昼休み。
恭介も交えて教室でだべっている時の事だった。

「最近、理樹と風紀委員長仲良くね?」

真人が、そんな事を言い出した。

「ちょっと、いきなり何言ってんのさ」
「そういえば、ここの所仲睦まじく追いかけっこしてるのを見かけるな」
「どうなんだ、理樹?何かあったのか?」

恭介と謙吾も乗ってくる。
何か勘繰っている様だが、本当に何もないのだ。
なぜ追われるのかは少し思い当たる節もあるのだが。
というのも、僕と二木さんは以前は『名前を知っている』程度の関係でしかなかった。
しかし、葉留佳さんと親密になり、恋人関係になるまでの過程において、二木さんと関わる場面も少なくなかった。
むしろ、重要な部分には必ず二木さんが関係していた。
嫌でも関わりを持たざるを得なかった僕らは、自然とお互いの人となりを知り、打ち解けあい…今に、至っている。
つまり、二木さんは容赦がなくなった、という事なのではないかと思う。
以前までも、僕ら『リトルバスターズ』に目を光らせていた様だが、僕らの事をあまり知らなかったからなのか、あまり介入してこなかった。
まぁ、恭介の手際が良いというのもあるのだろうけれども。
しかし、二木さんは葉留佳さんと仲直りをし、少しではあるが僕ら…特に、僕と関わりを持つ事が多くなった。
そこで、わかったのだろう。
メンバーの中で、僕が最も捕まえやすいと。
自分で言うのも酷く情けないのだが、僕が風紀委員側だったとしても、恭介や真人、謙吾といった屈強な面々は相手にしたくない。
それに比べて僕は、身体的にも精神的にも一般人並…だと思う。
なので、騒動を今だ繰り返す僕らを矯正するために、手始めとして僕を捕まえる気なのだろう。

「本当に何もないって。僕も何でかわからないし」

こんな考えを持ってはいるが、それを打ち出す気はない。
葉留佳さん達の話は皆にはしていないし、二木さんと『打ち解けた』などと言ったらまたからかわれるだけだ。
なので、僕はあくまで知らないという風情で、とぼける事にした。

「そうかぁ?それにしてはお前も何か楽しそうじゃね?」
「あぁ。お前ちょくちょく二木の話するもんな」
「あの娘はしっかりしてるからな…お似合いじゃないか?」

けれども、恭介達はさらに踏み込んでくる。
というか、何か僕と二木さんくっつけようとしてる!?
いや、めちゃくちゃ口元ニヤついている…わかってやがる、この人達!
僕の隣に、葉留佳さんがいる事を…。

ガシッ!

「理樹君?…ひょっとして…?」
「い、痛い…痛いっす、葉留佳さん…」

掴まれた肩が、キリキリと痛む。
徐々に加えられる力が恐怖感を煽る。
僕の彼女、こんなに怖い人でしたっけ…?

「な、何もないから安心してよ…ね…?」
「…本当?」

すっ…と手の力が緩められ、痛みから解放される。
よし、このまま畳み込め!

「そりゃ、葉留佳さんのお姉さんだからね、仲良くしたいとは思ってるけど、やましい事は何もないよ」
「…わかった、理樹君を信じる」
「信じてよ。大丈夫、僕は葉留佳さんしか見えてないから…」
「り、理樹君…っ!」

葉留佳さんが目をうるうるとしてこちらを見つめている。
自分で言っておいてなんだけど、とんでもなく恥ずかしい。

「ひゅーっ、理樹やるじゃねぇか!」
「もう、俺のものだった理樹はどこにもいないのか…」
「……」

恭介がはしゃぎ、真人が落ち込んでいる。
というか、いつ僕は真人のものになってたのだろう。
そして、無表情でこちらをじーっと見ている鈴。
あの、そんなに直視されると気になるんですが…。

「り、鈴?どうしたの?」
「……ふんっ」

ぷいっと不機嫌そうにしながら顔を背けた。
何か怒らせる様な事したかなぁ…?
後で聞いてみよう。

「と、いうわけで。僕と二木さんは何でもないから。もうこれ以上この話はナシね!」
「わかったよ…」

このまま続けていると何を話されるかわかったもんじゃない。
もちろん、二木さんとは何もないのだが、葉留佳さんの機嫌を損なわせるのは激しくいただけない。
二木さんの話が立ち消え始めたので、ここぞとばかりに話を締める。
ふぅ、これで後は穏やかな昼下がりへと…。

「でも少年は、きびきびと行動し、しっかり者で、少し頭が固い部分もあるがそれに有り余る程の優しさを持ってる佳奈多君もいいな〜、と思ってたりするのだろう?」
「…っ」

来ヶ谷さんの一言。
その言葉に、ピクリと体を揺らしてしまった。
別段意識してはいなかった。
けれども、体は反応した。
それはつまり、僕自身無意識にそういう感情を抱いていたという事。
そして。

ガシッ!

「理樹君?少しお話があるんだけど…いいよね?」
「…はい」

僕の彼女を、怒らせてしまったという事だ。
後ろから掴まれた肩。
先ほどとは比べ様もない力。
あの…もげちゃいます。

ずるずる。

「……来ヶ谷さーん」
「はっはっは、葉留佳君の愛をしかと受け止めてくるがいい」

引きずられながら何処かへ連れていかれる最中、僕の耳にはずっと来ヶ谷さんの笑い声が木霊していた。






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