人ごみの中、一人の少女が立ち止まる。 「どこに行ったんだ、理樹のやつ……」 少女――棗鈴は理樹と呼ばれた少年と買い物に来ていた。 「なんだ、理樹のやつ迷子になってしまったのか」 しかし、鈴は自分が迷子になったとは露ほどにも思っておらず、逆に理樹がはぐれてしまったと思い込んでいた。 「しょうがないな。探しにいってやるとしよう」 鈴は歩きだす。理樹を探しに。 「よお、お嬢ちゃんかわいいね」 まだ若干人見知りをしてしまう鈴は突然知らない男の人に話しかけられ戸惑ってしまう。 「こんなところに一人でいないでさ。遊びにいかない?」 自分は一人じゃない。そういいたいのに言葉がうまくでてこない。 「あー鈴! こんなとこにいた」 そんなことを考えてきたとき、理樹がやってきた。 「なんだあ、あんちゃん? あんたの連れか?」 鈴に絡んでいた男のうちの一人が理樹に絡む。 「え、そ、そうですけど……」 男たちは諦めがよかったのか、悪態をついてそのままその場所を去っていく。 「ふー、こわかった。でもよかった。鈴が見つかって……鈴?」 鈴がぼーっとしているのに気づいた理樹が声をかける。 「ねえ、どうしたの鈴。もしかして何かされたの?」 呆然とした表情をしていた鈴が、突然顔を赤くしていく。 「あいつら、理樹があたしの彼氏だって……」 鈴は笑顔になって理樹の手をとる。 「さあ理樹、買い物に行くぞ」 今度は迷子にならないように、この手を離さないように。
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