「…理樹は、私と真人の事が嫌いなのか?」
「…いきなり何なの?」

偶然中庭で鉢合った僕と鈴は、何の気なしにベンチで日向ぼっこをしていた。
会話という会話もなく、ただただぼんやりと過ごしていたのだが、唐突に鈴が口を開いたと思ったら、いきなりこんな質問をされた。
最近鈴は、『好き』とかそういう質問が多いな。
誰か好きな人でも出来たのかな?

「前にきょーすけが作ってきた変な機械あっただろ?」
「機械…?」
「理樹が嘘を付くと音が鳴るやつだ」
「あぁ、嘘発見器の事だね」
「そうだ、あの時は私と真人が理樹に『好きじゃない』と言われた」
「いや、言ってないよ」
「言われた様なものだ」

恐らくまだ恭介からあれの真相を聞いていないのだろう、あの日の事を未だ信じている鈴が、若干声を低くする。
まぁ、面白そうだから教えなくてもいいかな。
なんて思う辺り、僕もちょっと恭介に感化されてきたのかもしれない。
…良い方向にかどうかはわからないが。

「だから、嫌いなのか、と聞いたんだ……どうなんだ?」
「……」

もしかしたら、あの時の一件は鈴にとっては辛いものだったのかもしれない。
僕に『好きじゃない』と言われ(実際言ったわけではないが)、それを確かめたくとも、もし肯定されたらと考えるとそれが出来ず…ずっと引きずってきて。
あれから、今の今までどうなのか気になって仕方がなかったのだろう。
もしかしたら、最近の鈴の質問も、あれから来ている事なのかもしれない。
そして、今ようやく決心が着いて、聞いてみたものの。
不安は拭えないという心情は、鈴の表情を見れば一目瞭然だった。

「もちろん…そんな事ないさ」
「理樹…」

だから、間違っても『だって、機械が…』なんて事を言えるわけがなく。
鈴が不安になっているのなら、それは何としてでも解消してあげるべきだと思った。

「僕は皆大好きだよ」
「…でも、あの機械は鳴った……ということは、きょーすけや謙吾より、あたしらの方が好きじゃないということなのか?」
「そうじゃないよ……好きに大きさなんかないさ。好きなものは、皆好き……だから、恭介も謙吾も鈴も真人も…それに、他の皆も同じ様に好きだよ、僕は」
「そうか…」

ほっとした様に、鈴は微笑んだ。
鈴の気持ちに気づいていたにも関わらず、それでも嘘発見器の真相を話そうとしない僕は、やはりどこか意地悪くなったのだろうか?
……いや、当然の心理だと主張したい。
と、喜びに浸っていた鈴が、何かに気づいた様に、こちらに笑いかけながら口を開いた。

「ということは、あたしに対する『好き』と、はるかに対する『好き』も同じくらいということだなっ?」
「いや、鈴への『好き』は恋人としてじゃなくて友達として、だから種類が違うよ」
「やっぱり理樹は私の事が嫌いなんだあああぁぁぁーーーっっっ!!!」
「好きって言ったのにっ!?」

被害妄想を抱えたまま、逃げ出すように校舎内に駆け込んでしまった。
……難しいなぁ。

鈴も思春期なのかな?などと親父みたいな事を思いつつ、僕は鈴の好きな相手が誰なのかをぼんやりと考えるのであった。





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