どばんっ!

「ほら見なさい直枝理樹っ!私の完全勝利よっ!」

僕の、久方ぶりの憩いの時間をぶち壊してくれやがったのは、豪快な扉の開閉音と、偉そうな女性の声だった。
ベッドに寝転がりながら漫画を読んでいた僕は、上半身だけを起こして、扉の方へと体を向けた。

「……やぁ佳奈多さん。どうしたの?」
「ふふっ……その間抜け面をしてられるのも、後何分でしょうね?」

ずかずかと部屋に入り込んでくる彼女に『風紀はどこに行ったの?』と言いかけたが、彼女の自信満々な笑みを見て、口を閉じる。
あまり怒らす様な事をすると、後々面倒くさそうだ。
機嫌がいいのに越した事はないなと、まずは彼女の話を聞く事にした。

「で?どうしたの?」
「覚悟はいいかしら?……これを、見なさいっ!」

ばさっ!と、佳奈多さんが僕の目の前にA4サイズ程のプリントを出してきた。
黒文字だけの、簡素な表。
名前と、学籍と、三桁の数字がセットになったものが、上から順に並んでいる。
上に載っている程、数字が高い……そう、これは。

「順位表?」
「そう、この間の中間テスト、30位までの生徒が載ったプリントよっ!」

何やら誇らしげに、彼女は説明を加えてくれた。
順位表ねぇ……お?
何気なく名前を上から眺めていれば、佳奈多さんの名前を発見。

「凄いじゃん、佳奈多さん。8位だよ」
「ふふっ、ありがとう……でも、あなたの名前もあるのよ?」
「えっ、どこ?」
「こ、こ、よ」

挑発的な態度で、彼女はとある場所を指差した。
……直枝理樹、25位。

「25位かぁ……ま、僕的には大健闘、かな」
「まぁ、あなたの成績も悪くないけど……私に勝つには、まだまだ精進が足りなかった様ね」
「……いや、別に佳奈多さんに勝つとか、考えてなかったし」
「なっ!?……あ、あなたねぇ!この間、『中間テスト、はっきり言って佳奈多さんなんか目じゃないくらい出来たよ』って、自信ありげに言ってきたじゃないっ!」
「え?誰が?」
「あなたに決まってるでしょーがっ!」

上機嫌な彼女はどこへやら、だむだむと地団駄を踏む、ヒステリックな女性になってしまっていた。
あー、一応ここ上階だし、物音には気をつけて。
なんて言ったら余計怒られそうだったので、また黙る。

「それで『私に勝てるの?』『いや、余裕だし』『じゃぁ勝負しましょう』『おーけー』ってなったのよっ!1週間くらい前の話よっ、思い出しなさいよ!」
「あ〜……あ、はいはい、思い出した思い出した」
「あなた……絶対、嘘吐いてるでしょ」

今度は地団駄をやめ、怒りを溜め込む様にぷるぷると震えだした。
風紀委員長様は、ボディランゲージがお好きならしい。
まぁ、元気なのが1番ってね。

「じゃぁわかった……うわー、佳奈多さんに負けたー、チョークヤシー」
「か、完全に馬鹿にしてるわね……っ!」
「ダメ?うーん……やっば、佳奈多さん8位とかスゴスギー、チョーソンケースルー」
「ぐっ!……はっ、そうやって意地を張るつもり?虚しいわね、直枝理樹」
「や、別に悔しくもないし。むしろ30位以内とか嬉しいし」
「だぁーっ!あなたもう少し素直な反応見せなさいよっ!?」
「あっはっは、それは佳奈多さんがいるから十分でしょ?」
「あぁぁぁっ!あなたっ、本当にイライラするわっ!」

こうして、僕のくつろぎタイムは潰された。
でも、こんな日もいいもんだと、顔を真っ赤にして怒る佳奈多さんを見ながら、しみじみと思うのだった。




「何綺麗に締めようとしてるのよっ!」
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