そういえばもうすぐバレンタインだねということでさくっと書いてみたんだ。












「佳奈多さん、ハッピーバレンタイン!」
「……は?」

差し出されたプレゼントに、佳奈多は目を点にさせた。
ピンクの紙袋は目の前の男には相当似つかわしくない。
いや、ある意味似合っていると言えなくもないが。
だがしかし、ここ日本において、この構図はどう見てもおかしい。
それは当然、佳奈多も思うところであった。

「いや、あの……普通、逆じゃない?」
「わかってる。でも、これが僕の気持ちだから、受け取ってほしいんだ!」
「……」

――え?何これ?
佳奈多は盛大に混乱した。
何気なく廊下を歩いていれば、突如現れた知り合いの男子生徒に、バレンタインという体でプレゼントを差し出された。
イベントから察するに、中身はチョコレートで間違いはないだろう。
確かに色々おかしい部分はあるが、女性から男性へ贈るというしきたりがあるわけではない。
珍しいことではあるが、絶対的にありえない事態とは言い切れないだろう。
だがしかし、佳奈多はこの現状を受け入れる事を良しとはしなかった。

「ま、待って!そ、それを受け取ることは――」
「どうして!?僕のプレゼントは迷惑!?丹精込めて作ったのにっ!」
「べ、別に嫌なわけじゃないのよっ?でも、ほら、その、ねっ!?」
「だったらイイジャナーイ!」

いつになく攻め気の理樹に、佳奈多は困り果てた。
いや、別段もらう分には全く問題はなかったし、どちらかといえば嬉しく思っていた。
この男が変だということは前々からわかっていたことであるし、こうしてプレゼントをしてくれるというのは純粋に嬉しいものであった。
だが彼女にも、引けない理由があった。
鞄にひっそりと押し込んでいた、ブルーの紙袋。
今朝妹にバレぬ様にこっそりと仕舞ったそれは、目の前の男に贈る予定のものだったのである。
しかもシチュエーションまで練り、何度もそれをシミュレートしていたり。
そしてその計画には、こんなイレギュラーは考慮されていなかった。
それはそうだろう、まさか相手側からプレゼントを渡されるなんて予想、誰が考えられようか。
まして、佳奈多がこの行事に乗っかるのは、初めてのこと。
見聞きしていた情報である程度の事は知っているとはいえ、いざ自分がやるとなると勝手は違うものである。
今まで幾多の緊急事態を乗り越えてきた彼女はしかし、直枝理樹という異分子に振り回され、その思考を正常に機能できずにいた。

「(どうして、こんな事に!?)」
「さぁさぁ!僕がカカオ豆から作り上げた『ちょこれいと』を、佳奈多さんの口に!」
「一から作ったの、あなた!?」
「もちろんですとも、ええ!」

だとすると、余計に渡しにくい。
佳奈多のそれは確かに手作りといえば手作りだが、チョコレートは既製品を使用している。
手の込み具合では、完全に負けている。
虚偽の可能性もあるが、この男ならやりかねなかった。
そして鞄を開けることが出来なくなったこの瞬間、佳奈多の練りに練った計画は、完全に瓦解してしまったのである。

「うっ、あ……」
「僕の真っ直ぐな気持ち、桃色の包装紙に包みました……届けマイハート!!!」
「ど……どうして、こんな事になったのよーーーっっっ!!!!!」

改めて、直枝理樹の恐ろしさを実感した佳奈多なのであった。






終わりだよ








この後、理樹のを受け取った後、ちゃっかり佳奈多も渡すとかにすればいいと思う。
何かもう理樹が原型留めてないけど、気にしないよ!



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