「おや?」

 人ごみの中、一人の少女が立ち止まる。
 その少女は周りをきょろきょろと見渡した後、一言つぶやく。

「どこに行ったんだ、理樹のやつ……」

 少女――棗鈴は理樹と呼ばれた少年と買い物に来ていた。
 しかし、人通りが多いこの街中で鈴は理樹とはぐれてしまったのか。

「なんだ、理樹のやつ迷子になってしまったのか」

 しかし、鈴は自分が迷子になったとは露ほどにも思っておらず、逆に理樹がはぐれてしまったと思い込んでいた。

「しょうがないな。探しにいってやるとしよう」

 鈴は歩きだす。理樹を探しに。
 しかし、そんな鈴の前に三人の男が立ちふさがる。

「よお、お嬢ちゃんかわいいね」
「どうしたの? 一人?」
「な、なんだ?」

 まだ若干人見知りをしてしまう鈴は突然知らない男の人に話しかけられ戸惑ってしまう。

「こんなところに一人でいないでさ。遊びにいかない?」
「そうそう、俺らと一緒にさ」
「大丈夫、おごってあげるから」
「あ、あたしは……」

 自分は一人じゃない。そういいたいのに言葉がうまくでてこない。
 逃げ出したくても男たちは三人で鈴の逃げ道を防いでいる。喧嘩したところで一人に対して攻撃しているうちにあとの二人に押さえ込まれるのは目に見えているだろう。
 こわい、鈴はそう感じた。せめて、せめて一人じゃなければこんな気持ちにならないのに――。

「あー鈴! こんなとこにいた」

 そんなことを考えてきたとき、理樹がやってきた。
 一生懸命探していたのだろう、額には汗をかいている。

「なんだあ、あんちゃん? あんたの連れか?」

 鈴に絡んでいた男のうちの一人が理樹に絡む。

「え、そ、そうですけど……」
「ちっ、彼氏持ちかよ……」

 男たちは諦めがよかったのか、悪態をついてそのままその場所を去っていく。

「ふー、こわかった。でもよかった。鈴が見つかって……鈴?」

 鈴がぼーっとしているのに気づいた理樹が声をかける。

「ねえ、どうしたの鈴。もしかして何かされたの?」
「あいつら……」

 呆然とした表情をしていた鈴が、突然顔を赤くしていく。

「あいつら、理樹があたしの彼氏だって……」
「え、ま、まあそう見えたのかもね」
「うん、あいつら結構いいやつだな!」
「え、な、なんで」

 鈴は笑顔になって理樹の手をとる。

「さあ理樹、買い物に行くぞ」
「あ、ち、ちょっと鈴!」

 今度は迷子にならないように、この手を離さないように。
 鈴はしっかりと理樹の手をつかんで走り出した。


 




    
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