屋上のフェンス際に置いてある朝礼台――一体どうやって持ってきたのかはわかりませんが、とに
かくそれがありました。息を飲み、私を迎え入れるかのように伸びる階段に足を掛けます。一段、二
段、三段……最上段まで登ったとしても、肩よりちょっと下ぐらいまではフェンスがあるので落ちる
心配はありません。しかし鳴く風、震える足元……怖くない、といえば嘘になります。確かに私は高
所恐怖症の気はありませんが、決して得意というわけでもないのですから。
 元を辿れば全て恭介さんのせいです。恭介さんが学祭の実行委員長になって、「未成年の主張をや
ろう!」なんて言わなければ、クラスの皆から「そーいえば西園さんが叫ぶところ、見たことないよ
ね」とか言われてとんとん拍子で代表なんかに選ばれなかったはずなのです。直枝さんや神北さんま
で同調するなんて……最悪です、最悪ですとしか言いようがありません。
 覗き込むように眼下のグラウンドに視線をやりますと、白いテントが碁盤状に並んでおり、その中
央にまるでアリのような黒い点が多数――よく見るとそれは私が着ている制服と同じものであり、多
くの生徒たちがこちらに視線をやっているのが見えました。まるで拷問のような所業です。
 しかし私はこの日のために、叫ぶ言葉を考え続けていました。私自身の主張……そう、言い換える
なら私が今、欲しているもの。それはきっと簡単には手に入らない。多くの人を犠牲にしなくてはな
らない。仲間も、そうじゃない人も、皆、皆蹴落とさないといけない。
 私は息を吸い、肺に空気を溜めます。かつて私が、これほど大きく、そして力強く何かを伝えよう
と思ったことはあったでしょうか――いいえ、なかったでしょう。クラスの皆さんがおっしゃる通り、
私は自己主張に乏しい人間ですから。だからこそこの言葉は強い意味を持つし、きっと私にも力を与
えてくれることでしょう。
 青空に白く伸びた雲に向かって、大きく遠く……私は叫びました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「――目指せ、壁サークルッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ……何故か時が止まった気がしました。


 




    
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