鈴が一向に戻ってこないので、僕も仕方なく校舎内に入る事にする。
うららかな陽気を惜しみつつ、僕はベンチから腰を上げた。
と、そこでポケットに入れていた携帯が震える。
恐らくメールだ。
まぁリトルバスターズの誰かだろう、と僕はポケットから携帯を取り出し、開く。
やはりメールだった。
差出人は…。

「…葉留佳、さん?」

別におかしな事ではない。
恋人であり、かつ仲間でもある彼女が学校内であろうとメールを送ってくる事は変ではないというか、至って普通の事だ。
だが、しかし、この一時においてのみ、僕の脳内は何故か妙な警告を発していた。
それは虫の報せと言えばいいのか…嫌な予感が、体中を走り回った。
彼女に何か重大な何かが起きたという気持ちではない。
むしろ、自分の身に何か起きるのではないかという恐怖が…湧き上がっていたのである。
しかしながら、このまま無視するという選択肢を選ぶ事など不可能なのはわかりきっていたので、じっとりと汗を滲ませながら、僕はゆっくりとメールボックスを開いた。
絵文字もなく、飾り気など一切ない淡白な文章が、数行に渡っていた。

『題名:最近』

『本文:理樹君がかまってくれません。
お姉ちゃんや鈴ちゃんとばっか2人きりでお話して、私とはちっとも話をしてくれません。
…ねぇ、私達、恋人だよね?
信じていいんだよね?
もしも』

ここで、メールは終わっていた。
ぶつ切りで終わらせている文章に、僕は鳥肌を立てずにはいられなかった。
まさか……見られていたっ!?
ベンチの前で周りを見渡す。
障害物もなく、見渡しやすい場所だから、誰かしらの存在はすぐ見つけられる…はずだったのだが。

「……いない」

中庭には、人っ子一人いやしなかった。
校舎の窓から見下ろしている線もあり、さっと見てみたが、やはりそこに彼女の姿はなかった。
くそっ……またやらかしたのか!?
過去のボコボコ体験談が甦り、何とかせなばと闇雲に打開策を模索していると、また携帯が震える。
また葉留佳さんからだ。
メールを開く。
本文はない……空メールかと一瞬思ったが、そのメールには添付ファイルが。
……音楽ファイルだった。
警戒しながらも、やはり僕にはどうする事も出来ず、そのファイルを開いた。

『壊れるほ〜どあい〜しても〜♪3分の1〜もつた〜わらな〜い♪』

サビから突如鳴り響く、軽快なラヴソング。
10年程前にヒットした曲だった。

「……」

えー…つまり?
アイラビューさえ言えない彼女のマイハートは、純情な感情で空回っている、と?
………ごめんなさいっ!
あまりにもストレートな歌詞に罪悪感が生まれ。

彼女から贈られて来た曲をリピートさせながら、僕は心の凍てつく寒さをGoodこらえるのだった。






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