夢…。
夢を見ていた。
それは、これから訪れるはずだった、楽しい夢。
終わるはずのなかった、夢。
元気な妹。
しっかり者の姉。
そんな2人に囲まれながら…。
昼下がりの陽気の様に、緩やかに過ごしていく。
もし、そんな日が、また取り戻せるのなら…。
約束…だよ…?
「………で?」
まだ低く位置する太陽の光が、廊下の窓から差し込める。
人は既にいない。
いるのは僕と、彼女だけ。
キュッ、とリノリウムの床と彼女の靴が擦れる。
それを、僕は間近で見つめていた。
僕の視界からは、彼女の足元しか見えなかった。
何故なら。
立ち尽くす彼女の前で、僕は土下座をしているからだ。
「何が言いたいのかしら?」
「端的に言いますと……すいあせんしたぁっ!」
額を地に擦りつけながら叫ぶ。
葉留佳さんからの衝撃事実を聞いた、明くる日。
恐れおののきながら、びくびくと校舎内に足を踏み入れて早5秒。
1階廊下で二木さんとバッティングした。
生徒の流れを遮る様に立ち尽くす僕ら。
そして何故か気を遣う様に先に行ってしまう幼馴染達。
生徒の流れが切れる。
その場にいるのが僕達だけになる。
彼女は何も喋らない。
かといって僕が迂闊に何か喋ったら薮蛇な可能性が……。
必死に頭を巡らすも、打開策はまるっきり出てこない。
長時間に及ぶ沈黙に耐え切れなくなった僕が出した答えが…。
土下座、である。
まぁ何と安直な、と思わないでもないが、他にやれる事がない。
パンチかキック一発貰う覚悟で、弁明してみる。
「先日の件、私の早とちりで酷く不愉快にさせてしまった事、深くお詫び申し上げたくこの様な……て、あれ?」
それっぽく聞こえる様に慎重に言葉を繋いでいたら、いつの間にか見えていた二木さんの足が目の前にない。
上半身だけ起こし、きょろきょろと見回すと…。
いた。
僕から、20メートル程先に。
「いくわよーっ」
大手を振る二木さん。
何が…?
不思議に思っていると、二木さんが駆け足でこちらに向かってくる。
いや、駆け、足……じゃない!?
段々速くなってるっ!
な、何をする気―――
「どおおりゃぁぁぁぁっっ!!!」
ドグシャッ!
「ごはぁっ!」
格闘ゲームの様に派手にぶっ飛ぶ僕。
全速力からのドロップキック…。
スピード、そして体重の乗ったそれは、床に腰を下ろしている僕を空中に浮かす事など造作もなかった。
「ふん、それで許してあげるわ」
すちゃ、と華麗に着地して、一言。
そ、そうですか…それは、よかった……。
意識が切れる前に、僕も何か一言…。
白濁する意識の中、僕は言葉を紡いだ。
「ピ、ピンク……可愛らしくて良――」
「死ね」
言葉半ばで、顔面へ正拳突きを食らって僕の視界はブラックアウトした。
その後、目を覚ました僕は何故か教室の自分の机に臥せっていた。
目を覚ました後に二木さんとも遭遇したが、至って普通だった。