2時限後の休み時間。
喉が渇いたので、教室を出て自販機へと赴く。
かまって欲しそうに見つめる鈴を無視して。
…とうとう鈴までか。
幼馴染が僕の知らぬ間にそういうミッションを実行しているのだろうか。
『理樹の相手をしろ』とか。
……考えすぎか。
でも、やっぱりもう少し考えた方がいいのかなぁ。
恋人と幼馴染との付き合いの両立に悩んでいると、目的地へと着いた。
先客がいたようで、1人自販機の前に立っていた。
…さらりとたなびく、薄紫の髪。
「…二木さん」
「あら、直枝理樹じゃない」
立っていたのは、二木さんだった。
最近ここでよく会うなぁ。
「よく会うわね、ここで」
「はは、僕も今それを思ってたよ」
同じ事を考えていた様だった。
妙な偶然に、僕らは笑い合う。
あぁ、何か和むな。
二木さんとこうして気軽に笑い合える関係になったのだと実感する。
「あなたは今日何飲むの?」
「うーん…無難にオレンジジュースにしようかな」
「私は…紅茶にしようかしら」
そんな他愛のない会話をしながら、二木さんはストレートティーのボタンを押す。
そして、お釣りレバーを捻る。
お釣りが出てくる音がし、二木さんが腰を曲げ、取り出し口に手を入れる。
ぐっお釣りを掴み、手を引き上げた所で…。
チャリンッ。
「あっ」
1枚の硬貨が落ちた。
100円玉だ。
硬貨はふらふらと転がりながら……二木さんの少し離れた所で止まった。
僕の方が若干近かった。
僕は何の気なしに腰を屈め……様とした所で。
「っ!?」
何か妙な記憶が脳裏を掠めた。
デジャブ…?
以前も何かこんな事があって、あまり良い思いをしなかった様な気がする…。
微妙に前かがみになったまま、それ以上体を曲げる事が出来ず、固まる。
す…
「あっ…」
そうこうしている内に、二木さんが硬貨を拾い上げた。
顔を上げた時、一瞬目が合う。
「……」
無表情だった。
数秒目が合った後、逸らす。
『まぁ別にいいんだけど……そこまでいったなら、拾ってくれてもいいんじゃない?』
そう言われた様な気がした。
何故か罪悪感が胸を満たす。
「……はい、次いいわよ」
「あ、うん…」
二木さんがいつの間にか紙コップを持っていて、自販機の前からどいていた。
歩みを進めた時、ふと二木さんと目が合った。
やはり、無表情だった。
「……」
金額ぴったりに小銭を入れ、オレンジジュースを買う。
数秒待って、紙コップを取り出す。
この間、横に二木さんはいるが、会話はない。
「……」
「……」
無言で飲み物に口をつける僕ら。
結局、飲み干してその場を去る間、僕らに会話はなかった。
あれ、結局どっちにしても……。