昼休み。
皆との雑談を抜け出して、僕は自販機への前へとやってきた。
朝方、二木さんをここへ呼び出したからだ。
目的はもちろん、前回大失敗した二木さんへの誕生日プレゼントの仕切りなおしだ。
抜け出す際に、葉留佳さんにはその事を説明しているので問題はない。
一緒に行こうかと言われたが、遠慮しておいた。
二木さんも、葉留佳さんの目の前では恥ずかしいだろう。
昼休みが始まって20分後と指定し、僕は5分前に到着する。
呼び出した方が遅れるなどあってはならないので、幾分か余裕を持って来た。
贈る物を片手に持ちながら、彼女が来るのを待つ。

「…何の用?直枝理樹」

5分後、彼女はやってきた。
指定した時間ぴったり。
歩いてかかる時間も計算していたのだろう…相変わらず、この正確さには驚かれる。
何かと忙しい身の彼女である。
早速用件を切り出す。

「…この前は、ごめん」
「この前…?」
「その、プレゼント…」
「………あぁ」

あの時の光景が蘇ってきたらしく、あからさまに顔を顰める。
やはり、僕の選択はおかしかったらしい。
…似合うと思ったのだが。

「…それで?」
「今度は真剣に選んできたつもりだから…誕生日はもう過ぎちゃったけど、受け取って欲しい」
「……」

おずおずと、僕は持っている物を前に突き出した。
ピンクの包装紙で包まれ、アクセントに赤いリボンが巻かれた手乗りサイズの物体。
二木さんはまじまじと見つめた後、僕の手からそれを受け取る。

「…開けても?」
「うん」

了解を取って、丁寧に包装紙を剥がしていく。
徐々に輪郭が見え始め……遂にその姿がお目見えに。

「……手帳?」

二木さんが、呆けた様に呟いた。
そう、僕が選んだプレゼントは手帳だったのだ。

「二木さん、委員長やっててスケジュール管理とか大変かな、と思ってさ」
「……」
「なるべく二木さんに合う様に派手じゃない物を選んだつもりだけど…どうかな?」

赤色の、外観は至って普通の手帳。
僕にはあまり必要のない類だったので、どういう物がいいか少し調べた。
二木さんの嗜好は垣間見てきた。
筆記用具や、財布…。
その中で、二木さんはデザインは大人っぽい方が好みで、恐らく機能重視なのだろうと踏んだ。
そこから考えて、機能美と謳われるメジャーな物を購入した。
本当は手帳カバーも付けたかったけど、高価な物が多く、手が出せなかった。
ただでさえ葉留佳さんのペアリングで諭吉が吹っ飛んでいったというのに、前回の筆記用具セットもそこそこに高かった。
手帳一冊買うのが限度だったのだ。

「……まぁ」

そこで、二木さんが口を開いた。
不安に駆られながら、手帳から目を離さない彼女を見つめる。

「あなたにしては良いセンスだと思うわ……前回のに比べれば、断然ね」

そう言って、手帳を肩まで掲げながら、笑った。
その笑顔を見て、安堵感に胸が満たされる。
緊張を吐き出す様に一息吐く。

「よかった…」
「うん、中身も使いやすそうだし……ありがたく受け取らせてもらうわ」

手帳を開いて、早速ペンを挟もうとする胸ポケットに手を探る。
…はっ!?
その様を見て、妙案が閃く。
今こそこれが必要な時なんじゃないかっ!?
僕は電光石火の勢いでポケットをまさぐり、それを取り出す。

「二木さんっ!この『マイメ○ディ』ボールペンを挟んで可愛さアクセント――」
「その手の物はもういいっ!」

ペチーン。

カウンターで平手打ちされた。
彼女に可愛い物を持たせる日は、まだまだ遠い。
…クドからもらった物はまだ持ってる癖に…。

とりあえず、二木さんへのプレゼントは事なきを得たのだった。







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