その夜。
真人が筋トレに行っている最中、葉留佳さんと電話をする。
普段メールがメインだが、たまには声を聞きたくなるらしく、こうして電話をかけてくる。
そして僕も同様に、電話をかける事もある。
一日の大半共に行動しているだろう…と言われそうだが、恋人ってこんなものだと思う。
四六時中相手の存在を感じていたいのだ。
特に夜は何かと感傷的になりやすいから、そういう部分が強いのかもしれない。
最も、僕の部屋は夜が一番うるさいのだが。

『ねーねー理樹君』
「うん?」

葉留佳さんが語りかけてくる。
僕は思考を切り、彼女の声に耳を傾けた。

『そういえば理樹君ってさ、お姉ちゃんに可愛いキャラクターグッズプレゼントしようとしたんだって?』
「……ふ、二木さんから聞いたの?」
『うん』
「そ、そっか…」

汗が頬を伝う。
や、やばい…そんなに怒ってたのかな?
まさか彼女である葉留佳さんに愚痴でも言いに行ったのか?

『それでね、お姉ちゃん今日同じ様なの買いに行ったんだよ』
「ふーん………えぇっ!?」
『うわっ、びっくりしたぁ!もう理樹君、電話元で大声出さないでよぉ』
「あ、ごめんっ。でも、二木さんが何で!?」
『どうしたの急に』

そりゃぁ慌てるに決まってる。
あれ程僕のプレゼントを無下にした二木さんが、その類の物を買いに行く?
そんな馬鹿な。
何かの罰ゲームか?
驚天動地の事実に、僕は興奮気味に携帯を耳に近づける。

『なーんかさ、お姉ちゃんクド公からボールペン貰ったらしくて、それも理樹君見たんでしょ?』
「う、うん…」

あのショックな気持ちがじわじわとぶり返してくる。
あぁ、やはり妹の彼氏より、寝食を共にするルームメイトの方が上だったんだよね…。
誰もいない部屋で、1人自嘲気味に笑う。
しかし、その笑みも次の葉留佳さんの一言で瞬く間に凍りつく。

『それでね、理樹君が凄い悲しそうだったからって、さすがに理樹君のだけ貰わないのは可哀そうだからって買いに行ったんだよ』
「へぇ〜………っ!?」
『お姉ちゃん律儀だよねぇ……あれ?でもそう言えばさっき怒って帰ってきた様な…』

葉留佳さんの声が遠く聞こえる。
ま、まさか…。
今日、街の雑貨店で見かけた時の、あれは…。
冷や汗が止まらない。
あ、あの時僕は何をしたんだっけ…。

『おんやぁ〜、その手に持ってるの、何です?』
『わかってますよぉ二木さん。僕にはちゃ〜んとわかってますからぁ』

走馬灯の様に今日のあの記憶が駆け巡る。
や、やばい…やばすぎる。
絶対……二木様がお怒りになっていらっしゃる!!!

『…理樹君?もしもーし、理樹くーん!』

明日、僕無事にここに帰ってこれるかな…。


葉留佳さんとの電話そっちのけで、二木さんへどうやって許しを請おうか必死に頭を悩ませる僕なのであった。




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