昼休み。
少し催したので、教室から抜け出してトイレに向かう。
その途中、廊下でとある2人組みを見かけた。

「よぅ、古式」
「…どうも」

謙吾と、古式さんだった。
そういえば、あの2人親しかったんだっけ。
古式さんが事故にあったのをきっかけに、2人は話す仲になったと聞いた事があるようなないような…。
今現在は彼女も回復してそれなりに学校生活を満喫しているらしいが、謙吾との交流は未だにあったのか。
まぁ、元気になったからといって疎遠になるわけではないだろうし。
それにしても2人ともルックス良いなぁと眺めながら、トコトコと歩く。
徐々に近くなるにつれ、2人の会話がよりはっきりと聞こえてきた。

「元気だったか?」
「まぁ…」
「最近は何か趣味とか見つけられたのか?」
「そこそこに…」
「そ、そうか…」

あ、あれ?
何か、とでもではないけど仲睦まじい会話も聞こえないし、雰囲気もそれっぽくない。
いや、まさかな…。
幻聴であってくれと願いながら、何食わぬ顔で歩きつつ、耳を大きくして会話を盗み聞く。

「どうだ、食堂裏にでも行って話をしないか」
「結構です」
「そ、そうか…なら、立ち話でも何だから茶でも――」
「結構です」
「……じゃ、じゃぁ!今度の休みにでもどこか遊びに――」
「お断りです」
「うおおおぉぉぉーーーっっ!!!」

あぁ、僕らのロマンティック大統領がっ!
誘いという誘いをぴしゃりと止められ、昼下がりの廊下で絶叫する謙吾。
それを見て、僕は何か妙な感覚に捉われていた。
あれ…何だろう、この気持ち…。

「それでは、用がなければこれで」

情けという言葉を自前の弓でどこか遠くに射ってしまった様な古式さんは、無残に塩の塊と化す謙吾を放置してすたすたと去ってしまい。

「こ…こしきいいいぃぃぃーーーーっっっ!!!」

廊下に、謙吾の切ない叫び声が木霊した。


謙吾……謙吾も、苦労してるんだね…。
その姿に、思わずほろりと涙を流してしまう僕。
僕の胸の内に芽生えた感情は、『同情』という名の、やはり情けなく切ないものなのであった。



inserted by FC2 system