僕は、どこで道を誤ったのだろうか。
彼女と出会ってから?
それとも、あの人と出会ってから?
……いや、きっかけなど些細なものに過ぎず、結局の所僕が自ら踏み外しただけなのだ。
どっちつかずな態度を取り続けた、代償なのだ…。
ざっ…と、砂利の音が後ろから聞こえた。
誰かが来たのだ。
そして、その『誰か』というのが誰なのかを、僕は漠然とではあるが理解していた。
ゆっくりと振り返る。
抱えた予想はやはり裏切る事はなく、思った通りの人物が僕の目の前に姿を現した。

「…理樹、君……」
「葉留佳さん……」

校舎内だから当然といえば当然なのだが、彼女はいつも通りの装いで、僕が今までの見てきた彼女の姿と何ら変わりはなかった。
そう、外見に関して言えば、僕らは何も変わっていなかった。
変わっているとすれば……。
僕らの、お互いの気持ちだったのだ。

「ねぇ……ウソ、だよね?」

顔をくしゃりと潰しながら笑って、彼女は呟いた。
僕はそれに答えない。
彼女が何に対して『ウソ』と言っているのか判断出来ないのだから、ここで迂闊に答えを導き出すのは決して頭の良い事ではない。
……いや、違う。
僕は怖いのだ。
どんな反応をしても、結果、彼女を傷つけてしまう事に変わりはないのだから。

「…どうして?じゃぁ、前に言ってた事はウソだったの?」

先程の笑顔も涙を我慢した故のものだったのだろう、言葉を吐き出していく内に、みるみる彼女の顔は歪んでいく。
心なしか、目尻に涙が溜まっている様にも見えた。
その表情は僕の心を抉ったのは言うまでもないが、そこで彼女に傾いてしまっては、やはり僕の心は蒟蒻よりも軟いという事を証明してしまう。
もう、僕は『彼女』の傍に居てあげる事は、出来ないのだ。
僕の心はもはや『彼女』にあるのではなく……。

「お姉ちゃんとは……何でもないって言ってたのにっ!」

佳奈多さんに、あるのだから―――。







「………」
「どうだ?まだほんのさわり程度だが、中々面白そうではないか?」

読み終えた頃を見計らい、来ヶ谷さんが笑い混じりに話しかけてくる。
原稿用紙3枚に綴られた、達筆な文章。
姉妹と男の三角関係を描いた愛憎劇。
まぁいきなり修羅場というのも面白みがあるかもしれないが、何よりも……。

「僕と葉留佳さんと佳奈多さんの名前、どうにか出来ませんかね?」
「ん?何故だ?」
「いや、誰かに見られたりすると色々まずいし…」
「何を言うんだ理樹君」
「え?」
「だから面白いと言ったんだよ」
「あんた最低ですねっ!」

もしかしたら皆こういう関係だと思っているのだろうかと、この時少し不安になったのだった。




「よし、今度は葉留佳君に見せてこよう」
「やめてくださいっ!」




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