「嘘発見器を作ってみた」

夜。
いつもの様に5人が勢揃いした所で、恭介が言った。

「マジかよ…よくそんなモノ作れたな」
「あれば面白いと思ってな。試行錯誤を繰り返してようやく完成したんだ」

自信満々に胸を張る。
まぁ恭介が色々作ってくるのは毎度の事だが…本当に凄い。

「それじゃ…理樹、お前がつけろ」
「…えっ!?何で僕がっ!?」
「お前が一番面白そうだからだ」

真顔で言われてしまった。
嫌な予感がしてならないが…恭介に言葉で勝てた試しがない。
足掻いた所で、理屈と屁理屈のオンパレードで、結局僕がつける事になってしまうのは目に見えていた。

「わかったよ…」

なので、素直につける事にする。

「よし。それじゃぁこの端子を握ってくれ」
「わかった」

缶コーヒーくらいの大きさの、直方体の無骨な機械。
それに繋がっているケーブル。
その先に、ペットボトルのフタくらいの鉄製の端子があった。
それを渡され、軽く握る。

「細かい論理は抜きにするぞ。とりあえず、こちらの質問に対して理樹が動揺した場合、その機械から音が鳴る仕組みになっている」
「つまり…理樹が質問に肯定したのに音が鳴った場合は…」
「嘘をついている、ということになるな」
「面白そうだな」

恭介と謙吾の説明に、鈴が身を乗り出す。
こっちは全然楽しくないんですが…。

「じゃぁ、早速だが始めようか」
「えぐい質問はしないでね…」
「わかってるさ」

そういう割りに、顔が笑っている。
絶対何か際どいの言ってくる気だな…。

「まず第一問。理樹は三枝葉留佳が好きである」
「…はい」

……。

「鳴らねぇな」
「あぁ…本当だということだな」
「よし、それじゃぁ第二問。理樹は二木佳奈多が好きである」
「…はい」

……。

「また鳴らなかったぞ」
「あぁ。理樹は二木の事が好きなんだな」
「何?理樹は風紀委員長が好きだったのか?」
「…いや、別に深い意味はないよ?普通に友達として好きって意味」

弁解してみるものの、恭介以外の3人の妙な視線が突き刺さる。
…いや、本当だよ?
邪推するのは勘弁して。

「…まぁ、よしとしよう」

恭介が話を止める。
…けっこうきつい。
単純な問いだが、『好き』という定義が曖昧なだけに答えづらい。
しかし、それよりも…。

「…どうした、理樹?」
「…いや、何でもない」

1つ気になる事があった。
質問を開始する瞬間から……恭介が、携帯を開いた事だった。
上手くちゃぶ台の死角を利用して隠しているが、僕の角度からは丸見えだ。
…わざと見せているのか?

「ここらでウォーミングアップは終了だ。そろそろ本番…行くぜ」

そう言って、顔ぶれを見渡す。
つまり…ここにいる面子に関する質問、という事だろう。
皆の表情が少し強張る。
……皆、気にしすぎ。

「それじゃぁ行くぜ、第三問!理樹は棗恭介が好きである」
「…はい」

……。

「セーフか…つまんねぇの」
「理樹…俺も好きだぜ」
「……ありがと」

目を見ながら言われる。
正直、後乗り的に言われたので複雑な心境だ。

「続いて第四問。理樹は宮沢謙吾が好きである」
「…はい」

……。

「当然だな。俺達は親友だからな」
「もちろんだよ」

謙吾と笑いあう。
というか、この質問を全員にするのだろうか?
一向に音は鳴らないと思うのだが…。

「けっ、何が親友だ…俺と理樹は心の友と書いて『心友』だぜっ!」
「おっ、真人自信満々だな」
「あったりめぇだっ!理樹は俺の事が好きで好きでたまらないに決まってるぜっ!」
「んじゃ第五問。理樹は井ノ原真人が好きである」
「…はい」

ピンポーン!

『……』

全員沈黙。

「……おい、誰か来たみたいだぞ?」
「言っておくが、インターフォンなどないからな、ここには」

真人が入り口の方を見て小ボケをかますが、謙吾にばっさり切られる。

「おい…マジかよ…機械の故障とかじゃないのか?」
「悪いが…機械は至って正常に動いている」
「残念だが…真人、そういう事だ」
「理樹っ!嘘だろっ!?嘘だと言ってくれぇぇぇっ!」
「いや、僕は正直に答えたつもりだけど…音、鳴っちゃったから」
「う…うあああぁぁぁっ!ハートがブロッケンGーーーっ!!!」

泣き叫びながら部屋を出て行ってしまった。

「ブロッケンG…?」
「ショックだと言いたかったんだろう」

謙吾の解説に、なるほどと頷く。
いや…ホントは好きだよ?
僕は真人の事…好きだと思ってるからねっ。
真人が走り去っていった入り口を見やりながら、心の中で真人に告げた。

「さて、そろそろ本格的に面白くなってきた所で…鈴、行こうか?」
「ふん、やるならやればいい」
「…何だ、随分適当だな」
「わかっているからな。あたしと理樹は相思相愛だ。そうに決まってる」

腕を組みながら偉そうに言い放つ。
大層自信があるらしい。
…けど、鈴?
相思相愛って、何か微妙に意味合い変じゃないかな?
まぁ間違っちゃいないんだけど。

「そうか…ならはりきって行くぜっ、最終問題!理樹は棗鈴の事が好きであるっ!」
「はい」

ピンポーン!

「…………おい」
「…どうした?鈴」
「それ、故障してるぞ」
「いや、してないが?」
「だって今音鳴ったぞっ!」
「鈴、お前の気持ちはわかるが…」

謙吾が残念そうに顔を俯かせる。
それを見て、鈴が動揺した様に仰け反る。

「ま、まさか……り、理樹。本当なのか…?」
「いや…さっきも言ったけど、僕は正直に答えたつもりなんだけど…」

そう言って、ちゃぶ台に置かれた機械に視線を向ける。
この機械が、反応してしまったのだ。

「う……」

鈴の目が潤む。
そして。

「り…………理樹なんて、嫌いだぁぁぁぁっ!!!」

真人同様、部屋を出て行ってしまった。
残る男3人。
恭介が溜め息をつく。

「ちょっとからかうつもりだったんだが……やりすぎたか」

携帯をふらふらと振りながら、カチリとボタンを押す。

ピンポーン!

音が、鳴った。

「やっぱりそうだったんだっ!?」
「あぁ。まぁ良い余興になったろ?」
「真人と鈴はどうすんのさっ!?」
「まぁ…眠くなったら帰ってくるだろ」

慌てる僕を余所に、妙に落ち着き払っている恭介と謙吾。
まぁ実害ないからだろうけど…。

「2人に会った時どうすればいいのさ…」
「なぁに、あいつらは単純だから明日にでもなれば忘れてるだろ」
「そうだな」

あっけらかんと笑う2人。
本当かなぁ…。
不安に苛まれながら、夜は更けていったのだった。





その後。
食堂で、僕をどうやって振り向かせるかで熱論を交わす鈴と真人の姿が目撃されたとかされなかったとか。







inserted by FC2 system