「理樹は最近、風紀委員長と自販機の前で仲良く話しているらしいな」
「まぁそうだけど」
「よし、じゃぁあたしとも話そう」
「へ?」

ということでやってきました自販機。

休み時間に突入するや否や手を引っ張ってここまで僕を連れてきた鈴は、どれにしようかなと小学生の様に飲み物のラインナップをきょろきょろと見比べている。
この休み時間に来る気はなかったのだが、連れてこられたのだから仕方がない。
鈴が買うのを待ってから、僕も飲み物を買う。
何となく気分的にコーヒーを選ぶ。
鈴はカフェオレを選んだらしかった。
2人紙コップを手に持ち、横に並ぶ。

「よし、それじゃ理樹、何か話してくれ」
「えぇっ?」

随分な無茶ぶりですねっ。
そう言いかけたが、棗兄妹の唐突さは今さらなわけで。
長年の経験からなのか、一瞬湧き上がったツッコミを心の中で静める。
鈴はというと、無邪気な笑みを浮かべたまま僕が話すのを楽しみにしている。
うっ、どうしよう…。

「……」
「……」
「……」
「……おい」
「え?」
「理樹から話を振ってくれないと、あたしが何も言えないじゃないか」
「そう言われても…」

紙コップを持たない手で頭を掻く。
正直、改まって鈴と話す内容を探すとなると難しい。
いや、あるにはあるのだが…どうも、話の広がりを期待できそうなものばかりだ。
というよりも…。

「何ていうか、鈴とは無理に話す仲じゃないと思うんだよね」
「ん?…どういうことだ?」
「何も話をしなくても鈴とは気まずくないし、会話がないからって話すネタを探す気もないというか……ごめん、うまく言えないや」
「……つまり、理樹は私と一緒にいると落ち着ける、という事か?」
「まぁ、そういう事だね」
「そ、そうか…」

照れを隠す様に、カフェオレを飲む。
首についている鈴が、小さく音を鳴らす。
僕はそれが、嬉しいと言っている様な気がした。

「まぁ、逆に言えば2人でいてドキドキとかしないから新鮮味がないという事なんだけどね」
「死ねっ!理樹なんて玉突き事故で死んでしまえぇぇぇーーーっっ!!!」
「何故玉突きっ!?」

またも罵倒して走り去っていく鈴。
彼女のショックぶりを窺わせる様に、空の紙コップが僕の足元に転がっていた。

というか鈴、交通事故関連の冗談は僕らにとって笑えないよ…。



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