今日は葉留佳さんの誕生日だ。
祝うのは当然決まっているのだが、問題はプレゼントだった。
何をしようか相当悩んだ。
皆に相談しようかと思ったが、変な方向に行きそうな気がしたのでそれは避けた。
何か形に残る物の方が良いだろうか。
それとも、どこかのレストランの予約でも取ってディナー?
いや、それは僕…ひいては、葉留佳さんのノリじゃない。
頭を使った結果、ペアリングを買う事にした。
やはり物の方がいいだろうし、ペアリングなら何か恋人っぽいだろうし。
しかし、とんでもない事態が発生した。
指輪のサイズを聞いた瞬間バレた。
誕生日プレゼントが事前にわかられてしまうなんて、もう楽しみの半分が削れた様なものだ。
でも、仕方なかったのだ。
…だって指輪買うのにサイズわからないと買えないじゃないか。
しかも、誕生日間近だし、この話題を自然に聞き出すのは難しいよ…。
結局、『一緒に買いに行こうよ』と言われてしまったので、今日の放課後一緒に買いに行く事になった。
サプライズ要素はなくなってしまったが、葉留佳さんも不満げじゃなかったし、チョイスは問題なかったらしい。
明日はプレゼントの上に、デートで楽しませてあげればバッチリだろう。
だが、ここでもう1つ問題が発生する。
葉留佳さんの誕生日……それはつまり、二木さんの誕生日も意味するのだ。
友人なのだから、大層な物でなくとも何か贈るべきと、何にしようか頭を悩ませる……必要はなかった。
この件はあっさり解決した。
何を贈るのかすぐに決まったのだ。
閃きとは、こういう事を言うのだろうか。
思いついた時、思わず膝を打ってしまった。
そうと決まればとすぐ街へ赴き、物を買い求めた。
具体的な好みはわからなかったので、とりあえず何通りか用意してみた。
きっと、彼女は喜んでくれるに違いない。
そんな期待を胸に秘め、休み時間彼女と中庭で待ち合わせる。

「…何か用?直枝理樹」

さすが二木さん、授業終了間もなくやってきた。
朝方約束を取り付けたというのにこの真面目さ。
こういう所は見習いたいものだ。
鞄を背中に隠しながら、彼女と向き合う。
そして、大きく息を吸って。

「………二木さん、誕生日おめでとう!」
「……」

張り切って大声で言ったら、二木さんが驚いた様に目を見開いた。
まさか僕にそんな事を言われると思ってなかったのだろう。
これはサプライズ成功だ。

「……そうね、葉留佳の誕生日を知っているんだものね」
「うん」
「まぁ……ありがとう、と言っておくわ」

無愛想に言い放つが、顔はまんざらでもなさそうだった。
よかった、喜んでくれた様だ。
でも、まだこれでは終わらない。

「…で?まさかこれを言う為だけにここに呼び出したわけじゃないわよね?」
「もちろん。誕生日ということで、プレゼントをしようと思って」
「へぇ…どんな物をくれるのかしら?」

腰に手を当て、妙に挑発的な態度だ。
僕なんかが気の利いた物を選べるはずがないという気持ちの表れだろうか。
…まぁ、少し不安が残るのは否めないが。
でも、これは女の子は十中八九喜ぶ物だろうし、二木さんへ今後の希望も込めている。
きっと、嬉しがってくれるに違いない。
鞄から、その物を取り出す。

「……はい。二木さん、おめでとう!」
「……」

僕が出した物に、二木さんが呆然とする。
…あれ?どうしたんだろう?
あまりの感激に言葉をなくしたちゃったかな?
えへへ、困ったな…。

「…直枝理樹?これは何?」
「え?知らないの?」
「知ってるわよ……でもね」
「…何?」
「何で、『たれ○んだ』の筆記用具セットなのよっ!!」

ベシンッ!と叩かれ、『たれ○んだ』グッズが地面に散らかる。
あぁ、鉛筆がばらばらにっ!

「き、気に入らなかった?」
「当たり前よっ!どうして私がこんな物使わなきゃならないのよっ!」
「えぇっ?……じゃ、じゃぁこんなのはどうかな?」

鞄からもう1つ取り出す。

ベシンッ!

「速攻っ!?」
「今度は『ア○ロ犬』じゃないっ!しかもまた筆記用具セットっ!」
「これもダメかぁ……ええい、じゃぁこれならどうだっ!」

最後の物を勢い良く取り出す。

ベズンッ!

「やっぱりダメっ!?」
「『バッドばつ○』とかあなたいつの時代の少年よっ!?やっぱり筆記用具セットだしっ!」
「えー……絶対気に入ると思ったんだけどなぁ」
「……」

ぼやいていたら、二木さんが震えだした。
…あれ?
何か嫌な予感がした。
その刹那。

「もっかい考えてきなさーーーいっっっ!!!!」
「ぐはぁっ!」

地面に転がっていた『バッドばつ○』筆箱が僕の顔面に直撃する。
筆記用具共々、地面を転がる僕。
焼ける様に痛む顔を擦りながら起き上がってみれば、二木さんはいなくなっていた。
大変ご立腹だったらしい。
……やり直しですか。

溜め息を零しながら、無残にも散らばった可愛らしいキャラクターグッズ達を拾い集める僕なのだった。
というか二木さん、あなたお詳しいですね…。


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