放課後。
野球の練習を終え、夕暮れの中部室までの道のりをのんびりと歩く。
西園さんと2人で。
どうしてなのか、片付けやら何やらをやっている内にグラウンドに残っているのは僕らだけで。
せっかくなので一緒に部室まで行きましょうかうんそうしよう、という話になって。
今こうして2人肩を並べて歩いているのだ。
西園さんのトレードマークの1つともいえる日傘は、今は閉じて西園さんの足元でぷらぷらと揺れている。
最近、西園さんが日傘を差す光景をあまり見なくなった。
前までは何かと日傘を差す西園さんの姿を目にしていたものだが。
そんな事を考えながら、何の気なしに後ろを振り返る。
僕ら2人分の影が、長く、長く伸びていた。

「…どうしました?」
「いや、何でもない」

向き直り、再び歩き出す。
会話という会話はない。
けれど、気まずいわけではない。
まだ部活をしている連中がいるのだろうか。
どこか遠くで、掛け声らしき喝采が耳に入ってくる。
…こういうのも悪くない。
いつも幼馴染や葉留佳さんといった、何かと騒がしい面々で一緒にいるので、こういう穏やかな時間を過ごす事はあまりない。
西園さんと2人きりだからだろうか。
寡黙なわけではない。
けれど、進んで会話を切り出す人じゃない。
何よりも、この人とはそんなに沢山喋る必要はない気がする。
こうして一緒にいるだけで、気持ちは一緒になれる気がするから。

「…直枝さんは」

ぽつり、と西園さんが呟いた。
その一言も、この雰囲気を壊すものではなかった。
彼女は、こういう雰囲気を作るのが上手いのだろう。

「何?」
「…どうして、三枝さんと付き合おうと思ったのですか?」
「え?…いやぁ、そう言われても…」

彼女の質問に、頭を掻いて口ごもる。
特別な理由があるわけではない。
好きだから、としか言い様がないのだが、彼女が言わんとしている事はそういう意図なのだろうか。

「…私は……」
「……ぇ?」

立ち止まり、こちらを見た西園さんの表情は……憂いでいた。
何かを忍ぶ様な、惜しむ様な……そんな風に見て取れた。
僕は思わず言葉を失う。
僕と葉留佳さんが付き合う事は、西園さんには不都合だったのだろうか?
それは、どうして?
……自惚れても、いいのだろうか……。
いや、と僕は心の中で頭を振るう。
それは早計というものだ。
まず彼女の続きを促そう。

「西園さん…その……」

聞き出そうと口を開いたその時。

「彼氏の灰色阻止キーーーックっっ!!」
「ぶほぉっ!」

背後から威勢の良い声と衝撃。
前に景気良く吹っ飛び、錐もみ状で中空を舞う。
浮遊感に酔いしれ、薄れゆく意識の中、思う。
声からして、葉留佳さんに違いない、と……。

「もう、理樹君は女の子と2人きりになるとすーぐこれなんだからぁ!」

あぁ、やっぱり葉留佳さんだ……。

ごしゃぁっ!

地に沈む。
は、葉留佳さん…。
あんた、力入れすぎ…。

「棗……直枝……」

意識が途切れる瞬間、聞き取れたのは、西園さんのそんな単語だった。


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