「理樹君理樹くーんっ」

放課後、グラウンドに向かおうとした所で葉留佳さんに話しかけられた。
たたたー、と廊下の向こうから駆けて来る。
立ち止まり、僕は葉留佳さんが来るのを待った。

「どうしたの?」
「あのねっ。なぞなぞっ!」
「…は?」
「なぞなぞしたいのっ!していい?」

わざわざ走り寄ってまでする事なのかと思わないでもなかったが、無邪気に笑う葉留佳さんを見て、その考えを切り捨てる。
まぁやりたいというのだから、乗ってあげよう。
僕はいいよと一言置いて、彼女の問題を待ち受ける事に。

「それでは問題っ。ジャジャンっ!」

わざわざ効果音付きかい。

「上は洪水、下は大火事。これな〜んだっ?」
「……」
「おーっと?理樹君には難問ずぎたかなぁ?」
「…いやぁ……」

へらへらと得意げに見下してくる葉留佳さんにとぼけた声を出しつつ、僕は頭をぽりぽりと掻く。
何ともまたベタな問題…。
もしかしてボケのフリかっ?
……いいや、普通に答えよう。

「お風呂でしょ?」
「ええーっ!?何でわかったのっ!?」
「いや、その問題は幼稚園レベルだから…」
「やっぱ理樹君はあったまいいねーっ」

このこのーっ、と肘で突いてくる。
何か馬鹿にされている様な気がするのは気のせいだろうか。

「くだらない遊びしてるわねぇあなた達…」
「佳奈多さん」

そこに現れたのは佳奈多さん。
放課後の人気のない廊下のど真ん中で騒いでいればそりゃ目立つか。
腕を組んでつかつかと歩み寄ってくる彼女の態度は、どこか挑戦的だった。

「いいじゃん、面白いんだからぁ」
「あなた達も高校生なんだからもう少しまともな遊びを――」
「それじゃぁお姉ちゃんにもんだーいっ!」
「…あのねぇ……」

言葉を無視してなぞなぞを出そうとする葉留佳さんに、思わず米神を揉む佳奈多さん。
しかしそれでも妹には甘いのか、溜め息1つ吐いたものの、話を聞く事にした様だった。

「問題は何?」
「おぉやる気ですネ……それじゃいきます。ジャジャンっ!」

やっぱり効果音付けるんだね…。

「パンはパンでも食べられないパンな〜んだっ?」

また何てベタなっ!
もしかしたら僕の時より難易度は下がっているかもしれない。
…まぁ、どんぐりの背比べくらいの話だけれども。

「ふふ、簡単すぎて欠伸が出るわね」

さすが佳奈多さん……といったらいいのかわからないが、悩む事なく答えを見出したらしい。
…いや、まぁこのくらいの問題は知っていて普通なんだけどさ。
不敵に一笑した後、佳奈多さんは自信たっぷりに口を開いた。

「答えはパントマイムよ」

……。
思わず時が止まる。
さすがの葉留佳さんもこの答えは予想していなかったらしく、頬に汗をたらりと流して固まる。

「……な、なによ。合ってるでしょっ?パントマイムは食べられないじゃないっ」
「…いやまぁそうなんだけどさ」

変な空気が流れたのを察知した佳奈多さんが自分の答えを主張するが、微妙な雰囲気は変わらない。
普通はフライパンとかなんだけども…。

「うっ……ね、ねぇっ?合ってるわよね、葉留佳っ!?」
「え〜…そですネ、合ってるよ、うん……」
「何で目を逸らすの葉留佳っ、ねぇっ!?」

気まずい空気が流れる中僕は、必死に葉留佳さんに縋る佳奈多さんに哀れみの視線を向けたのだった。






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