今日も今日とて放課後はテスト勉強。
だけど、いつもと違うのは、僕が今女子寮のとある部屋に向かっているという事。
クドを隣に連れて。
というのも、二木さんに一緒に勉強をしないかと誘われたからだった。
成績優秀な二木さんと一緒にやれるのなら勉強もはかどるだろうと、僕は二つ返事で了承。
葉留佳さんは逃亡した。
よほど勉強が嫌らしい。
二木さんも少し前まではしつこく葉留佳さんに勉強する様に言っていたらしいが、今では放置しているらしい。
悪い成績を取って身に染みればいい、とこの間ぼやいていた。
葉留佳さんがいないので中止になるのかと思えば、クドも参加しているので勉強会はやるらしい。
『クドリャフカ、直枝理樹…徹底的にしごいてあげるわ』と、誘いに来た昼休みに言っていた。
その顔の何たる邪悪な事か…。
葉留佳さんが逃げ出すのもあの人のせいなのかもしれない。
とはいえ、一度了承してしまったものを取り下げるわけにもいかず。
さらに、クドを1人あの人の下に置くのも可哀そう…。
ということで、僕は今二木さんとクドの部屋へ向かっているのだった。

「二木さんは?」
「多分もう部屋にいると思います。『一応客人だから片付けておくわ』と言っていましたし」
「一応、ね…」

あの人の性格とはいえ、少し切ない。
交流を持って早数ヶ月。
もうちょっと気を許してほしいと思うのは我侭だろうか?

「最近、佳奈多さんよく笑う様になったんですよ」
「へぇ…」

そう思っていた矢先に、クドがそんな事を言う。
笑う様になった、ねぇ…。

「僕には全く笑いかけてくれないけどね…」
「佳奈多さん、恥ずかしがり屋さんですから仕方がないのです。きっと、リキの事も気に入っていると思いますのですっ!」
「そうだといいんだけどね」

自信満々に告げるクドに、苦笑で返す。
あの二木さんが、僕を気に入っている、ねぇ…。
つい先程それを願ったものの、そんなイメージ、全くもって想像ができない。
でも…。

『頑張りなさい、直枝理樹』

あの時は、確かに優しいと思った。
違う一面を見れたと、何だか嬉しくなった。
あれが、あの人の本当の姿だったのだろうか…。

「まさかね」
「何がですか?」
「いや、何でも」

そんな話をしていたら、部屋に着いた。
クドと二木さん、2人の部屋に。

「リキが先に入ってください」
「え、僕が?」
「はいっ」

笑顔でそう言われてしまったので、僕が先に入る事にする。
ドアの前に立つ。

コンコン。

ノックをして。

「直枝でーす、入りまーす」

ドアを開けた。
部屋の中の反応を待たずに。

ガチャ。

「……」
『……』

二木さんは、ピタリと停止していた。
僕も、彼女の姿を見て、動きを止めた。
上着にかけられた手。
ちらりとのぞく腹部。
彼女は、着替えをする所だったらしい。
下着姿になっていないだけ、幸いだった。
彼女は、恐らく一般上の理由の他にも体を見せたくない理由があるだろうから。
それでも、ちらと見えるおへそがたまらなくセクシーで、心臓が一瞬大きく鼓動してしまったのは男の性だろう。
しょうがないよね、男の子なんだもの。

「……」
『……』

スッ…

服を掴んでいた両手を離す。
そして、僕らの方へ向いて仁王立ち。
ぷるぷると、体が小刻みに震えている様な気がする。
いくらしょうがないと思っても、彼女はそれでは済まないだろう。
うん、わかってた。

「…クド、逃げるよ」
「わふっ?」

僕の背中に隠れていて事態が飲み込めていなかったのか、わけがわからないといった表情で僕に引っ張られるクド。
あれは、噴火前の火山だ。
怒りというマグマが、どろどろと煮えたぎっていた。
そして、それはすぐにでも飛び出して…

ガチャンッ!

「な、お、え、り、きーーーっ!!!待ちなさぁぁぁいっ!!」

ドドドドドドっ!

とんでもない速度で走ってくる二木さん!
迫るプレッシャー!
かなり怒ってる!

「よほど死にたいらしいわねぇ、直枝理樹っ!!」
「ごめんなさい、わざとではないんですっ!」
「うるさいっ、記憶がなくなるまで殴り続けてあげるわっ!」
「ひ、ひぃっ!」

こうして、いつもの様に二木さんから逃げ回る僕なのであった。





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