次の日。
未だ軽くブルーな僕を見兼ねてか、恭介が街へ行こうと言い出した。
外に出る気分ではなかったが、まぁ気分転換になるかと思い直し、恭介と2人寮を出た。
他愛ない会話をしながら歩く。
そして、商店街へと足を踏み入れた時、その人はいた。
それは、違和感だった。
存在するはずのない場所に、存在している。
新発見だらけの街並み同様に、その光景は未知との遭遇だった。
可愛らしいピンクの看板が掛けられた雑貨店。
主に女の子向けの小物を扱っている店だ。
ガラス張りのショーウインドウから、中の様子が見て取れる。
そこに、違和感の正体があった。

「……二木さんじゃないか」

そう。
何と、乙女チックなこの雑貨店の中に二木さんがいたのだ。
何やら手に取った商品をじっと見つめている。
ちなみに、ここは以前僕が二木さんへの第一回目のプレゼントを調達した店でもある。
二木さんが頑なに拒んだ品物が整然と並んでいる店。
そこに、彼女が入店している。
確かに彼女は僕のプレゼントを受け取らなかったが。
クドの微妙に憎めないグッズは何だかんだで受け取っている。
それはつまり…?

「……な〜るほど」

口がニヤケる。
普段僕はからかったりする人間ではないが、こんな場面を目撃してしまったとあれば、悪戯心がもたげてくるというもの。

「どうした、理樹?」
「ごめん、恭介。ちょっと行ってくる」
「お、おいっ」

恭介を半ば無視し、ニヤニヤと、傍から見れば不気味極まりないだろう笑みを浮かべながら堂々と雑貨店に足を踏み入れる。

「いらっしゃいませ〜」
「どうも」

カウンターに立っているお姉さんに手を上げて挨拶する。
ペコリとお辞儀をしてくるお姉さん。
青年が単独でこんな店を訪れようものなら即刻不審げな目をされそうなものだが、その辺僕に抜かりはない。
最初に訪れた時に『妹へのプレゼントなんです』と言い含めてある。
それをお姉さんは真に受けたらしく、今もこうして笑顔を僕に振りまいてくれている。
正直嘘を吐いた時は良心がちくりと痛んだが、僕にも世間体というものがある。
それに、女の子へのプレゼントという点には間違いはないのだから、許容範囲内というものだろう。
カエルのアップリケがアクセントのエプロンを着ているお姉さん(推定年齢23歳)との挨拶もそこそこに、僕は二木さんがいた所へと進む。
そんなに広い店ではない。
1分とかからず、彼女の姿を発見する。

「…いた」

物陰から様子を探る。
二木さんはまだ吟味している様で、ペンだの消しゴムだのを手に取るが、何かを振り払う様に首を振ってはそれ置く。
そしてまた、別な商品を取り…を繰り返している。
その様子を観察していて、はたと気づく。
二木さんがいる場所は、何とキャラクターグッズが置いてあるコーナーではないか。
僕が手に取った筆記用具セットも、ここに並んでいる。
……やっぱり二木さん、こういうの好きだったんだな〜、隠さなくてもいいのに。
『キキ○ラ』の定規を熱心に見つめる二木さんに、一層からかいたい気持ちが高まってくる。
いつもいじられてるけど、たまには僕がいじる側でもいいよね…?
むふふ、とどこかの悪代官の様な含み笑いを心の中で浮かべつつ、そろり、そろり…と二木さんの背後に回る。
彼女は気づかない。
やばい…相当楽しい…。
何とも言い難い高揚感を押し隠すのももはや限界。

「どうも〜」
「っ!?」

早速声を掛ける。
ビクッ!とアニメでも早々お目にかかれないくらいのオーバーリアクションで肩を震わせ、捻じ切れるのではと思うくらいの速度で首だけ僕の方へ向ける二木さん。
そして、僕の姿を認めた瞬間、彼女の目が一際大きくなった。

「な、直枝理樹っ!?こんな所で何をっ!?」
「いや〜、ちょっと通りかかっただけですよ〜…おんやぁ〜?その手に持ってるの、何です?」
「っ…こ、これは違うのよっ!?」

抱える様にして定規を胸元に隠す。
無駄無駄、もうバッチリ見ちゃってますから、二木さん。
ニヤニヤと悪童な笑いをしている僕を、二木さんがキッと睨みつけて吼える。

「あ、あなたが考えている様な事じゃないのよっ!?これにはちゃんと事情があって…」
「わかってますよぉ二木さん。僕にはちゃ〜んとわかってますからぁ」
「ぜ、絶対わかってないでしょう、あなた…っ」

羞恥と怒りでぷるぷると震える二木さんの肩をぽんぽんと軽く叩く。
励ます様に、慈しむ様に。
それが返って二木さんの怒りを買った様で、彼女の顔が沸騰した様に真っ赤になる。

「くっ、この……誰の為にここにいると思ってるのよっ
「え〜?何ですって〜?」
「ぐっ……何でもないっ!もう帰るわっ!」
「あ、ちょっと二木さぁ〜ん」
「ついてくるなっ!」

ぷりぷりと怒って去っていってしまった。
う〜む、少しやりすぎたかな…。
少し反省の色を見せつつも、慌てふためく二木さんが見れて今日は良い日だと最低な思いが大部分を占める僕なのであった。

「理樹…お前ってけっこうひどいな」
「え?何の事?」

後の恭介の証言によると、その後の僕のテンションは見違える様に上昇したらしかった。




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