「なぁ〜んだ、先に言ってよ理樹君」
「いや、葉留佳さんの方が先に逃げてったと思うんだけど…」

ぐしぐしと目を擦りながら笑う。
きらりと光る涙を散らしながら走り去る葉留佳さんに、何とか追いついた僕は、何があったのかと事情を聞いた。

『だって、理樹君がっ…お、お姉ちゃんに…っ!』

これを第一声に、その後も泣きじゃくりながら、似たような事しか言わない。
どうやら先程僕と二木さんが一緒にいた事が、葉留佳さんを泣かせる要因になった様だった。
一緒にいたという事実が問題なのか、それとも話していた内容がまずかったのか。
2人きりでいたという事が問題なのだとしたら、それは僕が悪いし、許してもらう為に謝り倒すしかない。
けれど、話している内容に関しては、何もやましい点はないはずだ。
しかし、葉留佳さんの様子を見る限り、そちらの線の方が高い。
一緒にいただけならば、いつもの様に怒って僕をはっ倒すはずである。
誤解をしているのならば、解くしかあるまい。
あたりをつけた僕はとりあえず、二木さんと何をやっていたのか、僕が何をする為に二木さんといたのかを説明した。
そして、今に至るというわけである。
僕の本心を理解してくれたのか、葉留佳さんはすぐに泣き止み、僕の隣に並んで歩いている。
仲良く手を繋いで。

「全くもう、葉留佳さんは早とちりなんだから」
「ごめんねぇ…だって理樹君がお姉ちゃんに『好きだ』なんて言ってるんだもん」

そう言って、口を尖らせる。
…確かに、今考えればかなり誤解されがちな発言だったかもしれない。
僕にとっては友達として『好き』という意味だったのだが、あの状況であの言葉は、告白と捉えられてもおかしくはない。
作戦ばかりに目が行ってしまい、具体的な言葉選びがお粗末になってしまった。
僕もまだまだという事か。

「……ごめん」
「いいよ、理樹君のやろうとしてた事はわかったし」
「そっか、よかった…」
「…でも、もしさっきのが本当だったら……」

ギリギリギリっ!

手、手が痛いっ!
万力に挟まれた様だ!
ほ、骨が軋むぅっ!

「だ、大丈夫っ!そんなことは絶対ないから!」
「…本当?」
「も、もちろん…僕の彼女には、は、葉留佳さんしかいないと思ってるから…」
「そう…ならいいけど…」

手の力が抜ける。
じんじんと、未だ鈍い痛みが走る。
葉留佳さん、やっぱりパワフルなんですね…。

「ねぇ、理樹君?」
「な、何っ?」
「私の事、好き?」
「え?そりゃもちろん」
「女の子として?」
「うん」
「友達としてじゃなくて?」
「うん」
「恋してる、という意味で、好き?」
「……もちろんだよ。僕は今でも、葉留佳さんに恋してるよ」

真剣に答える。
僕のせいで、葉留佳さんを不安にさせてしまった。
けれど、僕は葉留佳さんしか見えていない。
皆好きだけど、葉留佳さんはまた違う意味で好き。
手を繋ぎたい。
キスしたい。
…触れ合って、みたい。
そんな気持ちになるのは、今だって葉留佳さんしかいない。

「……まだ、信じられない」
「…えっ?」
「だから……行動で示してよ」

すっ…と目を瞑る。
これは…いいのだろうか。
いや、そういう意味に違いない。
葉留佳さんの肩を掴む。
別に初めての事じゃない。
葉留佳さんと何度もしている。
なのに。
いつまで経っても、このドキドキが治まらないのは、何故なんだろう。

「……」

ゆっくりと顔を近づける。
葉留佳さんの顔が近づくごとに、僕の心臓は高鳴る。
あと、あと少しだ…。

「……?」

ふとその時。
僕の目が、視界の端に何かを収めた。
それは…。

ゆらりとたなびく、薄紫の髪。

「ふ、二木さんっ?」
「…お姉ちゃん?」

こちらに向かってくる二木さん。
ゆっくり、足を踏みしめるように、歩いてくる。
何だろう…。
緩慢な動作なのに一刻も早く距離を開きたくなる恐怖感…。
どこかで、感じた事が…。

「ねぇ、直枝理樹?ちょっと、用事があるのだけれど…」
「な、何かな?」
「一辺死んでこいっ!」

バゴンッ!

「ぶほぉっ!」

横殴りされ、地面に叩きつけられる。
そのままマウントポジションとられ。

「乙女心を傷つけられた恨み……ここで果たさでおくべきかぁぁぁぁっ!!!」
「ふぉぉぉぉっ!!」

烈火の如く怒る葉留佳さんの連打。
あぁ、二木さんは、修羅だったんだ…。
いつかの二木さんの姿を思い出し、僕は意識を手放したのであった。






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