「……リキ」
「…来たか」
「はい」

真昼間だというのに、カーテンは締め切られ、光を最大限まで遮った部屋。
微かな隙間から外の光が差し込んでくるものの、それは部屋内にいる人物を視認させる量には至っていない。
そこに、クドがドアをわずかに開いて身を滑り込ませて入室してきた。
開いた瞬間にクドの姿を目にしたものの、閉まった後は再び暗闇の世界に突入し、彼女の姿も推測で探る程度まで闇に紛れていた。

「…報告は?」
「はい……商店街のファンシーショップ『いのしし』にて5点程見繕ってきました」
「ほぅ……して、その品は?」
「ここに」

肩に掛けていた鞄の中から手探りで何かを取り出し、テーブルに置いた。
カサカサという乾いた音から、それが紙袋だというのがすぐにわかった。
僕はそれを徐に持ち、開封し、中身をテーブルに出す。
紙状の物が4点、そして消しゴムらしき物体が1個出てきた。
このままではしっかり見えないので、携帯のライトをそれらに当てる。

「……これは」
「どうでしょう?私なりに配慮してみましたが…」
「…うむ、これは盲点だ。ひょっとするといけるかもしれん」
「良かったですっ……でも、これでまだ終わりではありません」
「ん?」
「後、これも…」

クドが、ライトに当てられた場所に1枚のカードを置く。
色とりどりのペンで何やら書かれている。

「……そうか、そういうことか」
「はい…」
「…クド、君はやはり素晴らしいよ、まさかここまでとは…」
「いいえ、これもリキがいるからこそです」

先程から声を低くして雰囲気を出そうと試みているが、クドの舌足らずな発音のせいでどこかお惚けの感が否めない。
が、あえてそれを指摘はせず、僕も努めて雰囲気を出しながら、口の前で手を組む。

「…クド。僕らは互いに争わず、こうして手を組むのが、何よりの近道だったのかもしれんな」
「はい…しかし、それも今までの戦いがあったからこそでは、と私は思うのです。互いに真剣に気持ちを通わせたからこそ、今の私達があるのではないかと思うのです」
「……そうか、それもそうだな」
「はいっ」

元気良く頷いた後、クドが品物を紙袋の中に収めていく。
それを確認してから、僕は問題となる場所に、目を向けた。

「…さて、後は」
「…机に置いて、このカードをその上に置いておくだけです。そうすれば――」

パチンッ!

「な、何だっ!?」
「わふーっ、眩しいですーっ!」

突如入れられる電気のスイッチ。
一瞬にして部屋が明るく照らされる。
暗所から一転目が光に晒され、網膜の細胞が上手く調節できず、眩しさに目が眩む。

「…クドリャフカと……直枝理樹?あなた達、部屋を暗くして何をやってるの?」
「げぇっ!そ、その声はっ!?」
「佳奈多さんですーっ!」

ようやく慣れてきた目をすぐさま入り口に向けてみれば、そこにはクドのルームメイトである佳奈多さんが!
ま、まずいっ!
彼女の机に置いた物を隠せとクドに目配せしたが、クドは気が動転しているのか、わふわふ言うだけで使い物にならなかった。
そして、努力も虚しく……。

「まさかあなた達………ん?これは」

部屋に入ってきた彼女は、目ざとく自身の机に置かれた物を発見してしまった。
紙袋の上に、1枚のカード。

『佳奈多さん、これ、使ってください。あなたにぴったりすぎです。    by理樹
可愛いので佳奈多さんにもお裾分けですっ。                byクドリャフカ』

メッセージカードである。
それを適当に読み流した後、ガサゴソと紙袋から物を取り出す。
数々のキャラクターが載っているシール4枚と、クドのセンスで買ってきたのだろう、あまり可愛げのないキャラの消しゴム1個。
暫しそれを観察した後。

「まだこんな事をしていたのね……これは少し、お灸を据える必要があるわね」

唸る様にして、部屋に声を響かせた。
そのおぞましさに恐怖し、浅ましくも僕とクドは言い訳過ぎる弁解を始めてしまう。

「いや、それはさ、僕らからのほんの気持ちというかさっ」
「そ、そうですっ。私達は良かれと思ってやっ――」
「いいから二人ともそこに座りなさいっ!!!」
『は、はいぃぃぃっ!』

結局僕らは、正座で小1時間程佳奈多さんの説教を食らった。
クドはその長さに辟易していた様だが、僕はいつものお仕置きと比べればそれ程辛くもなかった。
この程度で済んだのもクドがいたからだろうと感謝していたら、帰り際。

「後で覚えてなさいよ…?」

クドに聞こえないくらいの大きさで、ぼそりと耳元で囁かれた。
別メニューは、しっかり練っていらっしゃった様だった。








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