「何するんだよ」
 背中に壁を背負いながら理樹が目尻を釣り上げ、声を上げた。三人の男がにやけ面を浮かべ、理樹を囲むようににじり寄ってくる。
「おう、おう、可愛い顔して気が強いじゃねぇか」
 左に立つ、赤のバンダナとシャツを身につけた大柄な男がそう言った。剣幕など何でもないと言わんばかりににやけたまま、理樹の顔と体を眺め回している。厭らしい目だ、と理樹は嫌悪感を顕にする。
「嬢ちゃんが怖がってるじゃねぇか。やめてやれ」
 正面にいる男が大柄な男を手で制した。横から伸びてきた腕に男は一瞬目を見開いたが、苦笑して一歩後ろへと下がる。
「柄でもねぇこと言いやがる。恭ノ介よ、おれたちゃ別に嬢ちゃんをじっくり見る為にこんな事してるんじゃないんだぜ?」
「わかってる。だが、それなりに順序ってものがあるだろ?」
 恭ノ介と呼ばれた男が無表情でそう言うと、ゆっくりと理樹に近づいてきた。丁子色の髪をたなびかせ、切れ長の目で見据えている。理樹は背中を壁に押し付け、滑り落ちる様に腰を落とした。
「俺は周りを見ておこう」
「あぁ、頼むぜ謙吾郎」
 理樹は恭ノ介の肩越しから、謙吾郎と言われた、右にいた白髪の男が去っていくのを見た。道着を着た、屈強な男だ。見回りに出ると言っていたから、助けはもう期待できないだろう、と理樹は絶望感を膨らませる。がくがくと膝が震えるのがわかった。
「やっぱ上物だぜ、こいつは。たまんねぇ」
 目の前まで来た恭ノ介が、脚の間に体を捻じ込ませてきた。恐怖が走り、理樹は逃れようとしたが、恭ノ介がそれをさせんと肩を掴んだ。指が真っ白になる程に力が込められていて、理樹は思わず身を固まらせる。
「なんだよ、結局てめぇが最初にやりてぇだけじゃねぇかよ」
「俺が言い出したんだぞ? 最初くらい譲ってくれよ」
「だったら始めからそう言え」
 大柄の男は顔を顰め舌打ちすると、俺の分も残しておけよ、と吐き捨てる。振り向かずに頷くと、恭ノ介は空いている手で理樹の頬を撫でる。はっと我に返った理樹は立ち上がろうともがいたが、恭ノ介の肩を掴む手の力が強く、動くことが出来ない。必死に抗う理樹の様子すらも愉快なのか、恭ノ介はにたりと笑った。そして上着のボタンに手をかける。やめて、と理樹は目一杯に叫んだ。
 するとその瞬間、恭ノ介達の後ろの方で、人が倒れる物音がした。恭ノ介と大柄の男が何事かと振り返ると、謙吾郎が地に伏していて、傍に日傘をした、小柄な女が立っていた。
「なんだ、てめぇは」
 怒鳴り声を上げた瞬間、大柄な男が崩れ落ちた。男が倒れていく時、女の手にヨーヨーが収まるのを理樹は見た。
「このアマ」
 理樹から手を離し、恭ノ介が突進していったが、数歩走ったところで女のヨーヨーが顔に当たり、前のめりに倒れた。
 あっという間の出来事に、理樹は大口を開けたまま女を見つめた。日傘をしているので、理樹の視角からでは口元までしか覗うことが出来ない。白い日傘と肌の中に、赤い唇が映えていた。
 呆ける理樹をよそに、女は男共が起き上がってこないのを確認すると、このゲロ犬どもがと呟き、踵を返した。
「待って」
 呆け、ぼんやりと女を見送っていた理樹だったが、はっと我に返ると立ち上がり、声を掛けた。女は数歩歩いたところで立ち止まったが、振り向きはしない。
「あの、お名前だけでも、教えてもらえませんか」
  理樹が口早に叫ぶと、それに応える様に、女は肩越しからちらとこちらを覗った。空に溶け込む様な青い髪が日傘から零れた。
「名乗る程のモンじゃないですぜ、あちしは」
 小さく呟くと、女は再び歩き出した。そのまま一度も振り返らず立ち去る女を、理樹は引き止めなかった。
 後に理樹は、町でとある噂を聞いた。どこからともなく現れては悪者をこらしめる、日傘をした青い髪の女の噂。その素性は誰にもわからないが、その女はこう呼ばれていた。
 
 ロトンレディーみおっち、と。

  









    
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