに寄ってきてくれた。

「移動教室ですか?」
「ま、まぁね」
「一緒にお話しようよーっ」
「いや、時間ないし……というか、2人とも仲良かったんだ」
「はい、最近仲良くさせてもらっています」
「うん、すっごい良い人だよ、古式さんっ」
「へ、へぇ〜…」

自分の時とはまるで別人の様に明るく振舞う古式さんを見やり、謙吾が石像の様に廊下のど真ん中に立ち尽くす。
……謙吾、ごめんよ。
古式さんにちやほやされる僕は、謙吾の遠くを見る目が非常に申し訳なかった。

「それでは、直枝さんも時間がないという事で、私も……もう一匹、変なのもいますし」

ぼそっと最後に毒を吐く。
……謙吾、あなた本当に何したんですか?

「う〜ん、それじゃ私も教室戻るよっ!」
「それじゃ、また後で」
「うん、またね〜!」
「それでは…」

会話もそこそこに、散会する。
嵐の様にいなくなった彼女らの背中を眺めてから、ふぅ……と溜め息を吐きながら、体を正面に戻すと。

「うっ、うぅっ、古式ぃ……」
「まぁ、その…なんだ?元気出せよ……」

図体のでかい2人が、廊下のど真ん中で寄り添っていた。
……謙吾、ごめんっ!

その切ない姿に、僕は心の中でもう一度深く謝罪したのだった。




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